お母さん!

ハウスになんとかたどり着いた。もう体がぼろぼろだ。ヨロヨロと華乃が近づいてくる。

「ね、ねぇ、お腹すいてきたんだけど。」

華乃がそう言うと私のお腹もぐぅと鳴ったような気がした。

「そうだね。でも調理なんてできないし…。」

ピンポーン。

「だ、誰か来たよ!宅急便?舞!!」

宅急便は頼んでいない。華乃以外に今日会う予定の人はいない。一体誰なんだ。

「舞?開けるよ?」

ドアの向こうから声がする。この声は、

「お母さん!!」

「舞ー?いないのー?あら、すごい散らかってる。どうして片付けないのかしら。片付けるからねー!」

「華乃、お母さん来ちゃった。静かにして息を潜めておこう。」

「え?なんで?助けを求めれるチャンスじゃん!気づいてもらった方がいいよ!!」

「お母さんにバレると色々面倒だから。結構過保護な母親だし。」

私がそう言うと納得しきれていないが仕方ないというように華乃は分かったと言った。

2人でハウスの隅にじっと固まっていた。掃除機の大きな音が部屋中に響いている。お母さんは順調に部屋を掃除していたが、ハウスの前でピタッと立ち止まった。まさか、ばれた?

「あの子、まだこれ残してるんだ。懐かしい。」

そう言うとお母さんはハウスを持ち上げた。

「わぁ、揺れる!!」

華乃が大きな声でそう言った。

「しっ、静かに!」

華乃は手で口を覆い、声を押し込む。

「これを買うまで店で何分立ち往生したか。ずっと入口に立ち止まって。あの子、なかなか本音言わないし。それは今も一緒か。」

お母さんは懐かしいエピソードを次々に話す。そんなにこのハウスにストーリーが詰まっていたなんて。

そしてお母さんは話しながら脱衣所のほうに行ってしまった。

「舞のお母さん、舞のこと大好きだね。」

「そうだよ。相思相愛だから。」

私は自信満々に言った。お母さんが来たのは想定外すぎたけど来てくれてほんのちょっとだけ良かったと思った。大切な思い出に触れられたから。

思えばお母さんの言う通り、私は本音を言わない。言って揉め事になったり、相手をガッカリさせるくらいなら自分の意見より相手を優先したい。どうしてそんな考えになったのかは分からないけど小さい頃からそうだった。お母さんが根気強く私の心を開こうとしてくれたから私はほんの少し甘められたんだろう。

「お母さん、ありがとう。」

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