第6話 やっと開始
「し……死んでる」
っとにさぁ……いい加減にしてくれよ。もう、なんだこれ。わざと死んでんのか。俺が悪いのか。
いや……俺が悪いのか。
確かにそうかもしれん。こいつらがちょっと油断すると死んじゃうか弱い生き物だってことはよく知ってたはずだ。だったら、ゲームの説明なんかを優先させずに、まず床に散らばったトランプを片付けるべきだった。
横着と油断が、ヒヤリハットを呼び込む一番危険な考え方だって知っていたはずなのに。これは、俺が反省すべきことなんだろう。
俺は落ち着いた口調でプレイヤー達に死体の処理と、床に散らばったトランプの片づけを指示する。死体は、さっきの上田
『よし……じゃあ、第1ゲームの、第2試合を始め……』
「チップは?」
ん? なんだ? 今喋ったのおかっぱか?
「
は?
え? こいつマジで何言ってんの? 強欲か。
『いや、不戦勝でゲームが成立しなかったから……』
「『不戦勝』は『勝利』ですよね。勝ったのにチップもらえないのおかしくないですか」
なんなんこの女。人の心とか無いんか。
しかし俺の返答を待たずしておかっぱは太陽がぶちまけたチップを無言で拾い集め始めた。こいつはいったい何なんだ? どういう育てられ方したらこんな人間になるんだ? こわい。オレ、コノ女、コワイ。
こわいが次のゲームに行こう。いや「次の」っていうかまだ一回もゲーム成立してねえよ。いつになったら命を懸けたデスゲームが見られるんだよ。もう7人も死んでるんですけど。
第2試合、というか実質的に第1試合だけど。とにかく対戦者は田中
田中軍と荻村大将の戦いだ。なんだよこの名前。
まあいいや。とにかくルール説明だ。
『まず二人の中央にカードの山を置く。ディーラーの田中が山から一枚カードを、次に荻村が山から一枚カードを引いてくれ』
よしよし、ここまでは大丈夫だ。こいつらのことだからここで山を崩しちゃってひと悶着、とかあったら嫌だったんだけどさすがにそこまでぶきっちょじゃないか。
『それぞれ引いたカードは何だ?』
「四角の6だ」
「葉っぱの3だ」
四角……ダイヤのことか? 葉っぱは……スペードか。なんかもう、いちいち大変だな。
『絵柄には意味はない。ルールは単純な数字比べだ。数字の大きい方が勝利。但しキングはエースに負ける。質問は?』
「チップはどうやって使うんだ?」
おお、いい質問じゃないか。やればできるじゃないか。
『プレイヤーはゲームの参加料として毎回一枚チップを払う。ゲームに勝利すれば参加料を返してもらい、さらにディーラーからチップを一枚貰う。負ければ参加料は返ってこない』
……理解できたかな? 大丈夫だよな。そんな難しいことは言ってないはず。それもそのはず。こいつらの知能レベルに合わせて大分ルールを即興で簡略化したからな。
『カードをチェンジしたいときはチップを一枚場に支払って山から一枚取って変更する。場にあるチップは勝者が総取りだ。何か質問は?』
「引き分けだったらどうなるんだ?」
いい! 非常にいい質問だ! それがこのゲームのキモなんだ。
『その時はゲームはご破算だな。チップは参加料もチェンジに支払ったものも全て手元に戻ってくる。途中でチップが全て無くなるか、十ターン経過時にチップの少ない方が負けだ。負けた方は第2ゲーム以降にも参加できない。リタイヤだ』
「リタイヤ……とは?」
『負けが確定した瞬間、首輪が爆発する。さっきみたいにな』
ゴクリ、と生唾を飲み込む音がする。いいね。こういう反応だよ。こういうのがやりたかったんだよ。
『そして、全てのゲームをクリアした時、一番チップを持っていた一人だけがチップを現金に交換して賞金を得ることができる。その時点で生き残っていた者もデスゲームからは解放される』
「一番……? 一番の人が複数いたら、同数の一位がいたらどうなる?」
これだよ。
ここがこのカードゲームだけじゃなくデスゲーム全体のキモになる部分なんだけど、こいつらがそれに気づいてくれるかどうか。そして気づいたとしてそれを実行できる「勇気」があるかどうか。
それが試されるのがこのデスゲームなんだよな。俺は満を持して、十分にためてから説明を続ける。
『チップを現金に交換できるのは一人だけだ。もしチップが同じ枚数の一位が複数できたならお前らで真の勝利者を決めろ』
「お前らが決めろ、って……もし決められなかったら?」
質問したのはおかっぱか。こいつは強欲で人の心を失ってはいるが、しかし参加者の中では一番勘が鋭そうな気がするな。いい質問だ。
『一位を決める方法は問わない。だがもし一位が複数のまま決められないならチップの換金はなしだ。ただ、デスゲームをやって、一銭も得ることができずに地上に放逐される。それだけだ』
「ふん、それならどっかでこのチップを換金してもらうだけさ」
『いや、だからね? 話聞いてた? それはただのプラスチックで何の価値もないからね? メル〇リかヤフ〇クで売ってもせいぜい二百円くらいにしかならないからね?』
ざわりとプレイヤー達が騒ぐ。やっぱり、なんも理解してなかったな、こいつら。
「じゃ、じゃあ……なんでこんなプラスチックの塊に一億円も出してくれるんだ……?」
「もしかして、ゲームマスターってすごくいい人なのか」
もうやだこいつらと会話したくない。問答無用で人を拉致してデスゲームさせるような奴がいい人のわけがねえだろうが。頭膿んでんのか。
今更ながらにこいつらと会話しても時間の無駄、ということが分かった。
じゃあそんなアホどもがこのデスゲームの真意を理解してくれるのだろうか、ということにはかなり疑問符が湧くが、もうデスゲームは始まっちゃったし、7人も死んでるしで後戻りなんてできないところまで来てしまった。
あとは、こいつらが火事場のクソ力……クソ知恵で覚醒してくれることを祈るしかない。
『では……デスゲームを開始する』
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