ハル過去編-02 ハル、里でスクスク成長する

 私が神を騙してハルを匿ってから1週間が過ぎた。


 また整調者ピースメーカーが引き返してくるかとも思ったが、それはなかった。どうやら、本当に騙し通せたか見逃したか···。


 ハルはとても元気に過ごしている。ミルクもしっかり飲んでるから大丈夫だろう。


 この世界の叛逆者の一族···、おそらく最後の生き残りなのだろうね。


 どういった理由かはわからないが、今後も命が狙われる可能性はあるだろうね。


 せっかくだから私の技や知識を教え込んでおこう。ここに来ることが運命なら、私が暗殺術を教えるのも運命なんだろうね。



 あれから3年が経った。


 ハルは異常に成長が速かった。物心つく前から木の棒をふりまわし始めた。若干ではあるが、身体強化魔法も使えるようだ。そろそろ暗殺術を教え始めたほうが良さそうだね。



「ハル。今日からお前に暗殺術を教えるよ。いいかい?」



(コクン)



「じゃあ、まずは木の短剣で実践するとしようかね。本来は体力をつけるのが最優先なんだけど、ハルはそのあたりは大丈夫のようだから省くよ」



(コクン)



 ···そう、この子はほとんどしゃべらない。言葉を知らないのではない。口に出さないだけだ。しゃべる時は必要最低限の単語しかしゃべらないのだ。


 これは隠密活動に非常に向いている。事実、気配の消し方を教えてやると、あっさりと身につけてしまった。


 フフフ!これは鍛えがいがあるね。幼いから知識や技術をドンドン吸い込んでいくんだ。


 すぐに技をモノにしてしまったよ。うわべだけの技じゃあない。ちゃんと技の本質を掴んで習得しちまったんだ。


 普通の獣人ではないとは思ってはいたが、まさかここまでとはね。神から抹殺されかけたわけだ。どういう事が原因かは未だに知らないけどね。



 そして、さらに7年が経過した。


 この時点で10歳。すでに私を除いて里では最強になってしまった。もはや恐怖を感じるほど、ハルは強くなってしまったんだよ。


 先日はそれまで里のトップだったテリーが、ハルを襲撃した。


 里では実力のランク付けをしている。これは里を出た時に傭兵や裏の暗殺者ギルドに雇われる時に参考になるからだ。


 先日、私がランキングをつける試験をしたところ、ハルは文句のつけようがないほどの満点だった。テリーもほぼ満点だったが、一歩足りてなかったのだ。


 私がつけたランキングに不満があれば、その後で襲撃して生かしたまま・・・・・・『参った』を言わせればランキングを入れ替える事が可能だ。


 テリーは前回まで3年連続で首位だった。


 しかし、今回はハルに抜かれた。それまでもランキングはドンドン上がってはいたのだ。


 そして、テリーは不服で深夜に寝ていたハルを襲った。



 結果は『返り討ち』だった。



 最初の一撃を代わり身で受け、すぐに投げナイフを投げ、テリーが体勢を崩した一瞬のスキを突く形で喉元に短剣を突きつけたのだ。



「くっ!?なぜ···!?」


「···バレバレ」



 その翌日、事情を知った私はテリーに今後どうするか聞いた。テリーも卒業して外に出しても十分に問題ない腕前だ。



「師匠が以前おっしゃってた『世界を見て回りたい』と思います。もう、これ以上ここでは学ぶことがなさそうなのでね」


「そうかい。あんたの実力は素晴らしいさ。どの道・・・を進んでもやっていけるさ」


「師匠がそうおっしゃるならそうなのでしょう。お世話になりました」


「達者でな」



 テリーは出ていったね。さて、ハルはどうしようかね?


 成人までは育て上げた。今や全盛期より大幅に衰えたとはいえ、私の実力に近いところまで来ている事は確かだ。


 ここからはハルに選択させよう。このまま里にいて、私の後継者となるか、世界に出るか。



 その日の夜、私の部屋にハルを呼んだ。



「···師匠?···話って?」


「ハル···。もうお前に教えれることがなくなっちまったんだよ。そこで、今後の進路について聞いておこうと思ってね」


「···どういう事?」


「このまま里に残って私の後を継いでこの里を見守るか、里を出て世界で活躍するか···。ハルの好きなようにしな」


「···じゃ、里を出る」


「理由は?」


「···なんとなく。···ここで学べる以外のものも面白そう」


「フフフ、そうかい。じゃあ、そうしな。もうハルは里を出て一人でも十分やっていけるだけの力は身についてるさ。あとは世界でどれだけ学ぶか?ってところだね。餞別だ。これを持っていきな」


「···これは?」


「私が現役時代に使ってた武器さ。柄の部分が魔法銃になっている特注品さ。ハルにはそこそこ魔力があるようだから扱えるだろう」


「···どうしてこれを?」


「お守り代わりさ。それで、いつ出発するんだい?」


「···じゃ、明日」


「そうかい···。もう会うこともないかもしれないね。いや、次に会うのは結婚して子どもができた時かもな」


「···どうなるかわからない」


「それでいいさ。それが人生ってもんさ」



 翌日早朝、ハルはあいさつなしで里を出ていったよ。まぁ、里を出る連中は全員そうなんだけどね。



 ハルの両親よ···。あんたたちから預かった赤子は、立派に育って一人前に仕立て上げたさ。


 ···これで、良かったのかい?


 もう聞くことはできないんだろうけど、満足してくれたのならありがたいんだけどね。

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