6.

「まあ⋯⋯俺の中学時代の同級生⋯⋯らしい」

「中学の! 同級生っ!?」


突如、素っ頓狂な声を上げる匡に二人は呆気に取られていた。

そんな驚くことか。


「もしかして、その人と連絡先を交換したのか?」

「ああ、携帯を持っていくのを忘れたから紙に」

「おお⋯⋯それは! ⋯⋯ということは、ついに兄貴も春が来たんだなっ!」

「⋯⋯春?」


急に何を言い出すのか。

それはジルヴァも同じだったようで、「はるは、さくらがきれいで、ぽかぽかしているきせつですよね?」と訊いてくるのを、「そのはず。連日の暑さで頭がやられたようだ」と抱き直し、顔を見合わせる形となった子狼に「そっとしておいてやろう」と言った。


「人が熱中症でやられたみたいに言って! 今は秋に近いし、さほど暑くねーし! てか、春ってそっちの意味じゃなくて、恋の話だ! 恋の!」


鬼気迫る顔をし、ハートマークを作った手をぐいぐいと押しつけてくる。鬱陶しい。


「⋯⋯まだ寝ぼけているようだ」

「まさしさま、ねむねむですか?」

「ちげーわ! 兄貴の方こそ寝ぼけているわ! その同級生が兄貴に気があるっていうのに!」

「どの辺りが?」

「連絡先を交換したところ! 気がなければ交換しようとは思わないし!」

「それはジルヴァとまた話がしたいとか。あと、縁とか何とか言っていたような」

「それは建前だよ。はっきり言えない相手だっているんだよ。あーもう、なんでそんなにも分からないんだ〜」


頭を抱えて嘆く弟に、「分かるわけないだろ」と返した。

思わず声に出したように、本当に分からないのだ。

親に急に見放され、友達がいたことがなく、同級生には嘲笑の対象とされ、そんな人間が弟が言う恋というものを知る機会が全くなかったのだ。

あの頃は特に容姿が酷かったものだから尚更。

だから、たまたま会った女子が何故、祥也のことをそういう目で見ているのか。

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