3 生徒会メンバーとの出会い

「生徒会室はここ。生徒会室までの道のりは覚えたか」

「子供じゃないし、覚えたよ!」

「どうだか。昔、家までの道のりが分からなくて鼻水垂らして俺に泣きついたのはどこの誰だっけ?」

 うっ……、確かにそんなことがあったような。

 さすが幼なじみ。わたしのことをよく分かってる。

「うう、アオくんって、昔からわたしにだけイジワルだよね」

 ぼそっと、そんな言葉がもれた。

 アオくんの方を見てみると、なぜか顔を赤くして、「っ、それは、」ってなにやらぶつぶつ呟いている。

「あー、なんか騒がしいなぁ」

 男の子の声がして、生徒会室の扉ががらりと開いた。

「──え。あー、ごめんごめん。イチャイチャしてるところ邪魔したね」

 男の子──蓮見先輩はわたしたちのことを見るなり、きびすを返した。

「イチャイチャなんかしてません! 誤解です! わたしとアオくんはただの幼なじみですので!」

「ただの幼なじみ……か」

 あわてて蓮見先輩に呼びかける。あれっ、横にいるアオくんが傷ついた顔をしている。

 なんでだろう……。

「あっ! 君が小原陽依ちゃんか! 碧からよく話を聞い……グフッ」

 光のような速さで、アオくんが蓮見先輩の口を押さえた。

「ふぁにするんだよ、あおひ!(なにをするんだよ、碧!)」

「……うるさい。だまれ」

「アオくん、早く蓮見先輩を解放してあげないと。魂が抜けた様な顔をしているよっ!」

「あぁ、すまん」

「すまんじゃねーよ! 危なく三途の川を渡るところだったわ!」

 ようやっと解放されて、蓮見先輩は肩で息をしながら、文句を告げた。

「おまえが余計なことを言おうとしたからこうなったんだろ」

「余計なことって碧、まさかおまえ、ヘタレ──グフッ」

「そんなに口を塞がれたいようだな。だったら、望み通りやってやろうか」

 ゴゴゴ……とアオくんが、まゆを釣り上げて、怒りを露わにしている。

「そんな顔すんなって。悪かった、煽りすぎました」

 ひーっと悲鳴を上げながら、蓮見先輩は「悪かったって」をひたすら繰り返している。

「……ぷっ。ごめんなさい、笑っちゃいけないんだろうけど、ふたりのやり取りがあまりにもおかしくって」

 つぼにハマってしまって、腹を抱えて笑う。

 ひーひーと呼吸しながら、息を整える。

「こんなアホは放っておいて、さっさと行くぞ、陽依」

「ねぇ、アホってヒドくない!?」

 うしろでぶーぶー文句を垂れている蓮見先輩をスルーして、開きっぱなしになっている生徒会室に足を踏み入れるのだった。


 *


「わぁ、すごい!」

 生徒会室の中をぐるっと見渡して、驚嘆の声をもらす。

 天井にぶら下がったシャンデリア。机も椅子も茶色で統一されていて、海外映画の中に入り込んだみたい!

 さすが、名門の私立・天川学園。お金がかかっているなぁ。

 こんなところで生徒会活動できるなんて、素敵!

「あれっ、もしかして、あなたが小原陽依ちゃん!?」

 鈴を転がしたみたいに可愛らしい声。

 中央の方を見てみると、椅子に腰掛けた花園先輩がわたしたちの方を見て微笑んだ。

「はっ、はじめまして! わたしが小原陽依です! よろしくお願いします!」

「なんて可愛らしい名前! 陽依ちゃんって呼んでもいいかな? わたしのことはかれんって呼んでね」

「はいっ、かれんさん!」

 ぎゅっと両手を握られる。すべすべな手の感触が直に伝わってくる。

 髪がふわりと揺れて、フローラルな香りが鼻をかすめた。

 可愛らしい人は、手の感触や匂いまで素敵なんだなぁ……って、ぼんやりと考えていると。

「どうしたの? 陽依ちゃん?」

 かれんさんが可愛らしくこてんと首をかしげた。

 いけない、ぼーっとしていたみたい!

「いや、なんでもないです!」

 ぶんぶんと首を振る。

「なら、いいんだけど……あっ!」

 かれんさんが、鞄からなにかを取り出した。

 その瞬間、ぷ〜んといい匂いが鼻をかすめた。

 匂いの元を辿ると、かれんさんがランドセルから高級そうなスコーンが入った袋を取り出すところだった。

「今日、陽依ちゃんが来るって聞いて持ってきたの。もしよかったら食べてね」

 袋越しからもバターのいい匂いが香ってくる。

 ぐ〜〜っと盛大にお腹が鳴った。うう、恥ずかしい……。

「ふふっ。プレーンの他にもストロベリースコーンなんかもあるんだよ」

「でもっ、今間食は控えるようにしていて……うっ」

 擬人化したスコーンたちが「ボクたちを食べてよ〜」と訴えかける映像が、頭の中を駆け巡った。

 うっ……。実は春休みの間、食べては寝て食べては寝てを繰り返していたからピー(自主規制)キロ増えたんだよね。

 ダイエット……いや、スコーン……ダイエット……うっ……。

「いただきまーす……」

 ああ、なんて誘惑に弱いんだろう。

 かれんさんからスコーンが入った袋を受け取って。

 開けてみると、さらに濃厚なバターの香りが、鼻をくすぐった。

「このスコーンに合うのはダージリンかな。あたし、淹れてくるね」

 そう言い残すと、かれんさんは奥の部屋へと消えていった。

「ねぇ、アオくん。奥の部屋ってなにがあるの?」

「ああ、歴代の生徒会が隠しているお菓子部屋があるな。ポットなんかもあって充実している」

「お菓子部屋!?」

 なんて素敵な響き! 

 生徒会室にそんな部屋があるだなんて知らなかったよ。

「このことは、他の生徒にはナイショだからな。絶対に言うんじゃないぞ」

 なーんて、アオくんが釘を刺してくる。

 アオくん、昔から甘いのが大好きだからなぁ。この部屋のことがバレてお菓子が没収されるのが怖いんだね、きっと。

 にまぁ〜〜っとした笑みをアオくんに向けると、「なんだよ」とにらまれてしまった。

 アオくん、耳が真っ赤だ。

 昔から変わらないところを見つけて、嬉しくなる。

「は〜い、ダージリンが入ったよ〜」

 かれんさんが、奥のお菓子部屋から出てきた。

 ダージリンのいい香りがわたしの方まで香ってくる。

「アフタヌーンティーの準備も整ったし、生徒会会議を始めるか」

 アオくんのその言葉を合図に、みんなの表情が引き締まる。

 いよいよ、生徒会としての活動が始まるんだ。

 ドキドキしながら、ダージリンを口に含むのだった。

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