第7話 順調に
ボンッ、という爆発音とともに鮮血が舞う。
「うわっ、死んじゃった……チップ貰いますね」
「……じゃあ、次の試合始めようか」
粛々と死体を片付け、新しいカードの山をテーブルに乗せる。
『いやちょっと待てお前ら』
矢も楯もたまらず俺はプレイヤー達の動きを制した。
「はえ?」
なんだそのアホみたいな顔は。いや本当に何なんだ。
『人が死んでんねんで』
「はぁ……デスゲームですし」
「デスゲームですし」じゃねえだろ。いったい何なんだこいつらは。人の死に対してドライすぎないか。悟りでも開いてんのか。ブッダか。
状況を説明させてもらう。第1ゲーム『数比べ』一回戦は牧村香の不戦勝が決まり、次の試合を開始しようとしたところまでは大丈夫だろう。ここまでが前回のお話だ。
その後、淡々と2試合進み、淡々と2人死んだ。
何も会話なく、駆け引きもなく。淡々と互いにカードを引き、数字を比べ、チップを消費し、特に何の葛藤もなく、二人の首輪が爆発して死んだのだ。
『あのさあ……お前ら人の命を何だと思ってんの?』
「デスゲームの主催者に言われても……」
『やかましいわボケ!! 今俺の話をしてんじゃねえんだよ! お前らのことを言ってんだよ!!』
なんなんこいつらホンマに。ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う。知能は低いくせに言い訳ばっかりは達者でよお!! なんや、これがZ世代ってやつか!!
『もう、いいわ。本音言うわ。本音トークさせてもらうわ』
こいつらには「言わなくても分かるやろ」は通じない。はっきりと物事を言わないと何も分からないのだろう。俺も本音をさらけ出す。そうすることで信頼関係が生まれるはずだ。そうすれば、きっとこいつらも命の大切さというものが分かってくれるはず。
『あのな、俺は別に人が死ぬところが見たいわけじゃねえんだよ』
「はぁ?」
言いたいことは分かる。分かるが、黙ってろ。まずは俺の話を聞け。
『生死をかけたゲームの中でな。必死にもがき、抗い、助け合って、知恵の限りを尽くして生き残る。そういう戦いが見たいんだよ。そして、その中で死への恐怖から、もしくは金を得るための利己的な心と、他人を思いやる心のはざまで揺れ動く心の機微。そういうのが見たいんだよ。わかる?』
伝わっただろうか。
『もっと……必死にやってよ。死んじゃうんだよ? ここで頑張んなきゃいつ頑張るのよ』
正直プレイヤーの人選については部下(実際ヤクザ)に任せていた。その条件は「いなくなっても誰も気にしない、社会的影響の小さい人間」だ。
当然ながら社会の底辺層の人間を集めることになったのは想像に難くない。それは彼らのキラキラネームにも表れている。
努力というものをせず、何も考えず、怠惰に流されるままに生きてきた人生。そんなところに一発逆転の目が転がり込んできたっていうのに、なんでこんなに無気力なんだ。
俺だったらもっと死に物狂いになる。
とはいえ、彼らは俺じゃない。努力や必死さを他人に強要することはできない。俺が社会に出て最も強く学んだことだ。
強要はできない。だから「お願い」するんだ。
『お願いだから、もう少し真剣に考えて』
通っただろうか。俺の心は、本音は、少しでも彼らの琴線に触れることができたのだろうか。だがこれ以上は、もうどうしようもないのかもしれない。
「確かに」
口を開いたのは、おかっぱこと牧村香だった。
「私たちは、少し漫然とゲームをしすぎていたのかもしれない。命がかかっているというのに」
いや……うん。そうなんだけどさ。なんか、不戦勝で無傷で1回戦を勝ち上がった奴が言うとこう、なんか……釈然としないというか。
でも。
でもだよ。一人でもいい。それに気づいてくれた人がいたというのはいいことだ。一人が気付けば、それは行動に現れる。行動に現れれば、それはいずれは他の人も引っ張り始めるだろう。これはまだ一歩に過ぎないんだ。
やはり彼女は光るものがある。侮れないしたたかさがある。若干邪悪だけれども。
「ゲームを進めているうえで、一つ気づいたことがあります」
おお! マジかおかっぱ。「ゲームを進めているうえで」って言ってるけどお前は不戦勝でゲームしてないだろうが、とは思うものの、まさかとは思うがあの「仕掛け」に気づいたのか? だとしたら期待以上の成果だ。もし俺が思っている通りのことに気づいたんだとしたら、それはこのデスゲーム全体の中で最も大事なシステム。キモとなる部分だ。
「……言っても、いいんですか?」
『もちろんだ。ゲーム中であろうが、そうでなかろうが、プレイヤーの発言を制限することは一切ない』
むしろバラしてくれ。それを理解して、初めてこのゲームの本質が始まるといってもいい内容なんだ。本来はもっとゲーム終盤で気づいてくれるとよかったんだけど、ぶっちゃけ第1ゲームにしてすでに参加者の半数が死んでるからな。ある意味終盤だ。
「だったら言わせてもらいます」
しん、と辺りが静まり返る。生唾を飲み込む音が聞こえた気がした。その場にいる誰もが、牧村香の発言に注目しているように見えた。
「このデスゲームには、大きな矛盾点があるんです」
やはり間違いない。まだ第1ゲームでそれを決めつけるのは少々早計ではあるものの、しかし話は早い方がいい。それに「真実」を知っているゲームマスターから見れば、おそらく彼女の推測は正しい。まるで空気が固化したかのように張り詰める雰囲気。
「それは……」
「あ、チップ無くなりました」
ボンッ
え?
爆発音とともに鮮血が飛び散った。
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