4 はじめての会議

「陽依は今日が初めてだから、見ているだけでいい。これから色んなことを叩き込むから、覚悟しておくように」

「はいっ、わかりました!」

「今日は、花園に書記を担当してもらう。それでもいいか、花園」

「文句ないで〜す」

「今回の議題は、再来月末に行われる体育祭についてだ」

 アオくんが言ったのとほぼ同時に、

『議題:体育祭について』

 と、ホワイトボードに書き込まれる。

 かれんさんの字は、丸っこくていかにも女子!って感じ。いや、わたしも女子ではあるんだけどね……。

「種目は、学生目線で考えてほしいと校長からお願いされて、我々生徒会が決めることになっているが、いい案がある人はいるか」

 アオくんが、ぐるりと生徒会室を見渡した。

「はいはーい、借り物競走なんてどう?」

 真っ先に、蓮見先輩が案を挙げた。

 チャラそうでまじめになってなさそうなイメージがあった(失礼)って思っていたけど……。

 以外と、ちゃんとやっているんだなぁ、と勝手に蓮見先輩のことを見直す。

「で、お題は全部オレに関することにする! あー、かわいい子たちがオレに向かってかけて走ってくる! いい光景だ!」

 なんて、身体をくねらせらながら、言った。

 生徒会室の前で会った時から思っていたけど、蓮見先輩って少し……いや、かなりチャラい。残念イケメン、ってやつなのかも。

 生徒会にいるみんなが、じとーっと冷ややかな視線を向けていることに気付く様子もなく、ぶつぶつとなにか話している。

「まぁ、お題のことはとにかく、借り物競走はいいな。体育祭の定番だ」

 まだなにか話している蓮見先輩を華麗にスルーして、会議を進める。

「他にアイデアがある奴はいるか」

 はーいと控えめにかれんさんが手を上げた。

「SNSに載せる用のダンスとかはどうかな?」

「ダンスか……。これも体育祭の定番だな。SNSにあげるというのは、もしかしたら出来ないかもしれないが」

「えー、ただダンスしているだけじゃつまんないよぉ。天川学園のSNSは固っ苦しいじゃない? 華を添えようと思ったのに」

「華なんか添えなくていい」

「それに、動画撮影するってなったら、みんなも頑張ろう!って思うんじゃないかな? ね、陽依ちゃん」

 急に話を振られて、どきっとしてしまう。

「確かに、なにか頑張ろう!って思える要素があった方が士気も上がるかも」

「だよね、だよね!」

「わたしもそうだけど、運動が苦手な子でも楽しめる競技がひとつはあった方がいいと思うな。

 他の競技は、勝敗とか順位が決まってしまうものが多いじゃない? 

 ね、わたしからもお願い。みんなが楽しめる競技をひとつは入れてほしいな」

「うっ……。まぁ、仕方がないな」

「あっ、やっぱり陽依ちゃんには甘いんだ」

 借り物競走の世界から帰ってきた蓮見先輩が、にんまりとした笑みを浮かべながら、言った。

「ああ、そういうことね」

 わたしの横でかれんさんがうなずいている。

 もしかして、分かっていないのはわたしだけなのかな!?

「えっ、どういうことか教えてほしい、です……」

 おずおずと手を挙げて発言すると、なぜかみんなの表情が生暖かいものへと変わった。

「陽依ちゃんは、ずっとこのまま変わらないでね」

「氷高くん、これは長い戦いになりそうだよ、頑張れ!」

 蓮見先輩はわたしの肩にぽんっと手を置いて、かれんさんはなぜかアオくんにエールを送っている。

 ほんとうに、なんだろう。だれも答えを言ってくれないし。

「ねぇ、アオくんはなにか知ってる?」

「俺に聞くな。……この鈍感が」

 なぜか暴言を吐かれてしまった。

 この言葉の意味が分かるのは、もう少しあとの話だ。


「気を取り直して、他にアイデアがある者はいるか」

 アオくんがごほんと咳払いをして、仕切り直す。「陽依はなにかアイデアはあるか」

「えっ、わたし? 今さっきから色々と考えているんだけど、いいアイデアが出てこなくて……」

「まぁ、急に話を振られてもいいアイデアは出てこないよな。もうすぐで下校時刻になる。各々明後日までにアイデアを考えてくるように」

「「「はーい」」」

 食べ終わったスコーンの袋を鞄に仕舞い込んで、ティーカップを綺麗に洗って奥のお菓子部屋に仕舞い込んだりして、証拠隠滅する。

 そして、綺麗に掃除をして、ちりひとつ落ちていないような状態にして。

「スコーンの欠片とか落ちてないよね?」

 最後に一応確認してから、帰宅準備を始める。

「ねぇ、碧。陽依ちゃん、家まで送ってあげたら? 外も暗くなってきたし、女の子ひとりじゃ危ないでしょ」

「かれんさんも一緒に帰りましょうよ」

「あたしは蓮見くんに送ってもらうから、心配しないで。ね、蓮見くん」

「そうそう! だから、安心してね、陽依ちゃん」

 なにやら、ぱちーん⭐︎とウィンクをし合っているふたり。

 も、もしかして。ふたりって付き合っていたりするのかな!?

 ふたりとも美男美女だし、お似合いだ。

 あっ! もしかして、ふたりっきりで帰りたかったりするのかな?

 わたしにできることといえば……。

「あー、わたし、アオくんと帰りたいなぁー。ね、一緒に帰ろ!」

 少し棒読みになった感が否めないけど、かなり上出来な方だと思う。

 かれんさんと蓮見先輩には気づかれていないはず!

「えっ、陽依。そんなに俺と帰りたいのか?」

「うん、帰りたい! 早く帰らないと帰るのが遅くなっちゃう。行こ、アオくん!」

「へぇ、陽依が俺と……ふっ」

 なにやらぶつぶつ呟いているアオくんの手を引いて、生徒会を後にする。

「えーっと、あとはふたり仲良くお帰りください!」

 ……と、言い残して。

  


「たぶんだけどさ、陽依ちゃん勘違いしているよね」

「まぁ、いいんじゃない? 結果オーライ! じゃ、オレたちも帰ろうか」

「なんであんたなんかと帰らなくちゃいけないのよ」

「あー、ほんっと昔から口が悪いよな、かれんは。

「あんたに名前を呼ばれる筋合いはない」

「いいじゃんか。昔は司くんって呼びながらオレのあとをひょこひょこと着いてきていたのになぁー」

「それは昔の話でしょ! あー、なんでアンタなんかと幼なじみやってるんだろ!」

「はいはい、もうその話は100万回は聞いたわ。耳にタコができるほどにな」

 なんて、会話が交わされたことをわたしは知る由がないのだった。

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