二十二 引越し挨拶に来たクソバカにパンチ
話が原大和朝廷へそれたが、元にもどそう。
トラの説明によれば、加具土神さんは、原大和朝廷に使えた広報官的仕事をしていた人物・超能力者だ。火の神で、心のエネルギーの管理し、迅速にことを伝える神だ。
『神の心にかなった者はうまくゆく。己の心に火を点け、人の心に己の心を伝えよ』
『ことは成るべくして、成る方向へ進む』
これが加具土神さんの言葉だ・・・。
ことの成り行きを総合すると、
『加具土神さんは、あたしの相手が一階にいると教えてくれた』
ということにたどり着く・・・。
もう十時。今日木曜は講義は休講。一日休みだ。あわてることはない。
しかし、トラに、
『なりゆきにまかせて一階の住人は観察するよ』
と話したが、やはり気になる。
「相手は医者なんだろう?」
「そうとはかぎらん。未来の医師かも知れぬよ」
「そうなると医学部か・・・」
どんなヤツか、顔を見に行こうかな・・・。
「やめておけ。成るようにことが進むゆえ、へたなことはするな。よいな?」
「自然の流れに棹させば、全てがオジャンってことか?」
あたしの問いにトラが妙な顔をしている。
「・・・全てがぶち壊しになるってことか?」
今度は、トラが納得している。
「そうじゃ。放っておけば、向こうから、サナに会いに来るよってにのう・・・」
トラがそう話していると、ドアチャイムが鳴った。
「ほれ。来きおったぞ・・・」
「はーい・・・」
あたしは玄関へ行った。
玄関監視カメラのモニターで確認すると、黒縁メガネのオタクっぽいのが立っている。ちょっと長髪で、明らかに背が高い。
「なんでしよう?」
あたしはモニターにむかってそういった。
「ああ、下の階に越してきた、二階堂です。
これ、引っ越しのあいさつ代わりです。
蕎麦です。乾麺ですから、茹でて食べてください・・・・」
そういって階下の住人は、平たい箱の包みをドアの郵便受けに入れた。
ゴソゴソと音がして、郵便物を受けとめるドアのカゴ状部分に、平たい箱の包みがコトンと音をたてた。
おっ!なんと!N市の、〇隠蕎麦ではないか!あたしの母の地元のお蕎麦だぞ。
「あの・・・。ちょっと待ってください・・・」
モニターでは、階下の住人が背をむけてドアの前から去ろうとしてる。
あたしはドアを開けた。階下の住人はドアに背をむけたままだ。
「あたしは中林さなえ。よろしくね。〇隠蕎麦をありがとう。あたしの好物なんだ・・・」
あたしがそういうあいだに、階下の住人がこちらをむいた。
住人はあたしよりはるかに背が高い。黒のトレーナーの上からも、競泳のスイマーのごとき、がっちりした体型がわかる。無造作にのばした長髪に近い髪だ。
カミさんと下界の人のご対面だ。
「こいつ・・・」
一階に越してきた、二階堂・・・。
あたしは階下の住人の腹に、思いきりパンチを食らわしてやった。
「ウッ!イテテテ・・・」
階下の住人は胃のあたりをおさえて呻いてる。
あたしが通学する大学は都心の文教地区にある。そして、このアパートは大学のすぐそばだ。
あたしの実家はM県R市。そして母の実家はN県N市だ。N市の〇隠蕎麦は有名だ。
そして、ソシテだ!母の旧姓は、二階堂だ。母の実家の苗字は二階堂なのだ。
このクソバカ、あたしが大学に入るまで、家庭教師するなどといって、M県R市のあたしの家にちょこちょこ来ていた。
当時、このクソバカが通学していたのはM県R市のM大医学部で、あたしの家の近所に下宿してた。
それが、あたしが大学に入って都心の文教地区に引っ越したとたん、勉学が忙しくなったといってプッツン。音信不通だ・・・。
スマホだってパソコンだってあるのに、いっさい連絡無しだ。あたしが連絡しても返信ナシだ。
そのことを母に話したら、
「医師になるので忙しいのよ。二階堂の血筋は頭脳だけは優秀だから・・・」
と妙なことを話してた。
頭脳だけは優秀ということは、他は優秀でないことだぞ・・・。
母はクソバカと音信不通になった理由を説明したつもりだったのだろうか?
そんなことは、まあいい。とにかく、今、そのクソバカが目の前にいる。
「いきなり殴るな・・・」
「なんだよ。また鍛えたのか。腹筋?」
「ああ、水泳でな」
クソバカはあたしより五歳上だ。クソバカは忘れたかも知れないが、あたしはクソバカとのことを思いだしてる・・・。あたしとクソバカは、ある面、幼なじみだ。
あたしの家はM県R市にある。母の実家はN県N市、旧姓は二階堂だ。
そしてこのクソバカ・二階堂真介の実家もN県N市だ。
あたしが幼いころから、あたしたち家族は、病弱な父の静養を兼ねて、なにかにつけて母の実家のN県N市に帰省していた。そして、遠縁に当たるクソバカとは、その時からの付き合いだ。
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