山頂 最高のご褒美

(ザクザクと地面を踏みしめる音)


「はあ、はあ……。先輩、山頂までもう少しですよ。頑張りましょう!」(息切れしながら)


「山頂付近は傾斜が急なんです……。足元も岩場になっているから歩きにくいですよね」


「ゆっくりで大丈夫ですよ。滑らないように気を付けてくださいね」


「がーんばれっ、がーんばれっ」


「はあ、はあ……。あとちょっとです」


「ほら、頂上が見えてきましたよ。行きましょう」


「はぁ、はぁ……。あとちょっと。よいしょ、よいしょっ」


「もう少し……」


(ザクザクと地面を踏みしめる音)


「登頂! わぁー! お疲れ様です!」


(パチパチと拍手する音)


「達成感が半端ない? ふふっ、分かります! 自分の足でここまで登って来たんです。それは誇るべきことですよ!」


「初めての登山で山頂まで来られたのは凄いですよ。しんどそうだったら、途中で引き返すことも考えていましたから。無理は禁物ですからね」


「先輩、よく頑張りましたね。お疲れ様です!」


「ふふっ、喜ぶのはまだ早いですよ。登頂したら最高のご褒美が待ってるんですから」


「先輩、目を瞑ってもらっていいですか?」


「そうそう。お見せしたいものがあるので、目をつぶったままついて来てください。私が手を繋いで誘導しますね」


(ぴとっと手を繋ぐ音)


「手を引くので、ゆっくり歩いて来てくださいね。そうそう、ゆっくり、ゆっくり」


「もうちょっとです。転ばないように気を付けてくださいね」


「はい、ここでストップ」


「目を開けていいですよ」


(風が吹いて木々が揺れる音)


「頂上からの景色です。絶景でしょう?」


「ここからだと町が一望できますね。今日は天気がいいから、遠くの町までよく見える。町の向こうには、山も見えますね」


「家も学校も、山の頂上から見るとあんなに小さいんですね。こうやって町を見下ろしていると、自分が狭い世界で生きていることを思い知らされますね」


「どうですか、先輩。頂上からの景色は?」


「感動した? ここまで連れて来てくれてありがとう?」


「ふふ、喜んでもらえて良かったです」


「そうだ! せっかくなので頂上から大声で叫んでみませんか? ストレス解消になりますよ」


「まずは先輩からどうぞ。ほら、恥ずかしがらずに」


(風が吹いて木々が揺れる音)


「……ふふっ、ヤッホーって、ベタですね。別に良いんですけど」


「じゃあ、今後は私が叫びますね。緊張するな。先輩、よーく聞いていてくださいね」


(すぅーっと息を吸う音)


「先輩、大好きーーーー!」


(やまびこで何度も声が反響する)


「えへへ、言っちゃった」(恥ずかしそうに)


「これが私の気持ちです。ずっと前から、先輩のことが好きでした」


「本当は今日告白するつもりじゃなかったんですけど、一緒に山に登って好きって気持ちが溢れかえってしまいました」


「あの……返事はすぐじゃなくても構わないので、ゆっくり考えてください」


「え、先輩どうしたんですか? そんな真剣な顔で景色を見下ろして……」


(風が吹いて木々が揺れる音)


「え?」


「俺も好きだ?」


「嘘……本当ですか?」


「というか、私の真似して叫ばなくたっていいのに……!」


「あ、やばい、嬉し過ぎて、涙が出てきちゃいました」


(ぐすんと洟を啜る)


「本当に本当ですか? 私じゃなくて、山が好きとかそういうオチじゃないですよね?」


「ずっと気になってた? 一緒に山に来て、もっと好きになった?」


「そうだったんですね。勇気を出して登山に誘って良かったぁ」


「えっと、それじゃあ、先輩の彼女にしてくれるってことですか?」


「嬉しい! これからは後輩じゃなくて、彼女として先輩の隣にいられるんですね!」


「信じられない。夢を見ているようです!」(はしゃいだ声)


「えっと、それじゃあ、これからは後輩ではなく彼女として、よろしくお願いしますね」

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