第7話 勇者の仲間達

 Fランク冒険者を集めたトレーニングでついにユニークスキル、「しりとり魔法」を覚えた僕。

 強敵アイアンゴーレムを単独撃破したのだった。


 その日のトレーニングはお開き。

 明日のトレーニングも中止らしい。

 興奮冷めやらぬ感じで冒険者ギルドに戻った僕は、受付のイネスさんに呼び止められた。


「リンクス殿!

 魔法が使えるようになったって本当ですか!?」


「うん。呪文がしりとりになってないといけないけどね」


「リンクスさんはやればできると思ってました。

 トレーニングを企画した甲斐があったってものです!」


 思ったより喜んでくれてビックリ。


「それから、ルナテラスさんから伝言を預かっていますよ」


「ルナテラスさんから?」


 どうやら次の日も、街の外に来て欲しいとの事らしい。

 トレーニングは中止と言ってたけど。


「報酬も出るとの事なので宜しくお願いしますとの事です」


 報酬が出る、と言う事は仕事なのだろう。

 パーティを抜けた僕には他に用事はない。

 断る理由がなかった。


 その日は帰宅して就寝。


 ベッドに横になってからもしばらくは寝付けなかった。

 ステータスウィンドウの魔法一覧を開く。

 どの魔法ならしりとりが成立するかを考えながら横になる。


 でもルナテラスさんに呼ばれた理由は何だろう。

 仕事みたいだけど。


 そんな事を考えながら、眠りについた。


 指定されたのは街の外の西側。

 開けた草原で、北には原初の森も確認できる。

 そして、西にはノルエスト山脈が見える。


 空気がよければ山脈の影に魔王の城が見える事もある。

 別に見たくはないけど。


 待ち合わせ場所には栗色の長髪の、しなやかな冒険者の女性。

 レンジャーのルナテラスさんだ。


 しかし、他にも見慣れない二人の姿が。


 一人は赤い全身鎧で武装した屈強な男性。

 背中には大きな斧を担いでいる。

 鋭い目つきの強面の人物だ。


 一人は緑色のローブを纏った線の細い男性。

 白い長髪と切れ長の目だ。

 宝石の付いた杖を持っている。

 きっと魔法使いだろう。


 どちらも若い。

 恐らく20代前半。

 ルナテラスさんと同年代だろう。


「こっちよ。リンクス君」


 ルナテラスさんの声で二人も僕の方を見る。

 緊張するなあ。


「勇者一行の二人よ」


 軽く紹介されたが、僕はショックで固まった。

 魔王を倒すべく旅をする勇者の仲間なのか?


「ガレスだ」


 戦士がぶっきらぼうに言う。


「マリスです。どうぞ宜しく」


 魔法使いの人は柔らかい物腰だ。


「二人もユニークスキルを持っているのよ」


 さすが勇者一行だ。

 勇者エレインも含めて、全員がユニークスキル持ちだなんて。


「ガレスのスキルは『金城鉄壁』。

 どんな攻撃にもびくともしないのよ」


「ダメージはある。

 自分がへばったらそれまでだ」


「でもあなたのガードが崩れた事はないよね」


「鍛えてるからな」


 言葉通りの筋肉だ。

 背が高く、恰幅もよくて、とにかく大きい。


 ルナテラスさんだって背が高い方だが、小柄に見えてしまう。


「そして魔法使いのマリスのスキルは『神算鬼謀』。

 先が読めるんだっけ?」


「瞬間的に百手先まで読める能力です」


「すごい!

 負け知らずじゃないですか!」


 思わず叫ぶ僕。


「そうでもないのですよ」


 難しい顔をするマリスさん。


「そのように勘違いされる方が多いですがね。

 読んだ結果がどうやっても負けになってしまう事も多々あります」


 そうか。

 どうやっても不正解の可能性もあるのか。


「行き詰らないためには強い仲間が必要です。

 だからいつもガレスと一緒に行動しているのですよ」


「気持ち悪い事を言うんじゃねえ」


 むっとするガレスさん。


「彼の後ろに隠れるだけで大体の死の運命からは免れられます」


「人を何だと思ってやがる」


「フフ、賛辞を送っているのですよ」


 またもや不機嫌なガレスさんとほほ笑んでいるマリスさん


「と、こんな感じの仲良し二人組よ」


 ルナテラスさんが上手く場をまとめた。

 きっと冒険では息の合ったチームプレイを見せるのだろう。


「さて本題にはいりましょうか」


 あらたまるルナテラスさん。

 ガレスさんとマリスさんも真剣な表情になる。


 本題って何だろう?


「昨日わたし達が出会ったアイアンゴーレムだけど」


 トレーニング中、思わぬ強敵の出現だった。


「土でできたクレイゴーレムは自然界にいるものだけど、アイアンゴーレムは自然発生しないの」


 こんなところで、とか言ってたっけ?


「自然発生しないなら誰かが作ったんですか?」


「あのアイアンゴーレムは見た事があるの。

 王都周辺でね」


 激戦区の王都セントス周辺で?


「あれは魔王軍四天王。ゴーレムマスター、メルティが作ったゴーレムに違いないわ」


 魔王軍四天王!


 魔王ティフォンに仕える幹部達。

 全員が人間界侵略の指揮官なのだ。


 それがもうこのマイリスまで侵攻しているというのか。


「実はわたし達はメルティを追って来たのです」


 とマリスさん。


「勇者エレインが試練に挑んでいる間、王都の守りに集中していたのです。

 しかしマイリスにゴーレムが出没していると聞いてもしやと思ったのです。

 アイアンゴーレムまで現れてはもう間違いありません」


 魔王軍四天王がこの街に迫ってるなんて衝撃だ。


「まだイネスさんにしか言ってないから内緒よ」


 口元に手を当て、言うルナテラスさんだが、


「いえ。わたしはここで倒すつもりです。

 事後報告は大々的にいたしましょう」


 物腰柔らかなマリスさんからの以外な力強い発言だった。


「だからあなたを呼んだのです」


 僕の方を見て言うマリスさん。

 どういう事だろうか。


「マリスがこう言うならきっと大丈夫よ」


「さあ、では前回アイアンゴーレムに出会った森に参りましょうか」


 ルナテラスさんの案内で森に向かう。


「これも『神算鬼謀』なんですか?」


 ガレスさんに尋ねてみる。


「さあな」


 ガレスさんはどっちでもよさそうに答えた。


「とにかくこういう時のアイツには好きにさせてる」


 仲が悪そうに見えて、やはり信頼し合っている。

 やっぱり歴戦の戦友なんだろう。


「そう言えばエレインさんはもう勇者の剣を手に入れているんでしょう?

 試練って何なんですか?」


 森への道すがら僕は質問した。


「今度の試練は勇者の鎧と勇者の盾を手に入れるためです」


 そんなものもあるんだ。


「これらは魔王と直接対決するために必要です。

 手に入れば、魔王と戦う時も近いでしょう」


 魔王との直接対決!

 僕はようやく魔法使いらしくなれたばかりだったが、勇者の戦いは佳境が近づいているようだった。

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