試運転

ヤギサンダヨ

試運転

 毎朝始発で会社に向かう私が、いつものように駅で電車を待っていると、ホームに貨物列車が入ってきた。

 こんな駅にも貨物列車が来るんだと思ってよく見たら、十数両編成の一番前の電気機関車が重連である。前から2両目のはよく見かける EF何とかみたいな、ああいう形の少し赤茶色のやつだけど、前に連結されいるのがちょっと見たこともないような機関車で、パンタグラフがない代わりにそこに大きな枠がはめてあって、どうやら放熱穴になっているらしい。さらに側面には小さな鉛色のタイルのようなものが、まるで鎧のように小さなネジで無数に取り付けてあって、朝日を反射してキラキラと輝いている。

 とっさに『あ、これは原子力機関車だ。さてはあの鉛色の無数のタイルは、放射能を遮蔽するためのものだな』と気づいた俺は、 急いでスマホを構えて写真を撮ろうとしたのだけど、こういう時にかぎってうまくシャッターが切れない。そうこうしているうちに、貨物列車はゆっくりと駅を通過して、走り去ってしまった。

 政府はこんなふうに、こっそりと原子力機関車の試運転を行っているのだ。人目につかないように、早朝の俺の夢の中で。


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試運転 ヤギサンダヨ @yagisandayo

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