神様の憂鬱-16 フユくんとナツちゃんに話をする

 時は遡って、オレが神を辞めて1ヶ月経った頃、やっとこさアクロでの生活に慣れてきた。


 憧れてた引きこもりスローライフは最高だ!好きな時に起きて好きな時にメシを食い、好きな時に温泉に入って好きな時に寝る···。


 まぁ、これまでが忙しすぎたんだけどな。文字通り24時間戦ってきたんだ!理不尽なトラブルに対してな!だからこれは許される行為だ。



 さ~て、今日は何しようかなぁ~?



 そうだ!フユくんとお話するか!


 神狼族初代のレオの生まれ変わりと言っても過言でもない子だ。双子のナツちゃんも、レオに女の子の服を着せたらそっくりだなぁ〜!ってぐらいだしな。


 まぁ、当人たちとも話はこれまでしたことなかったし、今日も暇だからちょっと会いに行くか!


 というわけでアキくんの家にやって来たが···、誰もいなかった。


 今日は平日だからアキくんは学園だ。となると、冒険者の仕事かな?そう思ってると道の反対側の家からリオが出てきた。



「んーー?げぇーーっ!?神ーー!?」


「おっ?リオ。おはよう」


「アクロに住んだって聞いてたけど、何しに来たー!?また厄介事じゃないだろうなー!?」


「おいおい!人を疫病神や貧乏神扱いするんじゃない!もう神は辞めてるんだからな。今日はフユくんに会いに来たんだよ」


「フユにー?今は冒険者の仕事で出てるぞー。会ってどうするんだー?」


「いや、話をしてなかったなぁ~って思ってね。帰ってくるのは夕方かな?」


「いやー?今日は報酬の受取と次の仕事の打ち合わせってケンが言ってたなー。午前中で帰ってくると思うぞー」


「そうか。じゃあ、それまでリオの家でくつろがせてもらうとするよ。お邪魔するね〜」


「図々しいぞー!?本当に邪魔だぞーー!」



 せっかくご招待・・・されたので、リオの家で子どもたちが帰ってくるのを待たせてもらう事にした。えっ?違う?細けぇ事は気にすんな!


 30分ほど待っていたら、子どもたちが帰ってきたよ。



「ただいま〜!パパ、わたしたち、今日はギルドの酒場で食べてきたからお昼は大丈夫よ~!」


「ただいま〜、パパ。って、あれ?神様?どうしてここに?」


「やあ、リナちゃんとケンくん。お邪魔してるよ。それと、神はもう辞めてるから『エレさん』って呼んでね~!」


「はぁ···。エレさんはどうしてうちに?」


「今日はフユくんに用事があってね。ちょっとお話したいなぁ~って思ってね」


「じゃあ、フユとナツを呼んできましょうか?」


「そうだね。キミたちも聞いてもらった方がいいかもしれないしね」


「わかりました。ちょっとだけ待っててくださいね」


「じゃあ、わたしはお茶の準備しておくわね~!」



 ケンくんがフユくんとナツちゃんを呼びに行き、リナちゃんはお茶の準備をしてくれた。よくできた子たちだなぁ~。リオに似なくてよかったよ!



「···今、オレの悪口を思ったなー?」


「気のせいでしょ?」



 こいつはたまに鋭いな···。そうこうしてたらフユくんとナツちゃんがやって来た。



「お待たせしました~!ご無沙汰してます、神様!」


「···神様がナツたちにどういったお話?」



 ···やっぱり間近で見ると、レオそっくりだなぁ〜···。イカン!涙が···。



「えっ!?どうしたんですか!?」


「いや···、気にしないでくれ。理由は話すからね」



 フユくんに心配させてしまったなぁ~。口調が丁寧なところ以外は本当にそっくりだ。



「改めて、もう神様じゃないから『エレさん』って気軽に呼んでね!今日はフユくんに会いたかったのはね?実はフユくんが初代神狼族のレオにそっくりだから、ちょっとだけ話したいなぁ~って思ったからなんだよ」


「おれが初代神狼族にそっくりなんですか?」


「そう。髪の色は違うけどね。口調が丁寧なところ以外は声までレオそっくりだ···」


「そうなんですね···。どういう人だったんですか?」


「そうだね···。世界が魔獣で荒れていた時代、立ち向かう存在を創造する必要があってね。そこでドラゴン族の創造と強化と···、神狼族を創る事にしたんだ。

 ただ、当時は神の力が足りなくてね。小柄な少年しか創れなかったんだよ。ちょうど今のフユくんぐらいかな?

 名前はオレの下の名前をつけてあげたら喜んでくれて···。

 魔獣たちには勇猛果敢に挑んでくれた。魔力剣を持たせていたし、魔力量も多かったし、魔法も万能だったなぁ~。

 最初は『こんな子どもに戦わせるなんて···』って思ったさ。でも、レオは『気にするな!次はどこの人を救ってあげたらいいんだ!?』って言って、向かって行ったなぁ~」


「そうだったんですね。おれたちのご先祖様って、すごい人だったんですね」


「そうだね。お子さんが4人産まれて···。幸せそうにしているのを見て、大成功だと喜んだものさ。ただ···、それから500年ほど過ぎた時に悲劇が起こったんだ···」


「ママから聞きました···」


「···ナツも」


「···ハルちゃんには本当に申し訳ない事をしたと思ってるよ。でも···、ああするしか···、方法がなかった···。能力は与えることはできても、奪うことができないのでね···。

 もちろん、すべて見届けさせてもらった。それが、創ったオレの責任だったからね。でも、オレがハルちゃんのご両親の命を奪った『極悪人』という事実に変わりないんだ」


「どうして···、おれたちにこの話をしたんですか?」


「どうして···、だろうな···?もしかしたら···、話して楽になりたかったのかもしれない···。もしくは···、裁いて欲しかったのかもね···」



 ただ、レオにそっくりなフユくんと話をしたいと思っただけだったのに、オレはいつの間にか懺悔をしていた···。


 オレは···、許して···、ほしかったのだろうか?


 心の奥底にあったものが···、フユくんと話をしたいと思って表に出たんだろうか?


 そう思ってたら、ナツちゃんに声をかけられた。



「···ナツは、もうどうでもいいと思う」


「···おれもです。ママのパパとママの事はおれたちじゃどうしようもないし。それに、話を聞いてたらおれだってもうどうしようもなかったって思いました。

 でも、これだけはおれとナツも同じ思いです」


「同じ···、思い···?」


「「神狼族を創ってくれて、ありがとうございました」」



 ···その言葉は、オレが今まで聞いた言葉の中で···、最も心にきた!!


 次の瞬間、オレは号泣していた···。年柄でもなくな。


 今まであった後悔、懺悔···。それらを洗い流す、滂沱ぼうだの涙だったよ···。神となって、失った感情が···、戻ってきた気がした。



「ああ···、あり···、ありがとう···。その···、言葉を···、聞けて···、オレは···、オレの心は···、救われたよ···。本当に···、ありがとう!」


「顔を上げてください。おれたちは幸せです。パパとママの子どもで、神狼族で幸せですよ」


「···ナツも。···幸せだよ」



 ···今日、話をしに来て本当によかった。このあと、ハルちゃんも帰ってきたので、その場で謝罪した。



「···そう。···もう気にしてないよ。···仕方なかったんだろうから」



 そう···、言ってもらえた。


 これで気分はスッキリしたよ。今日はいい日になった!


 そして、オレがアキくんの家から帰った直後に、アキくんが帰ってきたようだった。



「ちょっとぉ!?なんでボクには『男の娘にした』って謝罪はないのさ!?おいゴラァ!!頭下げんかい!!ワレェ!!」

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