『戦い』が不要な世界と最強の魔法使い

箒星 新華

第1話 『平和』と『新星・魔法使い』

 ......この世界には、古くから『魔法』が存在している。時には戦い、時には文明の進展の為にと多くの魔法使いに扱われ、そして魔法自身も発展を遂げて来た。


 ......ただ、その世界の姿も、何れは変わってしまう。戦いに強い魔法は、戦う事が必要な世界でのみ真価を発揮する。文明進展の魔法は、戦いが優先される時こそは必要が無い。戦いの後始末、所謂復興の際には、最高の力となるのだ。


 ......必要な時にこそ、その力が評価されるが、その時間も永遠には続かずに、やがて他の力が相対的に価値を見出される時が来ると、魔法は不要論の対象になる。


 ......遡る事三年前、当時は戦いに強い魔法が評価の対象とされていた。世界各地で戦いが続き、国家間での争いは日々熾烈な物へと変わる中、人々は全てを蹴散らす様な、そんな力を追い求めて魔法使いにその望みを託した。


 魔法使いはその声を聞き入れ、戦いに強い魔法使い達は、戦闘系魔法の精度を極め、文明進展に関する魔法が得意な魔法使い達は、活躍の場を奪われていった。


 ......時は進み、三か月前の事。遂に戦闘系魔法使いは、長期戦を打破する為の策を打ち出し、前線へと進出した。当時の魔法使いの間でも最高の力を行使する、魔法界の新星と言われた『新星・魔法使い』の『箒星 新華』を筆頭に、数人の魔法使い達が前線で活躍を上げ、三年続いた大戦に終止符を打った。


 ......勝利を掴んだ新星・魔法使いの属する地域は、近隣国との講和を締結し、大戦の惨禍を二度と起こさない事を目指し、『非戦争世界』を提唱した。


 戦いを必要とせず、世界の全地域が一つの方向へと進む事を決めるこの講和内容は、当たり前の様に称賛され、やがて動きを見せる様になって行った......。


 ただ、この体制の代償は勝利の立役者である、箒星 新華に大打撃をもたらした。戦いによって掴んだ勝利と平和は、戦いを否定する形で実現される事になったのだ。


 ......戦闘系魔法の行使者達は、皆戦い以外の魔法を会得する様な事はしなかったが故に、その存在を否定されている事と同義であった。


 世界が動く中で徐々に主導権を取り戻したのが、文明魔法の行使者。戦いで後退した産業・工業・社会体制を己の力で全て復興させ、戦闘系魔法使いが生んだ被害を全て無かったかのように戻した。


 非戦争世界論の誕生以降、永遠に戦闘魔法の力が認められる事は無いと悟った新華は、新・星魔法の攻撃系統を全て無力化し、やがて姿を見せなくなった。


 ......『平和』を希求する世界と、自分が一番得意とする魔法を否定された一人の最強の魔法使い、箒星 新華の進む道は、ただ一つしか残っていなかった......。




 夏が訪れ、先日までは暖かいと感じていた日差しも強くなり、木々も鋭く吹き抜ける風に揺られ微かに音を立てている。......大きな森の中にある少し開けた場所。そこにはたった一人、小さな魔法使いの男の子が住んでいた。


 「......はぁーっ。今日もいい天気だねぇ」


 ......箒星 新華。かつては最強と言われた新星・魔法使いだが、戦いを不要とするこの世界ではもう活躍の場が残っていない。そんな訳で、人目につかない雄大な自然を少しばかり開拓し、そこに自身の誇る魔法で生活できる状態を整え、それでひっそりと暮らしているのだ。


 ......晴れで溜息を零す新華は、夏の暑さに弱い。最強の魔法使い唯一の弱点は、まさかの暑さで、火炎魔法を行使されてしまえば、その最強に勝てるんだとか。


 ......最強と言う熟語には圧倒的な強さが裏付けられている様にも思えるが、実際は意外な弱点を突かれていないだけでもある。


 「......今日のお仕事は......っと。意外と簡単に終わりそうだね」


 まるで誰かと話をしているかの様に見えるが、新華は独り言を呟いているだけである。最強と言われてた時からそうだが、新華は寂しがり屋でもある。戦争の終結に動いた時も、新華は独りで向かうべきと言われたが、寂しがり屋を理由に断固としてその意見を断った。今では森の中で暮らす事も出来ているが、当時はその姿を予想出来る魔法使い等、誰一人として居なかっただろう。


 ......子供っぽいと言われる事もよくある。暑がりで、その上寂しがり屋と来れば、そう言われる事も無理はない。......最強の魔法使いで、その上戦いを終わらせたとなれば、一人前の魔法使いにも見えるのだが、実際は本当に子供である。


 ......ここで自己紹介をしておくならば、箒星 新華は新星・魔法使いで、称号の通りに、『新・星魔法』と言う魔法を扱う。年齢は十五歳で、見た目はその半分位とも言われた事がある。......完全に子供の姿であり、中身も子供そのものなのだ。


 ......ただ、最強と言われるだけあって、実力は侮れない。全てを蹴散らす様な魔法を放っては、百人相手でも余裕綽々の勝利。深い海の様な青色の瞳を敵に向けては、一切の恐怖感も抱いていない様に魔法を振るい、そして勝っている。


 ......魔法使いの間でも強者と名高い存在が居るのだが、勿論新華はその一人。

金色の美しい髪と、白色で差し色は青色の魔法正装。赤色のマントを羽織り、髪には新星・魔法使いを象徴する、青色の星型髪飾り。そして最強の称号である金色の王冠を載せている。......その姿から、『絶対王者』と世に知られているのだ。


「......そろそろ街に出る様な依頼も増えるのかな??」


 ......新華は魔法が否定されてから、完全に便利屋状態になっている。戦闘に役立つ魔法は全て忘れ、残った魔法は『移動・雑用・旧星魔法』の三系統のみだ。


 移動系とは、文字通りに移動に役立つ魔法を数多く取り揃えた系統である。瞬間移動から、一時的な走力の向上、更には物体を動かす事だって出来るのがこの系統だ。


 次に雑用系統の魔法についてだが、これは戦いに使っていた魔法のエネルギーを抑えた魔法全般を指している。......火炎魔法であれば、業火の状態からマッチ棒一本分まで、氷雪魔法であれば氷が生成できる位。所謂遊びに使える程度の状態にした物を取り揃えたのが、この魔法系統だ。


 ......新華の使い道は、蝋燭に火を灯す事、暑い夏には体温を下げる為に使う程度で、一見シンプルだと思うのだが、正直これが残っている限り魔法使いを辞めるつもりは無い位、便利な系統だ。


 最後に旧星魔法とは、新・星魔法の枠に入らない魔法群の事だ。新・星魔法の大半が攻撃系魔法だったので、追加で組成した魔法のみを集めている。......用途としては先程の雑用魔法と殆ど同じなので、ある様で無い魔法系統だ。


 ......便利屋新華の最近のお仕事は、近くの街から飛んでくる依頼を、お得意の魔法で解決する事だ。依頼と言っても凄く簡単で報酬が出る訳でもない。例えばだが、魔法の展開に必須な魔法陣や魔法式の添削、魔法薬の調合、一番大きな依頼でも治癒魔法で医療のお手伝いをする程度だ。


 ......新・星魔法の威厳は何処へ行ったのやらと思うが、戦いのみ極めた魔法使いの新華に、こうして魔法を使う依頼が届くのは、正直嬉しい気持ちになる。

自分の魔法が戦い以外でも価値を見出されていると思うと、僕もまだ見捨てられていないのかと、そう思わせてくれている気がするのだ。


「......依頼も簡単そうだし、さっさと終わらせちゃいますか!!」


 ......新華は依頼の書かれた手紙を握り締めて、意気揚々と外へ飛び出した......。




 ......この世界から戦いが消えて、もう少しで三か月が過ぎようとしている。


 文明の発展と世界全体の共存を望んだ新たな考え、非戦争世界論が進みゆく中で、戦闘系魔法使いは自分の立場に不安感を抱いている。


 ......かつて最強と言われた箒星 新華は、その現状とは反対に、呑気で優雅な魔法使いライフを満喫し、毎日を謳歌しているように見えた。


 ......『魔法の使い道は、それだけじゃない』


 新華がある時そう言っていたのは、戦闘系と文明進展系の二系統の魔法に分類されると、自分の魔法は分類された方向でしか活躍出来ないと思ってしまう。


 ただ、実際はそうとは限らない。戦いに強い魔法だって、新華の魔法の様に文明進展の為にだって活躍は出来る。......その逆も然りだろう。


 ......戦いが出来ないからって、戦闘魔法使いは気落ちしなくても良いんだ。


 どんな形であれも、自分が満足出来る魔法の使い方をするのが一番なんだ。


 ......それが、戦う必要のない世界の、『魔法の在り方』なのだ......。

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『戦い』が不要な世界と最強の魔法使い 箒星 新華 @Houkiboshi-Shika

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