6 面接試験その2……っていうかこれロジハラくさいな
ポロペア・ヒューネチッタはにこやかな表情で現れた。
どっかりと豪快に椅子に座ると、
「よろしくお願いします」
と挨拶をした。
レヴィは反応を返すこともなく、先を促した。
「名前を」
「ポロペア・ヒューネチッタです」
「グルヴァのメンバーか」
「ええ」
「なぜ冒険者になろうと?」
「鉱山は魔物の棲み処になっている場合が多いです。危険地域に指定されて、鉱床を泣く泣く諦めることもあります」
「つまり、資源の開拓をしたい、と」
「ええ」
「グルヴァとして冒険者になるということか」
「というより、冒険者としてグルヴァに貢献できればと考えてます」
「では、グルヴァの競合ギルドの鉱山に魔物が現れて犠牲者が出た時にはどうする?」
「そりゃあ、助けに行きますよ!」
「グルヴァの頭取から止められても?」
ヒューネチッタは笑った。
「競合ギルドだとしても、鉱山でのトラブルは助け合うのが鉄則です。頭取が止めるはずがない」
「魔物の中には鉱物を身体の中に溜め込んだり、巣に集めたりする習性を持っているものもいるな」
「ええ。厄介な奴らですよ。近づけませんからね」
「それはなぜ?」
「そう言いつけられてるもので」
エイダは首を捻る。
(魔物に使づけないのは、呪詛が放たれている可能性があるから……。この人はそれを知らないのか)
手元の資料に学科試験の成績は中間程度となっていたのをエイダは思い出した。
「その魔物が人々に危険を及ぼすような場所に巣を移したとしたら、どうする?」
「そういう魔物は俺たちにとっては荒ぶる神のようなものです。大人しく場所を明け渡すしかありませんね」
レヴィが顔をしかめた。
「人々の安全が脅かされているというのに、むざむざと白旗を上げるのか? 冒険者としての矜持はないのか? 不可能だと決めつけているだけではないのか?」
ヒューネチッタは不服そうに声を上げる。
「そんなことはありません! 隙があれば、迎え撃ちますよ。大切な人たちを守るためなら」
エイダは心の中で感心していた。ヒューネチッタの覚悟に、ではなく、レヴィのやり口に。
(今のは相手を揺さぶるために、わざと“冒険者としての矜持”なんて話を持ち出したんだ。こういう意地悪な認定官、私の時もいたなぁ……)
案の定、餌に食いついたのをレヴィが見逃すはずもなかった。
「迎え撃つことが守ることになるのか? 冒険者としての矜持とは一体何だ?」
「害をなす魔物がいなくなればみんなが平穏に暮らせるでしょう。そういう世界を創るのが冒険者です。危険と平和の狭間で最後まで踏ん張り続けることが人々に希望を与えるんです」
「では、自分自身は誰が守る? 仮に君が死んだ時、希望を失い、魔物以外の危険からも人々を守る知識や力を持った者はもうそこにはいないんだぞ」
「他にも仲間を集って……」
「君が魔物に手を出すという判断を下したことで、人々も君も死ぬことになるんだ」
「いや、それは……!」
ヒューネチッタのフラストレーションが溜まっていくのが目に見えて分かった。理不尽に誘導されれば誰でもそうなる。相手が自分よりも年下ならば、怒りは強まる。だから、彼も不満をぶちまけた。
「あなたがそういう風にそそのかしたんですよ! 戦え、と!」
レヴィはいたって冷静だった。
「私が頭取だったら、君は戦うだろう」
その短い一言で、ヒューネチッタは沈黙した。
~*~*~*~
(この人、相手がボロを出すようにして論破してるだけなんじゃ……)
次の受験者を待つ間、エイダはそんな疑問を感じずにいられなかった。
(新聞の投書論戦のコーナーにもこういう揚げ足取りの論破狂みたいなのがいるんだよなぁ……)
エイダの脳裏に、したり顔で投書をしたためるレヴィの姿が思い浮かんでしまう。
「何か言いたそうだな」
エイダが我に返ると、レヴィの視線が目の前にあった。背筋が凝りそうになりながらも、エイダは思い切って疑問をぶつけてみた。
「エーベルハルトさんは冒険者を出したくないんですか? 粗探しをしてマイナスポイントを引き出そうとしているように見えます」
言ってしまってから、上司に向けるにしては自分の言葉はあまりにもキツかったと後悔したエイダだったが、レヴィは意に介していない様子だった。
「人を見極めるのは至難の業だ。考えてみたまえ。君ならどうやって善人を見つけ出す?」
「善人、ですか。やっぱり、自分以外のために尽くしているような人を探しますかね」
「冒険者としての資格を認めるということは、その人物に力を与えるということだ。力を得たその人物がこれから先、変わらないと誰に言えるだろうか」
「変わるかもしれませんし、変わらないかもしれません。未来のことを考えてもキリがありませんよ」
「君の言う通りだ。本当の善人を見つけ出すなら、すでに死んだ者を探すしかない。なぜなら、善人のまま死んだ者だけが悪人ではなかったと証明されているからだ」
「……エーベルハルトさんは、本当の冒険者を見つけ出したいんですか?」
レヴィは眼鏡に手をやって、静かに頬を緩ませるだけだった。
つづく
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