8合目 山ごはんを作ろう
(ザクザクと地面を踏みしめる音。鳥の鳴き声)
「はぁ、はぁ……登り初めて1時間くらいでしょうか。傾斜が急になってきましたね」
「先輩、大丈夫ですか……って、ヘロヘロじゃないですか! ほら、手を出して。引っ張ってあげますから」
(手を繋ぐ音)
「よいしょ、よいしょ、もうすぐ天狗岩に到着ですよ。頑張りましょう」
「……ん? しんどいけど楽しい? 生きてるって感じがする?」
「ふふっ、その気持ち、分かります」
「ほら、天狗岩が見えてきましたよ! あそこで休憩しましょう」
(ザクザクと地面を踏みしめる音)
「天狗岩に到着です! ほら、あそこの岩を見てください。岩の形が天狗に似ているからそう呼ばれているみたいですよ」
「……って、先輩、本当にヘロヘロですね。息上がっていますし」
「ちょっと休憩しないと無理? そうですね。ここに来るまで傾斜がきつい道が続いていましたからね」
「うーん、それならいっそ、ここでお昼休憩にします? 本当は頂上で食べようと思ったんですけど、先輩疲れていそうだし」
「その方が助かる? うん、じゃあそうしましょうか」
「今日は私が山ごはんをご馳走します。色々準備してきたんですよ!」
(鼻歌交じりにリュックから道具を取り出す音)
「お弁当を持ってきたわけじゃないですよ。ここで作るんです。ほら、シングルバーナーとメスティン」
「まあ、作るといっても、そんなに凝ったものは作りませんけどね」
「山でご飯を作るのは意外でした? おにぎりとかを作ってを持っていく方が楽ではあるんですけど、山でご飯を作るのも結構楽しいんですよ?」
「今日のメニューはトマトパスタです」
「材料は、早ゆでパスタとトマトジュース、コンソメ、それと家で下準備をしてきたブロッコリーとベーコンです」
「あそこの平らな岩で作りましょうか」
(タッタッタと後輩の足音)
「じゃあ、さっそく作っていきます。すっごく簡単なんですよ」
「まずはメスティンにトマトジュースを入れます。紙パックのジュースだと使い終わった後に畳めるから便利なんですよー」
(トクトクとトマトジュースを入れる音)
「次に顆粒タイプのコンソメを入れてよく混ぜていきます」
(割り箸で混ぜる音)
「あとは火にかけて沸騰するのを待ちましょう」
「ふふっ、キャンプみたいで楽しい? そうですね。山でごはん作るのって、ワクワクしますよね。次は何作ろうかなーって計画するだけでも楽しいです」
「先輩は料理するんですか? あんまり? そうなんですね」
「私は結構料理得意ですよ? 良かったら今度お弁当ってあげましょうか。……ってそれは流石に迷惑かぁ」
「え? 全然迷惑じゃない? ふふっ、そんなこと言うと本気にしちゃいますよ?」
(ぐつぐつと沸騰する音)
「あ、沸騰してきましたね。そしたらパスタとブロッコリー、ベーコンを入れていきましょう」
(食材を入れる音)
「あとはパスタが茹で上がるのを待つだけです。簡単でしょう?」
「わぁー……いい匂いがしてきましたね。早く食べたいなぁ」
「ふふっ、いまさらですけど、先輩とこうして山に来ているのって不思議ですよね。一緒に出掛けたこと自体、初めてじゃないですか」
「誘うの結構緊張したんですよ? 断られたらどうしようって。先輩登山とか興味なさそうだし」
「え? 他の人からの誘いだったら断ってた? へ、へー……そうなんですね」
「先輩はそういうことサラッと言うから困るなぁ」(小声で)
(ぐつぐつと沸騰する音)
「あ、そろそろいいですかね? 火を止めますね」
「うん、パスタの固さも大丈夫そう。シェラカップに盛りますよ」
(パスタを金属のカップに盛る音)
「完成です! 美味しそう? ありがとうございます!」
「ささっ、食べてみてください」
「ちょっと熱そうですね。ふーふー」
「あむっ。んーっ! 美味しいです!」
「先輩は? どうですか? 美味しい? 良かったぁ!」
「山の中で食べるご飯って、いつもより美味しく感じますよね。今回のも調理方法は簡単ですけど、結構おいしいですよね!」
「え? すっかり胃袋を掴まれた? あっはっは、大袈裟ですよ」
「でも、喜んでもらえて嬉しいです。たくさん食べてくださいね」
「こうして二人でご飯を食べていると恋人になったみたい」(小声でボソッと)
「ん? なんでもないです」
「ご飯食べ終わったら、山頂目指して登りましょう。もうひと頑張りですよっ!」
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