12.

「メリーゴーランドもダメ、だった? ごめんね、無理やり乗せちゃって⋯⋯」

「ぼくも、ごめんなさい⋯⋯」

「いや⋯⋯俺のせいだ。⋯⋯上下に動くとは思わなくて⋯⋯」


詩織が「上下?」と疑問符を浮かべていたのも束の間、「ああ!」と納得した声を上げた。


「馬が動いたことね! ⋯⋯ああ、そうなの。確かに知らなくて急に動いたから怖いもんね。私も小さい頃は、怖かったなぁ⋯⋯」


独り言のように呟く詩織に、先ほどの出来事が脳裏に過ぎった。

小さい頃は怖がっていた、ということだからやはり今は怖くはないということか。


そうすると、いい大人である自分がより惨めに思える。


人知れず嘲笑った。


「久須君、もうちょっとここで休んでる? 何かお水買ってこようか?」

「いい⋯⋯。俺、ここにいるから、二人で乗ってくればいい」

「しょーやさまがしんぱいです!」

「だが、いつまでもここにいても、面白くないだろう。いいから、行ってこい」


膝に手を乗せていたジルヴァは、離れがたそうにしていたが、詩織が言った。


「分かった。久須君の分まで楽しんでくるね。ジルヴァ君、よければ、私とコーヒーカップに乗ってくれないかな」

「こーひーかっぷ?」

「そう。大きなカップに乗ってぐるぐるするの。さっきよりもすごくぐるぐるするんだけど、楽しいと思う」

「のってみたいです!」


顔を上げた時は、目をきらきらと輝かせているジルヴァの姿があった。

所詮子どもだなと、力なく笑った。


「じゃあ、私達コーヒーカップに乗ってくるね」

「しょーやさま、おだいじに〜」


こちらに手を振る二人に小さく頷くと、手を繋いだ二人の後ろ姿を見送っていた。

何かを話しているらしい。それでも、詩織とジルヴァが楽しそうに笑い合っていることが分かった。


自分なんて今どんな顔をしているのか分からないのに、あんな自然と笑った顔ができて、それに触発されたジルヴァがその顔で返している。


あんな当たり前ができたらいいのに。

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