第6話 光る手鏡(4)

 僕は、少女が陣屋の中に入るのを見届けると静かに北根寺へと戻った。その頃少女は陣屋の中で仲間たちと再会できた。


 「柊姫様。よくぞご無事で、何よりです。」


 「九種くだねさんご心配をおかけして申し訳ありません。」


 「ほんと、姉上は身勝手な行動するよね。公務中にいなくなるとか前代未聞だよ。」


 「まぁ無事でなによりですよ。このことは、楠刃くすば様には内緒にしますか 

 ら。」


 「いや、姉上はもうちょっと自分の立場をわきまえてほしいよな。俺たちは北根島

 に遊びに来ているわけではないのに、身勝手な行動が多すぎる。ほんと、勘弁して 

 ほしいよ。」


 「その辺にしなさい。榎那えのな。柊時が気の毒だ。」


 「すみません。父上、度が過ぎました。」


 「柊時よ、お前も大変なのは分かる。だけど、公務は木恩国にとって必要な事だ。 

 特に今回の北根島視察は北根島民の今後に大きく関わることになる。柊時よだか 

 ら、今回は身勝手な行動は慎んでくれ。」


 「ごめんなさい。父上。」


 「姉上なんで袈裟なんか持ってるの?」

 

 「助けてもらった男性からいただいたのですが、間違えてもって来てしまいまし 

 た。」


 「姉上それ返さなきゃダメなやつじゃん。もう、面倒事が多いな。」


 「袈裟の話はそのくらいにして、会議の準備をはじめるぞ!」


 「さて、樅川藩の方たちとの会議を始める。役員を招集せよ。」




 その頃、古祖は寺に戻ったが、仕事を放棄したことに僧侶達は怒っていた。


「古祖!!お前、今日は朝当番だっただろ?許可もなしにどこ行っていたんだ。」


「水郷先輩すみません。困っている女性がいまして助けておりました。」


「お前さぁ雪降っていて女性を助けたい気持ちは分かるけどよ。仕事はちゃんとやろう?みんなに迷惑をかけているじゃないか。それにさぁおまえ、袈裟なくしただろどこに置いてきた?まさか、あんな大切なもの無くしたのか?」


「いえ、女性に防寒着としてお貸したら、そのまま樅川陣屋にもっていかれました。」


「自分の袈裟は安易に渡しちゃダメなの知らないの?もう少し考えよ。」


「はい、申し訳ありませんでした。」


「古祖よ代表僧がお呼びである。仕事を放棄した上に北根寺僧侶の証である袈裟もなくした。これは処分が大きいぞ。」


「はい、覚悟しております。」


僕は、怒られる覚悟で代表僧の元へ行った。


「毛杉代表僧失礼します。」


「おお、古祖か。今日はお前に伝えたいことがある。朝の出来事を覚えているか?」


「はい。覚えております。私は当番の仕事を放棄して凍えていた女性を樅川陣屋まで送り届けました。防寒着として袈裟を貸しましたが、返してもらえず無くしてしまいました。」


「少女を送り届けたという事を証明するものは?」


「いえ、誰もいません。」


「そうですか。本来ならば、証明するものがいない場合は処分を科すことになる。しかし、あなたは北根寺に出家後、真面目に修行してきたので、古祖殿を信用しようと思う。そのため、処分は無しにする。しかし、古祖殿のお咎めなしについては北根寺の僧侶には一切伝えない。自分の力のみで信頼回復に努めよ。」


「えっなんで?いや、ありがとうございます。」


「さあ、古祖殿戻って良いぞ。」


「はい、失礼します。」


「古祖殿、ワシは偶然見たから分かるぞ。そなたが助けたのは神皇家の姫なのじゃ。」

 

 


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