第11章 茶屋に広がる温もり

 春の柔らかな陽射しが、ふわもこ村を優しく包み込む季節となった。ミアのふわもこ茶屋は、開店から一年以上が経ち、すっかり村の風景に溶け込んでいた。


 朝もやの立ち込める早朝、ミアは茶屋の準備に取り掛かっていた。窓を開けると、清々しい空気が店内に流れ込む。


「今日も良い天気になりそうね、モフモフ」


 ミアの言葉に、モフモフはのんびりと伸びをしながら答えた。

「うん、春の匂いがするよ。今日はどんなお客さんが来るかな」


 ミアは丁寧にテーブルを拭き、椅子を整える。棚に並ぶハーブティーの瓶を確認し、新鮮なハーブの香りに満ちた空間を作り上げていく。


 開店時間になると、まもなく常連客が訪れ始めた。


「おはよう、ミアちゃん。今日も一番乗りよ」


 リリーが明るい声で入ってきた。彼女の手には、摘みたての花が活けられている。


「リリー、おはよう。その花、とても素敵ね」

「ふふ、今朝摘んできたの。茶屋に飾ってもらえたらって」


 ミアは感謝の言葉を述べ、花瓶に活けた。淡いピンクと白の花々が、店内に春の彩りを添える。


 朝のひととき、茶屋には村の農夫たちが集まってくる。彼らは畑仕事の前に、ミアの特製モーニングティーを楽しむのが日課となっていた。


「ミアちゃん、いつものを頼むよ」

「はい、農夫さん特製ブレンドですね」


 ミアは丁寧にお茶を淹れる。程よい苦みと爽やかな香り、そして彼女の魔法が織りなす特別なお茶。一口飲むだけで、身体に活力が満ちていくのを感じる。


 午前中が過ぎ、昼どきになると今度は主婦たちが三々五々と集まってくる。彼女たちは、買い物帰りにミアの茶屋で一息つくのが楽しみになっていた。


「ミアちゃん、今日のランチメニューは何かしら?」


「今日は、春野菜のキッシュと、ラベンダーのスコーンです。どちらも、ほんのり魔法をかけていますよ」


 主婦たちは歓声を上げ、早速注文する。ミアの料理は、食べる人の心を温めるだけでなく、家事の疲れを癒す不思議な力を持っていた。


 午後になると、今度は村の子どもたちが学校帰りに立ち寄る。


「ミアお姉ちゃん、宿題を教えて!」

「僕たちにも魔法のお菓子ちょうだい!」


 ミアは優しく微笑みながら、子どもたちの要望に応える。彼女の作る魔法のクッキーは、食べると頭が冴えて勉強が捗るという評判だった。


 夕暮れ時、茶屋は静かな時間を迎える。この時間、ミアは特別なブレンドティーを用意する。「夕暮れの癒し」と名付けたそのお茶は、一日の疲れを優しく溶かしていく。


 夜になると、村の年配の方々が集まってくる。彼らは穏やかな雰囲気の中で、昔話に花を咲かせる。ミアは彼らの話に耳を傾けながら、ゆっくりとお茶を注ぐ。


 閉店間際、最後の客が帰っていった後、ミアは深い満足感と共に一日を振り返る。


「ねえ、モフモフ。私たちの茶屋、本当に村の人たちの暮らしに溶け込んでいるみたいね」


 モフモフは、まんまるな目で優しく答えた。

「うん、ミアの魔法と心遣いが、みんなの日々を豊かにしているんだよ」


 ミアは窓の外を見やる。村全体が、優しい光に包まれているように見えた。小さな茶屋から始まった温もりが、確実にふわもこ村全体に広がっていく。そんな幸せな実感と共に、ミアは今日も店じまいを始めるのだった。

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