第12章 季節を彩る小さな祝祭

 春から夏へと移り変わる頃、ミアは茶屋でささやかな季節のイベントを企画することを思いついた。四季折々の美しさを、村人たちと共に楽しみ、分かち合いたいという想いからだった。


 最初のイベントは、「初夏の花見茶会」と名付けられた。ミアは茶屋の裏庭に、色とりどりの初夏の花々を植えた。リリーの助言を得ながら、アジサイ、バラ、ラベンダーなどを丁寧に育てあげた。


 イベント当日、裏庭は美しい花園へと姿を変えていた。淡い紫のアジサイ、鮮やかなピンクのバラ、そして香り高いラベンダーが、訪れる人々の目を楽しませる。


「みなさん、ようこそ初夏の花見茶会へ」

 ミアは笑顔で村人たちを迎え入れた。


 茶会のために、ミアは特別なブレンドティーを用意した。バラの花びらとラベンダーを使った「初夏の風味」と名付けられたそのお茶は、一口飲むと心が華やぐような不思議な力を秘めていた。


「まあ、このお茶、飲むと心が軽くなるわ」

 年配の女性が目を細めながら言った。


「本当ね。まるで花と一緒に踊っているみたい」

 隣に座った友人も頷く。


 子どもたちは、ミアが用意した「お花のクイズ」に夢中になっていた。花の名前や特徴を当てるゲームは、楽しみながら自然について学べると好評だった。


「ねえねえ、このピンクの花の名前は?」

「それはコスモスよ。秋に咲く花なのよ」

 モモおばあちゃんが優しく教えてくれる。


 昼過ぎには、みんなで花冠作りを楽しんだ。ミアが用意した様々な花を使って、思い思いの花冠を作る。出来上がった花冠は、それぞれが魔法をかけたかのように、着ける人の表情を明るくする力を持っていた。


「ミアちゃん、この花冠、着けると元気が出てくるわ」

 リリーが嬉しそうに言った。


「みんなの想いが、花と一緒に編み込まれているからかもしれないわね」

 ミアは優しく微笑んだ。


 夕方になると、茶会は自然とキャンドルナイトへと移行していった。ミアが用意した魔法のキャンドルは、ほのかな光と共に、花々の香りを漂わせる。


 キャンドルの柔らかな明かりに照らされながら、村人たちは穏やかな会話を楽しんだ。日々の暮らしの中で感じる小さな喜びや、時には悩みを分かち合う。ミアは、そっとハーブティーを注ぎながら、みんなの話に耳を傾ける。


「ねえ、ミア」

 モフモフがそっと話しかけてきた。

「みんな、本当に幸せそうだね」


「そうね。こうして集まって、お茶を飲みながらゆっくり過ごす時間。これが本当の幸せなのかもしれないわ」


 夜も更けてきた頃、村人たちは名残惜しそうに帰路につき始めた。


「ミアちゃん、素敵な時間をありがとう」

「また次のイベントが楽しみだわ」


 見送りながら、ミアの心は温かな満足感に包まれていた。季節の移ろいと共に、こうして小さな幸せの時間を重ねていく。それが、ふわもこ村の新しい伝統になっていくのかもしれない。


 茶屋の片付けを終えた後、ミアは再び裏庭に出た。月明かりに照らされた花々が、静かに揺れている。


「みんな、ありがとう。これからも、たくさんの人を癒してあげてね」


 ミアのその言葉に呼応するかのように、花々が優しく頷いているように見えた。夜風に乗って、かすかに花の香りが漂う。それは、明日への小さな希望の香りのようだった。

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