第6話 炸裂! しりとり魔法

「しりとり魔法」


 スキルパネルのステータスウィンドウ。

 その赤い文字にはそう書かれていた。

 しかし、意味はさっぱり分からない。


 とにかく詳細を知る事だ。

 魔法と言うからには、魔法に関するスキルなのは間違いない。

 でも、結局MPが0ではどうにもならないのではないか。

 期待と不安でドキドキしてくる。


「しりとり魔法」のスキルの宝玉に意識を集中させる。

 するとスキルの説明が。


「しりとり魔法:呪文がしりとりになっていれば消費MP0」


「消費MP0」。

 その単語に釘付けになる。


 何かの見間違えじゃないよな。

 MP0で魔法が使えるって事でいいのだろうか。


 魔素を集めずに魔法が使えるなんて事があり得るのだろうか。

 結局、呪文を唱えようとしたらむせ返るんじゃないだろうか。


 とにかく使ってみれば分かる事だ。

 深呼吸して心を落ち着ける。


 呪文がしりとりになっていないといけないらしい。

 幸い、僕の習得魔法は数多い。

 しりとりになる魔法を探す事はできるはずだ。


 うーん。

 人生初魔法は何にするべきか。


「うわあああっ!」


 そう思っていると冒険者達の悲鳴が近づいて来た。

 逃げ惑う冒険者達の向こうにはアイアンゴーレムが。


 そうだ。

 まずはあいつを何とかしないと!


「逃げて!リンクス君」


 ルナテラスさんが座り込んでいる僕に叫んでいる。


「アイアンゴーレムがこんなところに出るなんて!」


 立ち上がり、アイアンゴーレムの巨体をきっと見据える。

 あれに殴られたらひとたまりもないだろう。

 刃物も通らない、生半可な打撃ではビクともしない魔法生物。

 Fランク冒険者どころか、ベルナール達Dランクにだって手に負えないだろう。


 しかし、今僕がするべき事は逃げる事じゃない。


「僕が戦います!」


「何を言ってるの?」


「ルナテラスさんのおかげです。

 ついに覚えたんです。


 ユニークスキルを!」


「リンクス君?!」


「いきます!


『しりとり魔法』です!」


「しりとり……?」


 何の事やら分かっていないルナテラスさん。


 でも僕は分かる。

 まるでこのスキルの所作を生まれた時から知っていたかのように。


 アイアンゴーレムが僕の姿を確認した。

 ズシンズシンと物音を立て、近づいて来る。

 僕は両手の拳を握りしめた。


 まずは左手を開き、前に突き出す。


「ライトニン……!」


 そして、次に右手を広げ、突き出す!


「グラビティー!」


 アイアンゴーレムに雷が落ちる。

 轟音と共に巨体が動きを止める。


 さらに、巨体がガクンと膝を落とす。

 周囲の地面が丸く落ち込み、ゴーレムは膝をついた。


 使えた!


 落雷で攻撃するライトニングと、重力波で押しつぶすグラビティ。

 二つの魔法がアイアンゴーレムに炸裂した。


 間違いなく魔法が発動した。

 むせてもいない。


 しかし、ゴーレムはすぐに動き出す。

 破壊に至る一撃ではなかった。


「ライトニングラビティーッ!」


 僕は二撃目の魔法を放つ。


 電熱と重力波のコンボでゴーレムはひしゃげていく。

 しかし、まだ僕に近づいて来る。


「ライトニングラビティ!」


「ライトニングラビティ!」


「ライトニングラビティ!」


 さらに連続攻撃。

 何度でも使える。

 本当に消費MPは0だ。


 やがて、アイアンゴーレムは湯気を上げてぺしゃんこの鉄塊になった。


 本当に僕がこの強敵をやっつけたのだ。

 それも魔法を使って。

 震える両手を広げ、見つめる僕。


 歓声が聞こえて来た。

 Fランク冒険者達が駆けつけて来る。

 そして、彼らをかき分けてルナテラスさんが話しかけてきた。


「リンクス君。本当に魔法が使えるようになったの?」


「はい! 『ライブラリ』してみて下さい」


 またもやルナテラスさんに見つめられる。


「呪文がしりとりになっていれば消費MP0……か。

 かわいい名前だけど、これってあなたにうってつけじゃない!」


 そうなのだ。

 僕はついに魔法を使えるようになったのだ!


 呪文がしりとりになっていなければならない縛りはあるが、MPがなくとも魔法が使える。

 それどころか、消費MP0で何度でも無制限に使える。


 やっと僕の多彩な習得魔法と魔法使い向けのステータスを活かすチャンスがやってきた。


 そして、これが僕の大冒険の始まりだった。


 ◇◆◇


 その夜、僕の倒したアイアンゴーレムの残骸を見つめる一人の姿があった。

 シルクハットに燕尾服、首には人型のぬいぐるみを下げている。


「誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ?

 ボクちゃんのゴーレムをこんなにしたのはああああっ!」


 その姿はヒステリックに叫ぶと天を仰いだ。

 広げた手には長い爪が生えている。


「これは許せん。

 許せん許せん許せん許せん許せんなあああつ!」


 大きく開いた口には牙が生えている。

 それは明らかに人間ではなかった。


 宙に浮いてあぐらをかくと、その姿はあごに手を当て思案顔になった。


「これはこれはこれはあああ!

 港町マイリスの冒険者どもの仕業なのかあっ!」


 そう叫ぶと喉をかきむしる。


「人間の冒険者なぞにコケにされては魔王軍四天王の名折れ……!」


 そのままシルクハットのつばを持って被りなおした。


「ゴーレムマスター、メルティ様の名折れではないかっ!


 許せん許せん許せん許せん許せんなあ!」


 暗い森の中を魔物の絶叫がこだました。

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