第4話 能力診断
指定された場所に行くと、すでにたくさんの冒険者がいた。
鎧を付けた戦士や騎士。
僕のようにローブを纏った魔法使い。
修道服のローブを着た僧侶などだ。
しかし、Fランクを集めたトレーニング、一年目の者がほとんどだった。
4年目なんて僕しかいない。
そして、僕は悪い意味で有名だった。
これまで、誰もが僕を追い越して、上のランクに上がって行った。
時折、指をさして笑われている。
このトレーニングにおいてすら僕は侮蔑の対象だった。
トレーナーの人だって、前途有望な若い冒険者の面倒を見るのが本来の目的だろう。
あまり迷惑をかけないようにしようと思った。
そう思っていた矢先、
「うわっ」
誰かがぶつかってきた。
嫌がらせかと思ったがそうではなかった。
「あ、ごめんなさい………」
黒い髪のポニーテールの女の子だった。
多分この子は二年目の冒険者だった気がする。
知り合いではないが、ギルドで見かけた事がある。
腰に長い剣の鞘を下げている。
「大丈夫……!
わたしはできる。
わたしはできる。
わたしはできる。
怖くない。
怖くない。
怖くない」
下を向いて、何やらブツブツ言いながら通り過ぎて行く。
まあいろんな人がいるんだろう。
「お待たせしました!
Fランク冒険者の皆さん」
元気な声の女性は、赤毛のおかっぱ頭に黒縁眼鏡のイネスさん。
普段カウンターに座ってるところしか見た事なかったが、結構小柄だった。
「ビギナー冒険者トレーニングを開始しますよ!」
ビギナーという言葉が突き刺さる。
「こちらが講師の先生です」
イネスさんの後ろにいた女性が一歩前へ。
かなり若い。
スラっと背の高い長い栗色の髪の女性。
胸当ては鉄製だが、他は革製の衣服を纏っている。
軽装備の姿。
筋肉質ではないが、しなやかな感じだ。
「ルナテラス=フェザントです。
レンジャーをやってます」
レンジャーは軽装で、探索や野外活動を行う戦士の事。
「武器は剣とムチと弓を扱ってるわ。
これからよろしくね」
扱える武器のスキルが多彩なのも特徴だ。
落ち着いた雰囲気だが、明るい感じの大人の女性だった。
「ルナテラスさんは激戦区の王都周辺でも、腕利きとして知られているんですよ。
この機会にしっかり学んで下さい」
そう言うとイネスさんは帰っていく。
きっと受付が忙しいんだろう。
「まずはひとりひとり、面談させてもらいます」
並んで面談を受ける事に。
前途有望な若い冒険者から面談してもらうのが筋合いだ。
四年目のFランク冒険者の僕など、面談で引退を勧められる可能性すらある。
僕は一番後ろに並ぶ事にした。
すると目の前から何やらぶつぶつ声が聞こえる。
「えっと……。
わたしの名前はカエデ。
HPは54。
MPは30。
力は……」
目の前のポニーテールの少女だった。
さっきぶつかってきた子だ。
近くで見ると、すごく長いポニーテールだ。
「あのさ、君」
僕は話しかけた。
「あの講師の先生は『ライブラリ』の魔法が使えるみたいだから、申告はしないでいいと思うよ」
ルナテラスさんは相手の目を見て魔法を発動させてから面談を開始していた。
あれは相手のステータスウィンドウを閲覧する「ライブラリ」の魔法だ。
ぼくも習得している。
もちろん、使った事はない。
ちなみに、無断で相手のステータスウィンドウを閲覧する事はマナー違反だ。
考古学者をやっている僕の父親によると、視力の優れた人間は遠距離からの「ライブラリ」の魔法で他人のステータスウィンドウの閲覧ができるらしい。
ステータスウィンドウが「網膜投影型ディスプレイ」であるからだという。
かつて諜報行為のライブラリ使いは遠方を凝視して視力を高めていた、との話もあるらしい。
「そ、そうですか。
ありがとうございます……。
落ち着こう。
……………。
そうだ。フィボナッチ数列を数えると落ち着くって聞い事がある。
やってみよう」
女性はまだぶつぶつ言っていた。
と、思ったら今度は後ろから誰かにぶつかられた。
「邪魔だ。てめー」
今度は本当にぶつかられた。
少年だった。
皮の鎧を身に付け、背中に槍を背負っている。
この少年は確か一年目。
以前は仲間と一緒だった気がするけど、今日は一人のようだ。
「てめー、万年Fランク野郎だろ。
邪魔だ! 邪魔だ! もっと詰めろ!」
荒れてるなあ。
僕は黙って席を譲り、静かにしている事にした。
すると、
「えーと……。
でもフィボナッチ数列って何だっけ……?」
前の女性がまだブツブツ言っているのが聞こえる。
Fランク冒険者もクセが強いなあ。
さて、一番最後に並んでいた僕だが、いよいよ面談の番になる。
「ふーむ。
魔法使いタイプなのにMP0かあ」
僕のステータスを閲覧したルナテラスさんはため息をつく。
「僕は何のとりえもない欠陥品なんです。
欠陥冒険者なんです」
「かなり特殊なケースではあるわね。
確かに冒険者以外の道を考えてもいいのかも」
誰もが同じように感じるだろう。
それも仕方がない。
「でも最後のスキルを習得するまでは冒険者を続けようと思ってるんです」
僕も気の利いた答えが提示される事を期待していない。
これまで通りだ。
最後のスキルの開示までは頑張る。
それで魔法が使えるようにならなければ、今後こそ冒険者はやめる。
そう決めていた。
「未収得スキルがあるんだ。
それどれ?」
僕の目を見て、ルナテラスさんが精神を集中する。
「ライブラリ」
ステータスウィンドウを閲覧する「ライブラリ」の魔法は、スキルパネルも閲覧できるのだ。
「これって……!」
驚くルナテラスさん。
「この最後のスキルはユニークスキルじゃない」
ユニークスキル?
「ほら、この真ん中の???は赤い字で書かれてる。
このスキルはユニークスキルよ」
確認すると確かに、魔法陣型のスキルパネルの中心の???は赤い字で書かれている。
今までは気にしていなかったなあ。
「ユニークスキルって何なんですか?」
「世界でただ一人しか習得しないスキルの事よ」
僕がユニークスキルの存在を、初めて知った瞬間だった。
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