ハル過去編-08 アキとの生活、そして···

 男の子はアキと言った。しかも『外の理の者』だそうだ。


 外の理の者。この世界とは別の世界からやって来た者を指す言葉で、『侵略者』と捉えられることがほとんどだ。でも、アキは事故に巻き込まれてこの世界にやって来たそうで、補償として神から神器が与えられているそうだ。


 見せてもらったけど、無限収納カバンは理解できても他の2つが最初は理解できなかったね。魔力で武器をつくりだせる剣と、黒い板にいろいろ映し出したり、他の人とも話せたり···。


 見たことのないモノだったね。確かに人が作り出せるような代物ではないから神器なんだろう。


 もう一人のリオはなんと元整調者ピースメーカーだった。サインもらおうかとも考えてしまったね。


 なるほど、確かに凄腕の協力者だ。これなら協力して湾内の魔獣を倒せそうだったね。



 そして、翌日以降は魔獣退治に出かけて想定以上の成果を出せた。ボスを倒した時のあの変身した姿はかわいかった。一度抱きついてみたくなるようなモフモフの白銀竜の着ぐるみだったね。


 それから成り行きでアキたちと一緒に行動することになった。最初はひとりでいいと考えていたけど、こういう賑やかな旅も悪くないと思い始めた。


 皇国では大魔王の手下にやられてしまった。


 まさか邪法の奥義である『ソウルプリズン』がアキたちに使われてしまい、完全に敗北してしまった。邪法については師匠から聞いてたからね。


 トランスを使って逃げる事も考えたけど、相手の実力からして逃げ切れないと思ってやらなかった。


 これが私にとっての初の敗北だった···。生きてるだけでもありがたいと思わないと···。



 ホテルに気を失ったアキとリオを連れて戻って3日。ようやくアキが起きてくれた。


 すると、アキから感謝されてしまった。



「ハル、ありがとう。ここまで運んでくれて、···そして看病してくれて」


「···ううん。結局私も何もできなかったよ」


「そんな事ないよ!ハルのおかげで、ボクたちは無事帰ってこれたんだから!!」


「ちょっと~『ハルのおかげ・・・・・・』って、あたしを忘れてない~?」


「あっ!ナナ!?い、いや、そういう意味じゃなくって!」


「あはは!それだけ元気ならもう大丈夫そうね。安心したわよ」



 このやり取りは、私にとって初めての経験だった。


 感謝はよくされている。それは、依頼達成して依頼人からだ。


 でも、この感謝はそれとは違う、何か心が温まる感じがした。こんな気持ちは初めてだ···。


 なんだかアキと一緒にいたら、楽しくなってきたんだ。なんと言えばいいのか···、安心できるんだ。


 これまで、私はひとりでいいと考えていた。協力して作戦をこなすなんて考えもしなかった。


 けれど、アキはそんな私の心を優しく包んで守ってくれそうな気がしたんだ。実力は私の方が上だけど、精神的にはアキの方が強かったと思ったんだ。



 そんな心が揺れ動いている時に、事件が起こった。パスさんとナナが結託して私の隣にアキを寝かせたんだ。


 ま、一緒に寝るなんて別になんの問題もない。翌日起きたら、アキが私にくっついていた。


 アキは寝ぼけているのか、あたふたしてたけど···、どうかしたのかな?逆に私は安心したけど?


 すると、アキは泣き出してしまった。···もう、ナナがいじめるから。アキを抱いてあげたらアキは立ち直ったね。


 次の日もアキと一緒に寝ることになった。アキはなぜか緊張していて、落ち着きたいために私の話が聞きたいと言ってきたので話したんだ。


 あんまり話すつもりじゃなかったのに、なぜかいっぱい話してしまったね。



 ···私は、寂しかったのかな?



 そして、私からアキを抱きにいって寝た。とっても安心できてぐっすりと眠ることができたんだ。



 翌日以降、私とアキの距離が一気に縮まった気がした。アキの話は面白くて、楽しくて···。あんまりしゃべらない私と話してもつまらないだろうと思うのに、いろんな話を聞かせてくれた。



 ···アキと一緒にいると、楽しい!



 その日の夜は私とアキから一緒に寝ると話ししたらビックリされた。男と女が一緒に寝るってそんなに驚くような事なの?



 そして、カーネさんとアイリさんから、私の正体を知らされた。


 『神狼族』···。神に創られ、神に叛逆した一族の最後の生き残りだった···。


 私は怖くなった。いつ神から討伐されてしまうのか···。やっぱり私はひとりの方が良かったんだ。近づけば、神の天罰が降りかかってしまう···。アキがその対象になるのは絶対に避けたい!


 けれども、アキは決意してこう言ってくれたんだ。



「···ここからはボク個人の意見だけどね?ボクはそんな事はどうでもいい・・・・・・と思ってるんだ。

 ボクがハルを守る・・・・・・・・。襲ってくるなら追い返す!···その気持ちは、今後も変わらないよ」


「···ホントにそれでいいの?死んじゃうかもしれないんだよ?」


「ボクはもともと1回死んじゃってる・・・・・・・・・しね。もちろん元の世界で・・・・・、だけど。でも、ハルを守って死ねるなら本望だよ。

 もし、ハルがやられちゃったら、ボクも一緒にいくよ。行先が地獄でも、付き合うよ!」


「···ありがとう。そこまで言ってくれる人って今までいなかったよ」


「ははは、ボクもなぜか不思議なんだよね〜。一緒に寝ちゃった3日前までは、こんな気持ちにならなかったのに、今は自然とそう考えられるんだよ」



 アキの優しい、私を包みこんでくれる温かい言葉を聞いた。これまでこんな言葉をかけてもらえなかったから、本当に嬉しかった!


 そして、アキから私の人生を決めてしまう言葉を、···言ってくれた。



「ハル。こんな頼りないボクだけど、一緒になってくれるかな?」


「···はい。よろしくお願いします。···頼りにしてるね」



 『愛』と言う言葉は知っていた。知っていても、それがどういう感情なのかは知らなかった。


 今日、アキの温かいこの言葉を聞いて、ついにその感情を、私は理解した。



『もう、アキ以外に私を幸せにしてくれる人はいない!』



 そう、胸を張って断言できる!こんないい人に巡り会えて、私は幸せだ!



 そして、子どもが産まれた。しかも男の子と女の子の双子だった!


 フユとナツと名付け、私と同じ神狼族のせいか、成長が速かった。


 子どもたちの成長を見守り、家族揃って旅行したり大魔王と対峙したり···。


 アキと出会えた事が、私にとってのターニングポイントだったのは間違いない。


 だから、アキが一度死んでしまった時の喪失感は凄まじかった。暗黒の闇に突き落とされ、どこまでも落ちていく気分だった。


 けれども、アキは『旅行保険』という特殊スキルで生き返ってくれた!


 私はその反動でアキの手を離したくなくなってしまい、アキを困らせてしまった···。


 でも、そんな私をアキは怒らずに優しく受け入れてくれた···。



 そして、それから60年···。アキとは寿命という形で別れを告げてしまった。


 辛かった···。心が空っぽになった感覚だった···。できることなら、一緒に逝きたかった···。


 でも、それはアキが向こうで悲しんでしまうから。私も精一杯生ききってみせようと思った。



 そして、5年後···。



「···フユ。···ナツ。···今から、···アキのところへ、···会いに、···行ってくるね」


「ママ···」


「···ママ」


「···あり、···がとう」



 ···こうして、私は天寿を全うした。


 精一杯生き抜いた。···アキ?これで良かった?



『アキくん!ハルちゃんがこっちに来たよ~!迎えに行ってあげて〜!』


『は〜い!エレさん、ありがとう!』



 ···誰?誰かがこっちに向かってきてる···。懐かしい···、あの気配は···!?



「ハル、お疲れさま。迎えに来たよ!」


「···アキ?···来て、···くれたの?」


「もちろん!」



 そこには、若い頃のアキがいた。私もその頃の姿になっていた!?


 後ろを振り返ると、私の亡骸の上で泣いているフユとナツが見えた。



「あの子たちもいずれこっちに来るから、その時は一緒に迎えに行こうね!」


「···うん!ありがと!」


「ははは!そうそう、エレさんがボクたちのための家を用意してくれたんだ!そこで、ゆっくりと過ごそうね〜!」


「···うん!もう、二度と離れないよ!」



 私は···、幸せな人生を、送ることができた。そして···、これからも···!



 ハル過去編   完

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