第四話 「欠乏」
ロベルの総魔力量は、外で鳴いている小鳥よりも少なく、──まさに雀の涙程の量だった。
魔術契約書により吸われた魔力は、一般人からすればどうと言うことは無い量だが、極端に魔力の少ないロベルからすれば致死量も良い所だった。
しかし、ロベルは
それは一重に、貧民街で培った生命力と生来の驚異的な回復力のお陰だった。
(⋯⋯危ない。意識が飛びかけた)
「ちょっと!? 大丈夫なの!?」
「ああ、問題無い。これで登録は終わったのか?」
「え、ええ。登録自体は完了しました。そしてこれが冒険者証です。これがあれば冒険者と名乗って依頼を受ける事が出来ます。──でもっ! そんなふらふら状態で依頼は受けさせませんよ! ただでさえ最近は新人の死亡率が高いんですから!」
「そうか、じゃあこの依頼を受ける」
「話聞いてました!?」
「──一度だけ言う。俺は一級冒険者とやらに成るつもりだ。出来るだけ早い方が良い。だからこの依頼を受けさせろ」
ロベルは受付のすぐ横にある掲示板から討伐の依頼書を剥ぎ取ると、受付嬢の机へ叩きつけた。
「あ、貴方はまだ子供なんですから、そんなに生き急がなくとも──」
「
「はぁぁあ、分かりましたよ! でもね、最初の依頼は絶対にこっちを受けてもらいますよ。良いですねっ!」
受付嬢は机の下から新人用の依頼書を取り出すと、意趣返しのように机の上に叩きつけた。
「薬草採取か。⋯⋯分かった、これにする」
「はい、承りました。そう言う素直さを最初から出して欲しかったです、貴方はまだ子供なんですよ?」
「貧民街じゃそんなものは関係無い」
「貧民街って、はは! ここはヴィーゼル辺境伯領の領都ペルン、言わば
ロベルには、そう言う受付嬢の目の奥は笑っていないように見えた。
「⋯⋯では、薬草採取の依頼を受注しておきます。この紙に書いてあるものと同じものを採取してきてください。外城壁を出て直ぐの場所に群生地がある筈です。この麻袋が満杯になるまで詰めてきてください。期限は明後日の正午までです。たかが薬草採取だからと言って舐めてかかると大怪我するかもしれません。十分気をつけてくださいね」
受付嬢はそれだけ言うと、薬草の書いてある紙と小さめの麻袋をロベルへ手渡した。
それらを受け取ったロベルは、足早にその場を去り、その足で薬草採取へと向かった。
◇◇
領都ペルンは、二重の城壁に守られた堅固な城郭都市である。
外城壁は高さ二十メートルの巨大な城壁で、外敵の攻撃や侵入を阻んでいる。
内城壁は高さ十メートルの城壁で、外城壁を突破した
外城壁の前面と、外城壁と内城壁との間には深い堀が作られており、日中は橋が下ろされている。
夜や緊急時は橋が上がる仕組みになっている為、領都内へ入るには日中でなければならない。
辺境とは言うものの、その実、物流や人流は他の領よりも頭一つ抜けているのが現状である。
武力と経済力共に、辺境伯家の主家である公爵家と渡り合える程に優れている。
そんな領都の中心にある城館は、この強大な
貴族の優雅さや上品さを兼ねつつ、何より実用性を重視した歴史ある城だ。その圧迫感は、難攻不落と名高い王城に迫る勢いである。
そんな城館を領都外から眺めていたロベルは、再び薬草採取へと戻った。
受付嬢の話では外城壁を出て直ぐの場所に薬草の群生地があるとの事だったが、ロベルが何度探してもそれらしきものは見つからなかった。
仕方無く近くの林や森の方を歩き、小山に登って探していた末に、頂上にて離れた場所にある城館を眺めていた訳である。
(騙されるたか、或いは
そう結論付け、ロベルは歩き出した。
下山をして、領都の方へ戻って行く。
帰りの道で、ふと横を見ると、渡された紙に書いてあるものと同じ薬草がちらほらと生えている場所がある事に気が付いた。
当然、受付嬢から言われた場所では無い。そもそも群生地と言える程生えている訳でも無い。
ロベルは麻袋の中へ採取した薬草を詰めていく。
妙な所で神経質なロベルは、一つ一つ丁寧に薬草を採取し、これまた丁寧に麻袋の中へ入れる。
見渡す限りにあった薬草を採取し終わる頃には、丁度麻袋は満杯になっていた。
ロベルが領都の方へ足を進めようとしたその時、小さな呻き声のようなものが聞こえたような気がした。
一瞬気のせいかと思ったが、確かに聞こえる。その断続とした呻き声は、それを発した人間がもう長くないと真に告げていた。
ロベルは耳を澄まし、呻き声の主の方向を探った。
(こっちか)
方角が分かったので、捜索を開始する。
呻き声の主は、ロベルが歩き出して直ぐに見つかった。
草木を掻き分けたその先に、深手を負って倒れている冒険者の姿があった。
見るからに装備が貧弱で、身長は低く、体重も無さそうだ。
ロベルと大して変わらない状態である。
違いと言えば、腹部に鋭い爪の掻き傷が無い事と冒険者が少女である事くらいである。
「ぅ⋯⋯うぅ⋯⋯」
「もう助からないな」
少女の腹部の傷は、かなり深い。今も体から迷子になったかのように血液が溢れ出ている。
「これは貰っていく。俺が有効活用してやる」
ロベルは少女の横に落ちていた麻袋と冒険者証を手に取ると、肩へと担ぎ上げた。
その際、茂みの奥に虎視眈々とこちらを狙っている狼がいることに気がついた。
僅かに茂みから出ている爪には、少女のものと思わしき血液が付着していた。
ロベルはそれに気が付かない振りをしながら、再び歩き出した。
背後から聞こえてくる小さな悲鳴を
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