第5話 ユニークスキル

「ユニークスキルって何なんですか?」


「世界でただ一人しか習得しないスキルの事よ」


 世界でただ一人……。


 そう聞くとすごそうではある。


 でも僕にとっては魔法を使えるようにしてくれるかどうかが重要だ。

 希少である必要はない。

 MPが増加する効能さえあれば、ありふれたスキルで何の問題もない。


「勇者エレインの事は知ってる?」


 勇者、エレイン=エクター。

 試練の神殿から勇者の剣を持ち帰り、魔王軍四天王の一人を撃破した世界の希望だ。

 この大陸に住んでいて彼を知らない人間なんていない。


「彼が『勇者』と呼ばれるのはユニークスキル、『知勇兼備』を習得したから。

 歴代勇者が持っていたというスキルよ。

 だから試練の神殿に挑戦する事になった」


 そして見事、勇者の剣を手に入れたと。


「ユニークスキル持ちは希少よ。

 ユニークスキルを覚えられるなら、もう少し頑張ってみようか」


 かくして僕はルナテラスさんからトレーニングを勧められた。

 その日は冒険者の心得と簡単な基礎訓練だったが、明日は哨戒を兼ねての実戦との事だった。


 まずは訓練だが、僕はショートソードを持っている。

 それで今まで戦って来た。

 しかし、僕の能力は魔法使い向きで、腕力もなければ武器を扱うスキルもない。


 弱いとされているゴブリンやコボルドといった魔物でさえ単独では撃破できない。


「やはり武器を扱う適性はないようね」


 一日指導してもらったが、ルナテラスさんも僕の構えや素振りを見てそう判断した。



 次の日、僕達Fランク冒険者は実戦に臨む事になった。

 魔王の登場以来、魔物の発生が増え、凶暴化も進んでいる。


「最近、この辺りはクレイゴーレムが出現します。

 力は強いですが動きは鈍い。

 これを退治しましょう」


 土を素材にしたクレイゴーレムは自然発生する可能性があるのだ。

 市街地などは神聖魔法で守られている事が多いので現れないけど。


 僕らが森林地帯に到着すると土でできた人型の魔物がすでにいた。


「やってやらあ!」


 いきなり一人の冒険者がゴーレムに向かって行く。

 昨日、僕にぶつかってきた少年だ。

 槍の一撃がクレイゴーレムに突き刺さった。


「キミ! 待ちなさい!」


 ルナテラスさんは静止している


「やったぜ! ……って!

 うわあああああ!」


 その攻撃をものともしないクレイゴーレムが暴れ回る。

 少年もそのまま一緒に振り回されてしまう。


 結局、槍を手放して吹っ飛ばされる少年。

 そのまま、気を失ってしまう。


 僕は少年のところまで駆けて行った。

 彼にクレイゴーレムが迫っていたからだった。


 ショートソードで攻撃を仕掛けると、こちらに注意を向ける事に成功した。

 ルナテラスさんが少年を救出したのを確認して僕も退散する。


「頑丈なクレイゴーレムには打撃か魔法攻撃よ。

 刺突や斬撃は効果が薄いわ」


 少年を手近な木に寄りかからせるとルナテラスさん。

 Fランク冒険者を見渡すとハンマーや斧のような打撃武器を扱えるものを呼んだ。


「わたしが敵の注意を引くからその間にみんなで攻撃して」


 冒険者達がクレイゴーレムと交戦している。

 打撃武器だけでなく、魔法で攻撃するものもいる。

 しかし、僕の出る幕はない。


 僕の隣にはポニーテールの少女が。

 さっきぶつかられた子だ。


「君の武器もゴーレムには効かないの?」


「は、はい。これは斬撃専用なんです」


 細い武器が彼女の腰の鞘に収まっている。


「そ、それにあんな怖い魔物、怖くて……」


 とても怖がりな女の子みたいだ。

 なんで冒険者になったんだろう。


 と、言う間にどうやらクレイゴーレムは倒されたようだ。


 チームワークをルナテラスさんがほめている。

 Fランク冒険者達も盛り上がっていた。

 きっとこの戦いでコツをつかんでランクを上げる者もいるんだろう。


 しかしここで大きな物音と悲鳴が起こる。


 またもや巨大な魔物が近づいて来たのだ。

 クレイゴーレムに似ているが色が黒い。


 というか材質が違った。


「アイアンゴーレムだ!」


 誰かが叫ぶ。


 そう。それは鋼鉄の巨人だった。


「アイアンゴーレム!

 なぜこんなところに?!」


 ルナテラスさんも戸惑っている。

 アイアンゴーレムはクレイゴーレムと違って自然発生はしないはずだ。

 しかし、まぎれもなく目の前に鋼鉄の巨人はいた。


「あれを街に近づける訳にはいかない!」


 斧やハンマーを持った戦士や魔法使い達と共にアイアンゴーレムを迎え撃つルナテラスさん。

 他の者達は足手まといにならないように下がる。


 僕を含めて。


 キャリア数か月の新米冒険者や女性を前に立たせ、後ろに下がる。

 情けないけど、僕がショートソードを持って前に出ても邪魔にしかならない。

 これが僕の現状なのだ。


 ベルナールが怒るのも無理はない事だと思った。


 最後のスキルを覚えるまで、なんて思ってたけど、それもみっともない事だと思えてきた。

 やっぱり今日、冒険者をやめるべきじゃないのか?


 最後のスキルだって覚えたところで魔法が使えるようになる確証はない。

 最後のスキルだって……。


 自然とステータスのスキルパネルに目が向いた。

 魔法陣型スキルパネルの中心。


 赤い文字で???と……


 書かれてなかった!


 文言が変わっている。


 さっきのクレイゴーレムを倒した事で習得したのか。

 一体、何のスキルを?


 スキル名を確認する。


 その赤い文字は、


「しりとり魔法」


 そう書かれていた。

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