ドラゴンゾンビの本領

 接近を試みるが正面と横は前足で牽制してくる

 後ろは太い尻尾で襲いかかってくる


 ……あの骨の攻撃はしてこない。背中限定? いや、身体から生えるから余り使い勝手は良くないのかな。リーチが短いとか


 攻撃を避けて移動する

 魔物を切り裂いて進む


 ……足を切ろう


 攻撃目標を変えて振り下ろされた前足に大剣を叩き付ける

 鱗に傷が付く


「翼より硬い気がするけど根元よりは厚みが無い、壊せる」


 素早くもう一撃同じ場所に叩き付けると鱗に亀裂が入る

 足による攻撃を避けてもう一度叩き付けて鱗を破壊する

 腐った肉が丸見えになる

 大剣で肉に突きを繰り出す

 鱗のように硬くは無い柔らかい肉に深く突き刺さる

 ドラゴンゾンビが叫ぶ

 すぐに引き抜いて距離を取る

 ドラゴンゾンビは翼を広げて飛行する

 翼の根元の傷はものともしていないようだ

 周囲の瘴気が風で散る


 ……ダメか


 大きく広げられた翼に2発の弾丸が命中する

 クレマが撃ったのだ

 しかし、ビクともしない

 地上に居る魔物を切り裂く

 今飛んでいるドラゴンゾンビに攻撃を入れられるのはクレマだけ


 ……大剣投げるかな。爆弾は……遠いなぁ。判断が遅れた


 既に爆弾を投げても届くか怪しい高さに居る

 ドラゴンゾンビを見ると口を開けている

 大きく口を開けて口の中に光源が見える


「何をする気だ!?」


 分からない、何をしようとしているか分からない

 相手は生物の死体から生まれた存在だが私は生物の知識なんて余り無い

 それも異世界の生物の知識なんて殆ど知らない


 ……すぐに考えろあれはなんだ。光源、光?炎? 確か熱を発する生物が居たはず、上空で構えるなら広範囲攻撃か射程のある攻撃、どっちも厄介


 すぐに考える


「放つタイプなら狙いがあるはず」


 口が向いてる方向を見る

 ドラゴンゾンビは私の方を向いている

 時間が経つ事に光は強くなっていっている


「防御は無理、回避行けるかな」


 山の方へ走って回避を試みる

 防御は諦める、この大剣では私の体を全部隠す事は出来ない上、炎なら熱で焼かれる

 攻撃の範囲が狭ければ避けられる

 範囲が広ければ難しいが動かないと言う選択肢は無い

 そして範囲が広くても位置によってはクレマは巻き込まれない可能性がある

 死ぬとして2人で死ぬか1人死ぬかの差は違う

 チラッと確認すると私をしっかり捕捉している


「ちゃんと追い掛けてきてる。魔力は分からないし銃? も使った事ないから弓用意すれば良かったな」


 戦った相手が今まで射程のある攻撃を使ってこなかった事から用意しなかった

 弓、矢が荷物になると言う懸念もあったが今使ってる特殊なバックなら荷物にならない

 用意しておくべきだったと後悔する


 ……後悔は後、うん? 足音?


 後ろから素早く接近する足音が聞こえる

 振り返るが瘴気が邪魔で見えない

 風で瘴気が吹き飛んでいるのは一定範囲のみ、それよりも遠い位置は瘴気で囲まれてはっきりとは見えない


 ……魔物か? でもあっちから?


 足音は国側から来ている

 倒し損ねた魔物と一瞬思うがドラゴンゾンビ以外の魔物は国側に向かっている

 そう考えたら逆走はしないはず

 しかし、警戒するに越した事は無い

 大剣をいつでも振るえるようにしながら走る

 前方の魔物を切り裂いて進む

 こんな雑魚に足止めを食らう訳には行かない

 攻撃を回避すらせず接近して懐に入り素早く両断する


 足音の主の姿が見えるようになる

 霧の中で視認出来る距離


「騎獣!?」


 足音の主は馬車を引いていた鋼鉄の馬だった

 確かに騎獣の速度は私よりも早い


 ……なんで!? いや、でもナイスタイミング


 何故今騎獣が私の元に現れたか分からない

 既に理由を考える余裕もない

 しかし、一つ分かるのは私よりも早い事

 これなら構えてるあの攻撃から逃げ切れる可能性が高い

 隣に来た瞬間に飛び乗る

 馬の操作は下手だがこれは本物の馬じゃない


「言う事聞いてくれないかな?」


 騎獣に付けられている手網を片手で掴む

 大剣を片手で持って前方の魔物を切り裂く

 倒れた魔物を踏み付けて進む

 バランスを一切崩さず速度も落とさずに駆ける

 空を確認すると丁度放たれそうになっている

 放たれる瞬間を目視する


 ……レーザー!


 一瞬、見覚えがある動きをした

 手綱を引っ張って無理やり横に飛ばせる

 無理やりやったが騎獣はバランスを崩さない

 そしてレーザー状の攻撃は直線上に地面を切り裂き瘴気を吹き飛ばす


「当たったら死んでたなぁ。速度は早いが撃つ瞬間に一呼吸分はある、そして範囲は狭い」


 騎獣を操って魔物を切り裂いて周囲を走り回る

 飛んでいる相手に攻撃手段が無いのは変わらないがあちらの攻撃も当たらないとなれば他の手段を取ってくると考えられる


 ……チャージが長い攻撃、それを避けられたとなれば別の方法で仕留めに来るかなぁ。降りてくるか他の攻撃手段があるのか


 走り回り周囲の魔物を切り裂きつつ様子を見る

 すると口を再び大きく開ける


 ……レーザー? いや、違う


 炎の玉を複数吐いてくる

 速度はレーザー程ではないが代わりにレーザーよりは範囲が広い


「弾避けかぁ。まぁ上空で使える他の手段もあるよねぇ」


 上手く騎獣を操って炎の玉を回避する

 そこまで一撃一撃の範囲は広くなく1発1発に時間差がある為余裕を持って避けられる


「銃を撃ってる様子は無いけどクレマは逃げた? いや、騎獣はこっちに居るからそれは無いか」


 逃げるなら騎獣に乗った方が良い

 走って逃げるには時間がかかり過ぎる

 隠れているとかそれとも


 ……殺されたかな


 可能性として考える

 ドラゴンゾンビが現れてからドラゴンゾンビも私も魔物を巻き込んで攻撃をしているとは言えクレマ側に進む魔物の阻止をしていない

 1体1体なら問題無いだろうが数体で来られたら魔力銃で捌き切るのは難しいだろう


「クレマが死んだと考えたら攻撃手段は無い。降りてくるのを待ちたいがそうそう降りてこないよね」


 私が隙の大きい攻撃の際に攻撃をしてこない時点で私に上空への攻撃手段が無いと言う事はドラゴンゾンビも分かっているだろう

 攻撃が避けられたとしても空に居れば一方的に攻撃を仕掛けられる

 その有利を捨てる程甘くは無いだろう


「ドラゴンゾンビって知能あるのかなぁ。死体ベースだからその辺失ってて貰えると助かるんだけどなぁ」


 ドラゴンゾンビは口を大きく開けて光を集める

 溜めの長いレーザー状の攻撃だ


 ……2度目、さっきよりは余裕持って避けれる


 走り回ってチャージが終わるのを待つ

 地上の魔物の数はだいぶ減ってきている

 無限では無いようだ


「倒せてないのは国側に向かっていったかな。信号弾を使ったし数を減らしたから部隊編成が間に合えばいいけど」


 魔物達は真っ直ぐ国側に向かっていた

 倒し切れなかった魔物達は恐らく止まらずに今も向かっていると考えられる

 倒したいが今はドラゴンゾンビに集中しないとならない

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