下山 思わぬハプニング

(ザクザクと地面を踏みしめる音)


「先輩、足もと気を付けてくださいね。登りより下りの方が転びやすいですから」


「ゆっくりでいいですからね。ズルッていかないように気を付けてください」


「下りの方が怖いですよね。私が先導するのでついて来てくださいね」


「よいしょ、よいしょ」


「あ、葉っぱの上は滑りやすいので気を付けてくださいね」


「え? 前見て歩けって? そうですね! 気を付けます!」


「この辺りは傾斜がきついので慎重に行きましょう」


「はぁ、今日は楽しかったなぁ。山の自然に囲まれてリフレッシュできたし、先輩ともたくさんお話できたし」


「それに、先輩の彼女にもなれたし」(ボソッと恥ずかしそうに)


「ふふっ、今日のことはずっと忘れないと思います。それくらい私にとっては大切な思い出なので」


「付き合ってからのことを想像すると、ワクワクします。いっぱいデートに行きましょうね。登山デートにも付き合ってくれると嬉しいです」


「先輩のためにご飯作ってあげたいなぁ。今日は簡単な料理だったから、今度はもっと手の込んだ料理をご馳走しますね」


「それから、それから~」


(ズルッと滑って転ぶ音)


「きゃっ!」


(主人公が咄嗟に手を掴んで庇う)


「いたたた……転んじゃいました……」


「ああっ! 先輩、すいません! お尻で下敷きにしてしまいましたね。私のこと、庇ってくれたんですか?」


「お怪我はないですか? どこか痛い所は?」


「……大丈夫? はあぁ……良かった。びっくりしたぁ」


「すいません。気を付けてくださいって散々言っておいて、自分で転んでしまって……。お恥ずかしい限りです」


「あっ……この体勢、ちょっと近すぎますね。これじゃあまるで、後ろから抱きしめられているみたいで……」


「ごめんなさい。すぐに退きますね」


「ふえ? 先輩?」


「あの、離してもらっても……」


「えっと、嫌というわけではないんですが、恥ずかしくて……」


「もうちょっとだけ、このままで? ……分かりました。いまは他の登山客もいないので、ちょっとだけですよ」


「はわぁ……顔が熱くなっていた……恥ずかしい……」


「でも、すごく嬉しいです」


「ずっと、こうやって抱きしめてもらいたかったから」(小さな声で)


「心臓がドキドキして張り裂けそう。これ絶対、登山のドキドキじゃないですよ……」


「……確かめてみます?」


「いいですよ? 先輩だったら……」(恥ずかしそうに)


(シャツの上から触れて、どくんどくんと心臓の音を確かめる)


「ほら、ドキドキしているでしょう?」


「今日の私、凄く大胆ですね……」


「これも、山のせいってことにしておいてください」


(木々が揺れる音、鳥の声)


「……あ、大変です。他の登山客が来ちゃいました。邪魔になっちゃうといけないので、行きましょう」


(立ち上がって、泥をはらう音)


「ほら、先輩も立って」


「そんなに寂しそうな顔しないでください! これ以上は他の人の迷惑なので!」


「それじゃあ、先輩、ちょっとだけ耳貸してください」


(後輩が耳元に近寄る)


「続きはまた、今度しましょうね」(耳元でこそっと)

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