8.

「デート?」

「そう! デートってド直球には言ってないけどさ、こっちから誘って、相手がその気があるのならそう思うじゃん! ってことで、来週、兄貴の休み──」

「デートってなんだ」


表情が固まった。

ジルヴァも「でーとってなんですか?」と復唱するように言うと、「嘘だろ⋯⋯」と信じられないという顔をした。


「この世でその言葉を知らない未知の生命体がいんのかよ」

「仮にもお前の兄である相手に、そんな呼ばれ方をするとは」

「いや、だって、そこまで知らないとか思わなかったし」

「一応言葉は知ってる。だが、どうしてそんな言い方をするのか意味が分からない」

「あー⋯⋯なーる⋯⋯」


ぽかーんと口を開けて天を仰ぐ弟を尻目に、「でーとってなんですかっ!」とあぐらの上で座っていたジルヴァが服を引っ張ってまで訊いているのを、「恐らく⋯⋯」と言って、多分こういうのだろうという説明をしていると、「決めた!」と声を上げた。


「来週までに、兄貴にデートというのは何たるか徹底的に教えてやるっ!」

「⋯⋯面倒くさい」

「面倒くさがるな! デートの約束をしちまっているんだからっ!」

「それは、お前が勝手に人の携帯で勝手に約束をしたんだろう」

「でーとっ!」

「兄貴よりもジルヴァの方がやる気満々じゃないか! やる気があっていいぞ、ジルヴァ」

「ジルヴァに行かせた方がいいんじゃないか」


その独り言のようなことも聞こえてしまったらしい。匡が輪をかけて怒り、そしてそのままデートの心得を延々と言うのであった。

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