5.


「やさしいかたでしたね」


家に帰ってきた時、ジルヴァはほっこりとした顔をしていた。

ジルヴァは絶滅危惧種の狼であり、特殊能力である優しい人の前でしか人間の姿にならない。そうやって、色んな"ごしゅじんさま"の元を転々としていたらしい。


「優しい⋯⋯だから、こんな俺に話しかけてきたのか」

「しょーやさまもやさしいからだとおもいます!」


すかさずそう言ってくれる言葉は、何度も自信満々に言ってくれる言葉だった。


「⋯⋯ジルヴァがそう言うなら」


頭を撫でてやると、ぴんと立っていた耳が垂れていった。

表情からして撫でられて嬉しいと思っているようだった。

上手く笑えているか分からない表情を向けていると、突然はっとした顔をした。


「どうした、ジルヴァ」

「まさしさまがかえってきます⋯⋯!」

「匡が?」


扉の方へ顔を向けるジルヴァと同じように向いていると、「ただいま〜」と扉を開けながら入ってくる弟の姿があった。


「おかえりなさい!」

「お、何で二人して出迎えてくれているの? もしかして、可愛い可愛い弟の帰りを首を長ーくして待ってくれていたのか!」

「違う断じて違う」


靴を脱ぎ捨てこちらに両手を広げて駆け寄って来る弟の脅威から、ジルヴァを抱き上げ、避けたことで回避した。


「いった〜! なんで避けるんだし!」

「危ないという以外に理由が?」

「兄貴、酷い! さっき無理やり外に出したことを根に持っているのか!」

「そうだな。ほぼ寝てないのに起こす方が酷い」

「ですが! しおりさまとあいましたー!」

「しおり⋯⋯さま⋯⋯?」


腕の中で弾んだ声を上げるジルヴァに匡が首を傾げていると、「しょーやさまとおなじぐらいやさしいかたです!」と答えになっていない答えを返した。

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