十二 猫賢者は腹話術

 トラは酔っぱらうと態度がでかくなる・・・。そう、態度がでかくなって、猫じゃなくって大虎になる。あの、最初に虎がボイスチェンジャーを通してしゃべったように・・・。

 そう思っているあいだに、トラがシロの膝枕に頭をのせ、ごろりと仰向けになって寝転んだ。


「サナ!みんなに話してやれ!今回のアイデアは、わしのアイデアじゃと。

 メグもみんなも、わしは大好きだ。ベビオの餌食にはさせぬ!

 ヘビオが好きなのは、腰のくびれた、ちょっと尻の大きなかわいいみんなぞ。

 ヘビオはそういう性格なんぞね。みんなを好きぞね。だから、メグのほかにも、ちょっかいは出すが、メグも大好きぞね・・・」

 酔っぱらったトラはそういって、シロの脚を撫でている。

 静かにしてろっていったのに、くそっ!あほっ!トラの秘密がバレちまったぞ!大虎の大馬鹿め!

 あたしがそう思っていると、またまた、トラが口走った。

「サナ!早う動画を送れ。ふつうの操作で送るのじゃぞ!」

 あほ!余計なことをいうんじゃない!シロ!トラの口を封じろ!

 あたしの思いを感じ、シロがトラの口に口づけして、トラの言葉をさえぎった。


 みんなの顔を見ると、全員は顔に?!マークが付いたように固まっている・・・。

 ああっ・・・、なんて説明していいかわからなくなってきた・・・。

 とにかく、動画を送ろう・・・。

 あたしは、

「みんながメグと彼氏に会いたがってるよ。

 水曜の講義が終ったら、メグの彼氏も含めて、みんなで学食のカフェテリアで会おう」

 とコメント付きで、みんなの動画をメグに送った。

 すぐさま、メグから、

「オッケイ。彼氏もみんなに会いたがってる」

 と返信が来た。


「メグがオッケイしたよ。水曜の講義後にカフェテリアだよ・・・」

 そういってスマホから目を上げると、みんなは、アキの足元で、シロの膝枕に頭をのせて寝転んでいるトラを見たまま、まだ固まっている・・・。

「みんな・・・。お~い、みんな・・・」

 あたしは、トラからあたしにみんなの注意をひこうとした。

「ああ・・・、なに、サナ?」

 アキが心ここにあらずという顔であたしを見た。


「みんな、驚かなくっていいよ。トラは猫賢者だとあたしが話したでしょう。人並みの知能があるんだよ。いろいろ学習したんだよ」

 あたしはまじめにそういった。

「サナ・・・、さなえは、腹話術がうまくなったね・・・」

 ママがにやにやしてる。あたしのいうことを信用してない。

「腹話術なら・・・」

 腹話術なら、トラとあたしで同時に話せないよ。そういいかけたとき、トラがあたしを見て目配せした。


 わかったよ。無理に説得すれば、大事件になっちゃうんだね。トラが生物学の標本みたいに、研究材料にされるんだ。生物学概論の講義中でなくってよかったね、トラ。

『そうぞね、サナ。わし以上に、サナの方がおっちょこちょいゾネ。

 とはいうものの、わしも気をつける。

 なんせ、キウイがいかん!猫族にマタタビ科の食い物はイカンぞ!麻薬と同じゾネ。ハイになっとったぞ。Lucy in the Sky with Diamondsぞね・・・』

 トラの反省の思いがあたしに伝わってきた。

 あたしはうまく、みんなをいいくるめることにした。


「腹話術でいっか・・・。特殊な話し方を練習したんだよ。

 さて、メグと連絡取れたし、水曜が楽しみだね。

 もうすぐ、昼休みが終る。トラ、どうする?シロとデイト続けるか?」

「ソウダニャ。ツヅケタイニャ・・・」

 トラがシロを見てあたしを見た。

「そしたら、四時十五分のチャイムが鳴ったら、ここに来てね。天気がいいから、雨にはならないと思うけど、もし雨になったら、あそこだよ」

 あたしは図書館の裏口にあるポーチの軒下を示した。図書館を増築する予定だったらしい。

「ソシタラ、マタニャ・・・」

 トラとシロが芝生から立ちあがった。樅の木陰へ走り、柘の垣根を潜って、フェンスを跳び越え、学内から出ていった。


 あたしとトラのやりとりをみんなは呆気に取られてみていた。

「アハハッ、腹話術で~す。今度、ひとり芝居、すっかなあ~。

 さあて、授業に、ゆこうね・・・・」

 あたしは笑ってごまかし、呆気にとられたままのみんなといっしょに、芝生から立ちあがった。

 次の講義は心理学。その後は経済学だ。

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