ハル過去編-03 ハル、世間知らずと知る

 師匠からもう教えることはないって言われて里を出た。


 と言っても、里では師匠の技と知識だけ教えられて、それ以外まったく知らない。


 ま、なんとかなるんじゃない?そう思って出たのはいいんだけど、まずどこに行こう?


 うん、さっそく迷子になってしまった。ま、適当に道を歩いていれば町に出るでしょ。



 そう考えて歩くこと4時間。目の前に町らしきものが見えてきた。里よりも頑丈な壁だ。ちょっと乗り越えるのは厳しいかな?できなくはないけど。


 とりあえず門に向かうか。


 門には並んでる人がいた。ここに並べば入れるのかな?5分ぐらいで窓口にたどり着いた。



「···里出身だな?身分証を」


「···?···なにそれ?」


「もしかして、里を出たばかりか?」


(コクン)


「ちょっと横に逸れて待ってろ」



 門番の言う通り、窓口の横で待ってると、別の兵士がやって来た。



「待たせたね。ついてきてくれるかな?別室で手続きするから」



 私はその男について行った。もちろん、警戒は怠らない。すると、



「ははは。そんなに警戒しなくても大丈夫さ。詳しい話は部屋に着いてからするから」



 私の警戒に気づいた?かなりの腕なんだね。ここでは彼の方が有利だ。大人しく従ったほうがいいのかな?


 そんな事を考えていたら、とある部屋に着いた。中は小さな机とイスがあるだけで、他には何もなかった。窓はあるから脱出は可能だ。鉄格子なんてもので私を閉じ込める事はできないけどね。



「さて、改めまして、ようこそスルタンへ。オレはここの入国管理の長であるランスと言う。···もちろん、里出身だ」


「···ハルです。···朝、里を出た」


「やっぱりね。オレの仕事は表向き・・・は国に入る人の検査と許可を出すというものでね。裏方・・は里出身の者たちの援助なんだよ」


「············」


「あんまりしゃべらないんだね。まぁ、いいさ。暗殺者に向いてるからね。さて、身分証がないという事だから、さっさと作ってしまおう。これがないと他の国に入れないし、仕事にもありつけない。お金を入れるサイフにもなるからね」


「···ありがと」


「ははは!これがオレの任務だからね。文字は書けるかな?自分の名前を書いてサインをしてもらえればすぐに発行するよ」


(サラサラ)


「よし!じゃあ、ここで待っててくれ。すぐに用意するよ」



 ランスは部屋から出ていった。


 身分証。そんなものが里の外に必要とは思ってなかった。


 お金もそうだ。使い方も知らない。師匠はそういった事は一切教えなかったからね。


 ···よくよく考えたら、私は世界の事を何も知らない。ちょっと不安になってきたね。


 しばらくすると、ランスが帰ってきた。



「待たせたね。これがハルの身分証だ」


「···ありがと」


「どういたしまして。国や町に出入りする時にはこれを見せるんだ。ただし、これで入ったら必ず出る時にも見せる事。入った情報が身分証に登録されて、出る時に情報を消すから、つじつまが合ってないと捕まるから注意すること」


(コクン)


「あと、この身分証にはお金も入れておいた。10万ジールだけど、何もしないなら2週間弱の生活費になる。使う時は店の決済魔道具に身分証を触れさせるだけだ。残り金額には気をつけること」


(コクン)


「あとは町中で寝るときは宿で泊まること。外で寝るのは余程のことがない限りは避けること。もちろん、宿泊代金がかかるぞ」


(コクン)


「あとは···。単独で里を出たということは、闇組織に属さずに単独行動ということだな?」


「···?」


「そうか···。それも知らされてないか。師匠らしいといえばそうなんだけどなぁ~。ハルは自由に世界で生きろ、ということなんだな?」


「···?」


「ははは!そういうヤツは珍しいんだが、だったら冒険者になるってのもアリだな」


「···?」


「冒険者ってのは依頼主から仕事の依頼を受けて達成したらお金がもらえるのさ。この国にも冒険者ギルドがあるから、登録だけしておいたらいい。自分の請けたい仕事があれば請けてみるのはどうだ?」


「···じゃ、それにする」


「まぁ、他の仕事もあるからな。気が向いたらそういった別の仕事もやってみたらいいさ。これで手続きは終了だ。町の方の出口へ案内するよ」


「···ありがと」


「いえいえ、これから頑張ってな」



 とりあえず話にあった冒険者とやらをやってみるか。···しまった。場所を聞いてなかった。誰かに聞いてみるか。



「···すいません。···冒険者ギルドってどこ?」


「冒険者ギルドかい?街の中心にあるよ。宿の正面にあるからすぐわかると思うよ。看板の文字は読めるかい?」


(コクン)


「じゃあ、大丈夫だね。この道をまっすぐ行った先にある広場だからね」


「···ありがと」



 通りすがりの人が親切に教えてくれた。その通りに行ったらあった。


 中に入ったら、夕方前だったので少しだけ混んでいた。ちょっと様子を伺ってみよう。


 中は食事する場所と窓口、紙がいっぱい貼ってる板があって、みんな窓口に並んでいる。他の人は食事するところでのんびりとくつろぎながら食事をしているね。


 窓口から離れた人が食事する場所にいた仲間と合流して食事を始めた。なるほど、窓口には代表が並べばいいんだ。


 誰もいない、紙を貼っている場所に行ってみた。


『魔獣を退治してくれ!』

『屋根の雪降ろしを手伝ってほしい』

『商隊の護衛をしてほしい』

『先日、仲間の誤射で・・・・・・矢をひざに受けてなぁ~。木を切るのを手伝ってくれぬか?』

『パーティーメンバー募集中!笑顔の絶えないアットホームな雰囲気です!!』

『彼女募集中!自宅警備をしているオレと付き合ってくれ!』

『うちの亭主が浮気してるんだよぉ!◯してでも奪い返してやる!加勢しておくれ!!』


 ···よくわからない内容もあるけど、これが依頼ってやつかな?これを選んで、あの窓口に出して成功したらいいのかな?


 そんな事を考えてたら、窓口に並んでる人がいなくなった。ちょっと聞いてみようか。



「···すいません。冒険者になりたいんだけど」


「あら?かわいい子ね?冒険者は成人してないとなれないのよ。身分証を見せてもらえるかしら?」


(コクン)


「どれどれ〜?ハルさんね~。成人してるからなれるわね。このまま手続きしちゃう?」


(コクン)


「わかったわ。では身分証に情報を書き込んで···。はい!これでいいわよ。仕事の請け方はわかるかしら?」


(フルフル)


「簡単に言うと、あそこの掲示板に貼ってある依頼でできそうな紙を剥がしてこの窓口に持ってきたら仕事が始まるの。

 書類を渡すから、右下のココに依頼者のサインをもらってね!それを持って窓口に出したら依頼料を渡すわ。

 魔獣討伐なら魔獣本体か魔獣ごとに決められた部位を持ってきたら達成扱いよ。これで大丈夫かな?」


(コクン)


「じゃあ、頑張ってね~!」



 とりあえずこれで冒険者になった。明日から仕事をしてみよう。

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