第4話 富士山
「し……死んでる」
おいおいホント勘弁してくれ。
5分だぞ。ほんの5分。たったそれだけの間席を外しただけなのに。なんでプレイヤーすぐ死んでまうん?
こんなことならポータブルのモニターと無線のヘッドセットを用意しとくんだった。でも多分トイレまでブルートゥース届かないしなあ……
まあ、過ぎたことを悔やんでも仕方ない。俺の目の前にあることが現実だ。
モニターの向こうではおかっぱキチ〇イ少女の牧村が一人の男を抱きかかえて呆然としている。おかっぱが殺したのか? 状況が分からん。とりあえず録画を確認しよう。
――――――――――――――――
「コーヒーかぁ……お茶はないのかな」
ほんの5分ほど前からレコーダーに記録されていた映像を確認する。男が発したセリフには聞き覚えがあった。俺がトイレに行く少し前、サンドイッチを食べ始めたプレイヤーが発した言葉だった。
おかっぱが抱きかかえている死体はこの発言をした男だ。確か名前は上田
特に異常はない。というかここまでは俺も見ていたからな。こんなのが死因になるはずがない。あるとしたら、サンドイッチを喉に詰まらせて窒息死とか? 後期高齢者じゃないんだからそんな死に方やめてくれよ。
「サンドイッチにお茶は合わないだろう」
上田十十の言葉に答えたのは先に席に座って食事をしていた田中だった。ここからは知らない会話だ。時間的にはまだ俺が席を立つ直前。便意を催して細かい会話の内容にまでは気が回っていなかったが、しかし何の変哲もない会話。ここからなぜ人が死んだのか。
「ああ~、俺静岡県民だからさ、サンドイッチにも緑茶なのよ」
上田が軽い冗談を言うと周りの者も笑顔を浮かべた。いいじゃないか。こういう簡単な自己紹介をしつつ、和やかな雰囲気を醸し出してほしかったんだよ。実に理想的な展開だ。
「へぇ、静岡県民なんだ」
しかし、向かいに座っていた田中だけが笑っていない。これは何を意味するのか。
「なあ、静岡県民って好きなスポーツを聞かれたら好きなサッカーチームを答えるって本当?」
「あ? 本当だけど、急になんだよお前。何県民だ」
本当なのかよ。
「俺か……俺は……」
録画でもわかる。急に空気がねばつくように雰囲気が変わった。ビリビリと殺気が伝わってくる。この男、静岡県民に何か恨みでもあるのか? こいつの正体は……?
「……山梨県民さ」
ちょっとわからないですね……
「山梨」という単語を聞いた瞬間上田はガタリと音を立てて立ち上がったものの、俺には全然ピンとこない。山梨県民と静岡県民って対立してるの? 初めて聞いた。なんか強キャラ感出しながら「山梨県民さ」とか言われても「だからなんやねん」なんですけど。
「フン、静岡から富士山を奪おうと企んでるコソ泥がこのデスゲームに紛れ込んでるとはな」
あ、そういうこと? 富士山がどっちの県かで争ってんの? どっちゃでもええやんけそんなの。
「コソ泥はお前の方さ。千円札の富士山はどこの景色だ? 言ってみろ」
千円札に富士山なんかあったっけ? 野口英世とかじゃなかったっけ?
「残念だな! 景色が何だろうが山頂は静岡県だ! 富士山は静岡のものなんだよ!!」
「あ!? ふざけんな! 山頂は両県に跨ってんだろうがよ!!」
「山頂を管理してんのは浅間神社だ!! 浅間神社はどこの県だ? 静岡なんだよ!!」
「二人ともやめて! 富士山のために争いなんかしないで!!」
いやホントにその通りだよ。「私のために争いなんかしないで」みたいなテンションで言われんのもなんかハラ立つけど、今回ばかりはおかっぱの言うことが正しいよ。小学生かお前ら。
「海のない県が偉そうに!」
「てめえ!!」
――――――――――――――――
結局上田の「海がないくせに」煽りにブチ切れた田中が殴り掛かって喧嘩が始まったようだが……えっと、これが二分前? え? なにこれ? マジで「富士山がどっちの県か」で殴り合いの喧嘩が始まってエキサイトして殺しちゃったってこと? うせやろ? マジで小学生の喧嘩やんけ。体は大人、頭脳はこどもじゃん。
「許せなかった……富士山頂を管理してるのが静岡の神社だったなんて……ッ!!」
火サスのラストみたいなテンションでケンミンSH〇Wやるのやめてもらえます?
ここからはリアルタイムの画像だ。激しく慟哭しながら叫ぶ田中だけどさ……泣きたいのはこっちだよ。
お前らホンット……ひと時も目が離せねえじゃねえかよ。乳幼児か。
もう一度言うよ?
俺が見たいのは人間ドラマなのね。信頼と猜疑心のはざまで揺れ動く、昨日までは普通の生活を送っていたはずの善良な市民。それがやがて狂い、正気と狂気のはざまで真の仲間を得る……そんな話が見たいのね。
それが何だ君たちは。
富士山が山梨と静岡のどっちかで殺し合い? 名探偵コ〇ンの殺害理由でもさすがにそんなしょぼいのねーよ。(あったらごめんなさい)
……六人死んで、これで十一人か……くそ、結局奇数になっちゃったじゃねえか。どうすんだこれ。第1ゲームは一対一のカードゲームなのに、一人あぶれちゃうじゃん。一人シードか? デスゲームでシードて。
っていうか十一人? 嘘だろ? 第1ゲーム終わったら残りたったの六人になっちゃうじゃん。まだ第1ゲームなんだよ!?
こいつら、命を何だと思ってやがるんだ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます