いったんエピローグ 新たな決意
ふわもこ茶屋が開店してから一年が過ぎた。四季折々の変化を経て、茶屋は村の、そして近隣の町々の人々にとって欠かせない存在となっていた。ミアの癒しの魔法は日に日に強くなり、彼女の作り出す料理や飲み物は、訪れる人々の心身を優しく包み込んでいた。
穏やかな春の朝、ミアはいつものように茶屋の準備をしていた。窓から差し込む柔らかな陽光が、店内を温かく照らしている。
「おはよう、ミア」モフモフが、のんびりと挨拶をした。
「おはよう、モフモフ」ミアは微笑みながら答えた。「今日も素敵な一日になりそうね」
その時、ドアのベルが鳴り、一人の旅人が入ってきた。長旅の疲れが顔に刻まれているが、どこか凛とした雰囲気を漂わせている女性だった。
「いらっしゃいませ」ミアは温かく迎え入れた。「ゆっくりおくつろぎください」
旅人は静かに頷き、窓際の席に座った。ミアは、その女性の様子を見て、特別なお茶を淹れることにした。
丁寧にブレンドしたハーブティーに、ミアは心を込めて癒しの魔法をかけた。湯気と共に立ち上る香りは、春の野原のように爽やかで優しい。
「どうぞ、お召し上がりください」
旅人が一口飲むと、その表情が驚きに変わった。
「これは……驚くべきお茶です。身体の疲れが溶けていくようです」
ミアは嬉しそうに微笑んだ。「ありがとうございます。このお茶には、ふわもこ村の魔法と私の想いを込めています」
旅人は、ゆっくりとお茶を味わいながら、ミアと会話を交わし始めた。彼女の名前はセリナ。魔法の研究をしている学者で、世界中を旅しているという。
「あなたの魔法は本当に素晴らしい」セリナは真剣な眼差しでミアを見つめた。「こんな穏やかで、それでいて力強い癒しの魔法は初めて見ました」
ミアは照れくさそうに頬を染めた。「ありがとうございます。でも、まだまだ未熟です」
「いいえ」セリナは首を振った。「あなたの才能は特別です。もし良ければ、私と一緒に旅をしませんか? 世界中の人々を癒す力を、さらに磨くことができるはずです」
ミアは驚いて目を丸くした。世界中を旅する……それは魅力的な提案だった。しかし、ふと周りを見渡すと、ミアの心に温かな確信が芽生えた。
「セリナさん、ご提案ありがとうございます。でも、私の場所はここ、ふわもこ村にあるんです」
セリナは少し残念そうな表情を浮かべたが、すぐに優しく微笑んだ。
「そうですか。あなたの決意、尊重します。このふわもこ村には、特別な魔法が宿っているのかもしれませんね」
その日の夕方、ミアは村人たちに自分の決意を伝えた。モモおばあちゃん、リリー、ニコ、そして多くの村人たちが集まってくれた。
「みんな、私はこの村に残ることにしたの。ここで、もっと多くの人々を癒していきたいの」
村人たちは、喜びの声を上げた。
「ミアちゃん、本当? 嬉しいわ!」リリーが飛びつくようにミアを抱きしめた。
「そうか、そうか」モモおばあちゃんが穏やかに微笑んだ。「あなたの決断を誇りに思うわ」
ニコは元気よく跳ねながら言った。「やったー! ミアがいてくれれば、この村はもっともっと素敵になるよ」
その夜、ミアは星空の下で深呼吸をした。旅に出ないという選択は、決して世界を拒絶したわけではない。むしろ、この小さな村から、世界中の人々の心に届く魔法を紡ぎ出していく。そんな新たな決意が、ミアの心に芽生えていた。
「ねえ、モフモフ」
「なに、ミア?」
「私、このふわもこ村をもっと素敵な場所にしていきたいの。ここに来れば誰もが癒される、そんな特別な村にね」
モフモフは、優しく微笑んだ。
「うん、きっとできるよ。ミアの魔法は、この村から世界中の人々の心に届くはずさ」
ミアは、深く頷いた。明日からも、一杯一杯のお茶に想いを込めて、訪れる人々の心を温かく包み込んでいこう。そして、このふわもこ村を、世界中の人々が憧れる癒しの聖地にしていこう。そう心に誓った。
ふわもこ村の夜空に、新しい星が輝き始めたかのようだった。それは、人々の心に灯された小さな希望の光。ミアの魔法が紡ぎ出す、温かな物語は、これからもこの村で続いていく。
風車がゆっくりと回り、村全体を優しく包み込む「ゆるゆる結界」が、より一層強くなったように感じられた。ミアの新たな冒険は、まだ始まったばかり。彼女の魔法が、この村から世界中の人々の心を温めていく――その物語は、これからも静かに、しかし確実に広がっていくのだった。
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