ハル過去編
ハル過去編-01 ハル、預けられる
「はあっ!はあっ!撒けた···、かしら?」
「いや、まだ追われてるな。だいぶ距離は離れてるが、付かず離れずついてきている。まるでオレたちの居場所が常に知られてるようだ。
相手は
「どうして···、どうしてこんな目に···」
「神に···、
「でも!この子には関係ないわ!!私たちが···、過激派を止められなかったというのはわかるけど···」
「そうだな。この子だけは···。うん?こんな雪深いところに村···?」
「こっそり預けてしまえないかしら?」
「それは···、村に迷惑をかけてしまうぞ」
「それでも!この子が逃げ切れるなら!!」
「···よし。聞くだけ聞いてみよう」
オレたちはたまたま見つけた村に行ってみた。すると、入口と思われるところに
「···来たか。とんでもなく強い気配がしたんでね。こちらから出向いてあげたよ。···こんな秘境になんの用だい?」
「···あなた方に危害を加えるつもりはありません。ただ、一つだけ···、お願いがあるんです」
「ほう?なんだい?食料が欲しいのかい?それともここに住みたいのかい?どちらもお断りだけどね」
「いえ···、この子を···。ハルを匿っていただけませんか?」
「この子を···?どういうことだい?」
「私たちは追われてます。もう···、逃げ切れません···。せめて、この子だけは!生き延びさせたいのです!見知らぬ者の勝手な言い分なのはわかってるのです!どうか···、お願いできませんか!?」
「お願いします!この子には関係ないことなんです!」
「···わかった。あんたたちが相当深刻な事情なのはね。ただ、その追手がここに来て探し出してしまうかもしれないよ?その時にこの子の安全は保証できない。それでも···、いいんだね?」
「構いません!そうならないよう、命をかけて絶対に阻止してみせます!」
「ありがとうございます!この子を···、ハルをお願いします」
「わかった。次に会うことは···、なさそうだね?」
「···おそらくは」
「なら、今のうちにこの子に別れを告げておきな。···後悔しないようにね」
「ご配慮、感謝します!ハル···。お前を守ってやれなくて···、ごめんな。こんな父さんを···、許してくれ!」
「ハル···。大人になって···、一緒に狩りをして···、そして子どもができるのを楽しみだったんだけど···、それが叶わないななんて···。元気で···、過ごしてね···。愛してるわ」
「···ありがとうございました。この子がもし私たちの事を聞いてきたら、『捨てられてた』と伝えて下さい。···最後に、あなたの名前を伺ってもよろしいですか?」
「私かい?チパだ。世間では『暗殺者のチョッパ』なんて呼ばれてるけどね」
「あなたが伝説の!···ハルをお願いします」
そう言って、ハルの両親は里から離れていった。私の腕の中にはスヤスヤと眠る女の子の獣人の赤ん坊のハルがいる。
ある意味、ここに預けたのは正しい。ここは身寄りのない子どもたちを『保護』の名目で預かり、暗殺者に育て上げる秘密の里だ。
食料などを持ってくる商人も、元この里出身の商人に見せかけた暗殺者だ。ここの場所は
それにも関わらずここにたどり着いたということは···、この子の運命としか言いようがないね。
さて···、普段にはないイレギュラーな預かり方ではあるからして、何か起きそうだね。
私のこの予想は当たった。しかも翌日の朝にやって来た。
「貴様!?何ヤツだ!?どうしてここにやって来た!?」
「···お前に用はない。ここに獣人の赤子が預けられただろう?大人しく出せ」
「そんな赤子なぞ知らんわ!怪しいヤツめ!ここから立ち去れ!!」
「やれやれ。手荒な真似はしたくないのだがな。これも任務なのでね。···しばらく眠っていてもらおう」
門番から怪しい男が来たと聞いた私は、すぐに門へ駆けつけた。あとちょっと遅かったら門番の命はなかったね。
「待ちな!」
「師匠!?」
「···雰囲気からしてここの長と見受けるが?」
コイツがあの親子を追ってた刺客だな。とんでもない殺気と実力者だ。私でも太刀打ちはできないだろうね。
鎧にはまだ
門番とはあまりにも実力に差がありすぎて、そのあたりの恐怖がマヒしちまってるね。危うく無駄死にさせるところだったね。
「そうさ。私はチパ。こんな秘境の、何もない里になんの用だい?」
「···これは失礼。俺はジャック。
「
「獣人の赤子が昨日ここに預けられただろう?出してもらおうか?ちなみにこの状況は神が見ている。···ウソはつけんぞ?」
これはこれは···。とんでもない赤子を預かっちまったもんだ。
ただ、それは大人の都合だ。赤子には関係ないね。神が見ている?ハッタリではなく事実なんだろうね。···敢えて泳がせていたな?性根の悪い神なんだろうね。
上等だ。
神が何考えてるかはわからないが、本来神が祝福すべき赤子に対してこの仕打ち、私は気に入らないね。ちょっと嫌がらせでもしてやるか。どう出るかな?
「確かに赤子は預かった。ただ、ひどく衰弱していてね。この寒さの中、無理させたんだろうね。昨日の深夜に亡くなったよ。遺体は火葬済みさ。灰を調べるかい?大量のゴミと一緒に燃やしたからどれが赤子かわからないけどね」
「···ウソはためにならんぞ?神に歯向かう気か?」
「ホントさ。だったら案内するよ。ついてきな」
「···わかった。なら問題ない。邪魔したな」
「おやおや?あれだけ強気に出た割には確認もせずにあっさりと引くじゃないか?」
「···神が
「···そうかい。それと、一体これはどういう事なんだい?事情も知らせずに要求するなんて、それも神のやり口なのかい?」
「知る必要はない。さらばだ」
···妙だね?まさかあっさりと引くなんてね。
神が見てるなら、このウソはバレてるはずだ。しかも、神は見逃すことを了承した?
どういう思惑か知らないが、神相手にハッタリが通用するとはね。これはいい経験をさせてもらったよ。
さて、どうやら神公認でハルを育てていいようだ。両親に代わって私がこの子の成長を見届けるとしようかね。
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