神様の憂鬱-08 神狼族の反乱

「エレくん···。とんでもない事が起こってるよ···」


「どうした?いつも元気いっぱいのナビくんが深刻な顔をしてるけど?」


「エレくんが世界を安定させるために創った神狼族が···、反乱を起こしちゃった···」


「···は?···はぁっ!?ど、どういうことだってばよ!?」


「神狼族が整調者ピースメーカーを襲撃して、子どもを無理やり作ろうとしたんだよ···」


「えっ?···ま、まさか!?」


「そう。整調者ピースメーカーの現役の力を種族に取り込もうとしたんだよ」



 それを聞いたとたん、オレは愕然とした。


 確かに他種族との子を成す事が可能とした世界だ。しかも神狼族は両親の力を継承し、種族に関係なく神狼族の子が産まれる固有スキルがある。


 ···まさか、それを悪用してこんな事が起こるなんて、思いもしなかった。


 さらにナビくんによると、神狼族は穏健派と過激派に分かれたらしい。穏健派は魔獣退治に勤しむ一方、過激派はただひたすら『子どもを強くする』事を主眼に置いてしまい、他種族以外にも魔獣とまで交配してしまっていた。


 もちろん、子どもは魔獣の力を手にしてしまうが、子どもによっては魔獣の力に耐えられずに死んでしまったり凶悪なバケモノになってしまった。そんなかわいそうな子もいたようだ。


 しかも過激派はさらにエスカレートして、穏健派をさらって無理やり魔獣と交配をさせたりし始めたらしい。幼い子まで使って!!


 人体実験以上に凄惨な行為を、いともたやすくやりだしてしまったんだ···。


 ···オレは決断した。これ以上、悲劇を繰り返してはいけない!可能性を、潰す!!



「ナビくん···。オレは神狼族を···、滅ぼすことにした」


「···いいんだね?」


「···ああ。これ以上は放っておけない。子どもたちが大人たちの実験道具にさせられてるのを見て、黙ってはいられない!子どもたちには悪いが···」


「···わかった。じゃあ、整調者ピースメーカーに討伐命令を出すよ?」


「ナビくん、それはオレが直接やるよ」


「えっ!?いつもボクがやってるのに···、エレくんがやるの?」


「···これは『けじめ』だ。オレが『他種族の力を取り込んでさらに強くする!』なんて能力を付与してしまったがために···、こんな悲劇が起こったんだ···。自分の不始末は自分でつける。···頼む!」


「エレくん···。あんまり思いつめたらダメだよ?エレくんは神だけど万能じゃないんだ。正直なところ、ここまで真剣に神の業務に取り組んでくれた元人間はいなかったよ。すべてが思い通りになりやすいと思われがちな神の業務だけど、それでも想定外は発生するんだからね」


「···ありがとう。でも、これだけは自分の手で片づけたい。···済まないが一通り終わるまで、···一人にしてくれないか?」


「···わかったよ。じゃあ、席を外すね。何かあったらすぐに呼ぶんだよ?」



 そう言ってナビくんは姿を消した。



 今、思い出すのは初代の神狼族の少年だ。



『名前は何かな?』


『名前···?そんなの知らないぜ。キミがつけてくれよ?』


『そうか···。まぁ、創ったばっかりだからなぁ~。じゃあ、オレの名前の『レオ』ってのはどうだ?リカオンをモチーフにしてるのにライオンの名前っぽいけど』


『『れお』ね···。うん、いいんじゃないか?じゃあ、おれはレオって名乗ることにするぜ!』



 あんな無邪気な笑顔を見て、オレ自身は『こんな子どもを戦わせることになるなんてなぁ···』なんて思ったな。でも、そんな心配を吹き飛ばすほど、レオは強かった!



『よしっ!これでいいんだな!?これでここに住む人たちは安心して暮らせるんだな!?』


『ああ!よくやったぞ、レオ!ケガしてないか?』


『大丈夫!おれは回復魔法だって使えるんだ!この程度なら平気さ!さあ!次はどこの魔獣を倒したらいいんだ!?』



 子どもなのに、本当に頼りになる子だったなぁ~。そして子どもが4人も産まれた時は、オレ自身も嬉しくて祝福してやったなぁ~。



 ···あれから500年。世代としては第20世代以上ぐらいまでいってるんだ。もはやレオの面影は見当たらない。


 創った時は大成功だったのは間違いない。時代が···。時間が彼らを···、こんな醜い形に歪めてしまったんだ···。



「ジャック。キミに討伐命令を下したい。···いいかな?」


『おや?神自身から直接の命令?いつもの少年ではないのだな?』


「ああ。これは···、オレ自身のけじめでもあるのでね」


『···何か深刻な事態のようだな?討伐対象はどこの魔獣だ?』


「魔獣じゃないんだ···。神狼族全員・・・・・の討伐だ。神狼族を滅ぼしてほしい・・・・・・・


『···正気か?先日襲われはしたが、これまで無数の魔獣を葬って、世界を平和に導いた功労者の一族すべてを···、滅ぼすのだな?』


「···ああ。···本当なら創ったオレの責任として、自らの手で直接下したいところだが、それが不可能なんだ···。だから···、無理を通してお願いしたい!これ以上···、彼らの子どもたちがひどい目にあう運命を···、可能性を···、消し去りたいんだ···。頼む···」


『···全員と言ったな?子どもも、赤子すら手にかけろと?···さすがに気が進まんな』


「···ああ。非常につらい仕事を押し付けてしまい···、申し訳ない···」


『···承知した。整調者ピースメーカーである以上、拒否はできんからな。それで?どこにいるのだ?』


「キミの無限収納カバンにレーダーの魔道具を転送しておいた。それで···、一人残らず討滅してくれ···」


『···わかった。結果報告は必要ないな?···ずっと見ているつもりだろ?···辛いぞ?』


「ああ···。それを見届けるのが···、オレの···、罪滅ぼしであり、創ったことの責任だ」



 ジャックはすぐに動いてくれた。まずは過激派のアジトを襲撃した。魔獣と交配して誕生した子どもからけしかけてきたよ。もはや神狼族の姿をしていない異形のバケモノとなった子どもを剣一閃で薙ぎ払い、そのバケモノとなった子どもの親と、神狼族以外に『悪魔の研究』に携わっていた連中を皆殺しにした。


 次にジャックは穏健派の集落も襲撃した。穏健派も、過激派による拉致のせいで人口は激減していたから、あっという間に滅ぼしてしまった。


 残るは集落にいなかった者たちだ。こちらはレーダーによって一人残らず命を刈り取っていった···。



 その様子を、オレはずっとモニター越しに見ていた。



 バケモノにされてしまったかわいそうな子どもたちの断末魔の叫び···


 自分たちのやっている事は正しいと信じて歯向かう憤怒の叫び···


 何も悪いことしていない!むしろ被害者なのになぜ殺されなくてはならないのか!という絶望と、オレヘの恨みの叫び···


 何も知らず、何の罪もない子どもたちや赤子の泣き叫び···



 普通の人間なら発狂するレベルだ。それでも、オレはこれをすべて受け止めて、見届ける義務がある。これが···、創造主として···、神としての責任だ!


 ···こんな考えができる時点で、オレは人ではなくなってしまってるんだろう。ある意味、神になったんだな。クソな気分だ!



 そして、残る討伐対象は最後の親子となった。


 雪山に逃げ込んだが、整調者ピースメーカーにはそんなのは関係ない。見つけ次第、討伐するだけだ。



 ···討伐は完了した。最後の親子のうち赤子が見当たらなかったが、この寒さでは生きてはいまいとジャックは考えたようだ。オレもそれを了承した。


 ···甘いかな?実は最後の親子が逃げ込んだ場所を特定した時点でレーダーは切った。だから、もしかしたら生きているのかもしれない。


 でも···。これでよかったと思う。生きていたとしても、もはやあそこまでの勢力にすることは容易ではないからな。



 レオ···、ごめんな···。オレは···。オレはお前の子孫を···、守ってやれなかったよ···。こんな事になってしまったのは全部···、オレのせいだ···。


 オレがこのエーレタニアの人間になって死んだ時は···、あの世で思いっきりオレを殴ってくれ!!

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