6 一緒に登校
ピピピピ……!
枕元に置いてあるアラームがなると同時に、勢いよく止める。
うーんと大きく伸びをして、昨日のことを振り返った。
久しぶりにアオくんに会ったと思ったら、いきなり生徒会の臨時副会長に任命されて。
たぶん10年間生きてきた中で、一番色々とあった一日だったと思う。
制服に着替えて、ささっとリビングに向かう。ほのかに、だしの匂いがしてワクワクする。
「お母さん、今日の朝ごはんは、」
なに?
そう問いかけようとして、言葉が詰まる。
だって、リビングでアオくんがくつろいでいたから。
ほかほかと湯気が立っているコーヒーを優雅に飲みながら、「おはよ」と片手を上げた。
「おはよう、アオくん。なんでわたしの家にいるの?」
まだ覚めきっていない状態でなんとか聞く。
「あぁ、昨日のことがあったならな。陽依ならズル休みしかねないと思って迎えに来たんだ」
「ズル休みなんて、しないし」
そう紡ぐ言葉尻がどんどん小さくなっていく。
思い当たりがある出来事が多すぎて、断定することができない。
「ふうん?」
じとーっとした冷ややかな視線が向けられる。
その視線に耐えられなくなって、
「今日の朝ごはんはなにかな〜?」
って、ワザとらしく声を張り上げる。
「今日の朝ごはんは、卵かけご飯とタコさんウィンナーよ〜」
リビングの方からお母さんののんびりとした声が聞こえてきた。
「わーい、わたしの大好物!」
あっという間にテンションが上がる。
我ながら、単純すぎるな。
そう思いながら、朝ごはんができるのを待つのだった。
*
そのまま朝食を済ませて、学校に行く準備に取り掛かる。
ランドセルの内側に貼ってある時間割を頼りに、教科書を詰める。
その横で、アオくんが「宿題はやったのか?」なんて、ちくちく言ってくる。
「やったよ!」
「じゃあ、見してみろ」
「うぐっ……」
ほれと手を差し出されて、ピタリと動きが止まった。
「どうせ、陽依のことだから、葛西さんにでも見してもらおうとしてたんだろ」
「うぐぐぐ……」
二回も言い当てられて、言葉に詰まる。
「お前の後回し癖、そろそろ直したほうがいいぞ。いつか、取り返しのつかないことになる」
「取り返しのつかないことってどんなこと?」
「分からないけど、絶対に陽依にとって良くない結果になるだろうな」
「なにそれ! まるで占いの結果みたい!」
「はぁー。もう忠告したからな。どうなっても知らねでから」
「はいはい」
適当に受け流しながら、また教科書を詰めていく。
アオくんに急かされるようにして準備を終えて、ランドセルを背負う。
朝バタバタしていたからか、そろそろ学校に行かないと、遅刻してしまう時間だ。
「「行ってきます!」」
お母さんに挨拶を告げて、学校に向かう。
「なぁ、体育祭の種目の案を考えてきたか?」
「……あ」
すっかり忘れてた。
「だろうと思った。今から、考えるぞ」
「えー、今? 起きたばっかりだから頭が回らないよ」
「ああ? 今なんか言ったか?」
「イエ、ナニモイッテオリマセン」
アオくんの圧に負けた。昔から、怒らせるとコワイんだよね。
「ねぇ、アオくんはいいアイデアはあるの?」
「俺? 俺のアイデアはな……」
一回言葉を区切ると、ドヤッとした笑みを浮かべた。
「その名も、『障害物競走〜ファイナル〜』だ! この競技はジャングルジムなどをつかって様々な困難を乗り越えるんだ。簡単にいえば、障害物競走をグラウンド内にある遊具全部使って行うんだ。目玉は、高さ三メートルもあるボルタリングを用意して……」
「ちょっと、ストップ!」
まだまだ続きそうだった競技の説明をストップさせる。その説明をしっかりと聞いていたら、夜になってしまいそうだ。
「その競技、時間がかなりかかるんじゃない……?」
わたしがそうツッコむと、アオくんは『今気がついた』と言わんばかりの表情を浮かべた。
アオくん、普段はクールなキャラを装っているけど、実は運動のことになると止まらなくなるんだよね。
数年前、区で行われた低学年向けの運動会みたいなものがあって。
何個か同時進行で開催される競技があって、絶対に全部に参加するのは無理だったんだけど。
アオくんは「全部に参加する!」って言って聞かなかったんだ。
あの時はアオくんの両親がなんとか説得して、なんとか納めたんだったっけ。
あれから、身長が伸びても、イケメンさに磨きがかっても。変わらない部分があるのだと知って、ホッとする。
ん、ホッとする?
自分でもよく分からない感情が芽生えたことにちょっと戸惑う。
でも、そんな戸惑いはすぐに消え去った。
いつの間にか学校近くに来ていて、そこにいた生徒全員が、わたしたちの方をちらちらと見ていた。
その中には、おそらくアオくんのファンであろう子たちがいて。わたしを刺すような目で見ている。
…………怖っ。
身体がブルッと震えた。
一瞬で、辺りの気温が十度近く下がった気がする。
自分の身体を両手で包む。
すると、「どうしたんだ?」ってアオくんが怪しむような視線を送ってきた。
「なんでもないよ!」と、取れるんじゃないかってぐらい首を振りながら返す。
アオくんは眉をひそめただけで、言及してこない。怪しさ満点な態度を取っているのにも関わらず。
「ありがとう」とお礼を言うと、「どうしたんだよ、急に」と頬を掻いた。
「俺、今日日直なんだった。じゃあ、また後でな」
「うん、また後で」
下駄箱でアオくんと別れる。そのまま靴を履き替えるのだった。
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