本気の勝負2

「ルールはさっきと同じ」

「合図は?」

「必要?」

「いや、要らない」


 急に身体が冷える


 ……寒い


 これは対峙する恐怖などの精神的な物では無い

 物理的にこの場が冷えている、試合場だけでなく周囲も冷えて寒がる兵士も中に居る


 ……これが固有能力か


 氷星切歌の固有能力は氷の召喚と操作、身体強化のようなシンプルな力では無い

 そして訓練中最も固有能力を使いこなしているのが切歌

 切歌の周囲に複数の氷の礫が現れる


 氷の礫が飛んでくる

 礫を回避して接近を試みる

 中距離攻撃の手段を持たない私は接近するしかない

 距離を取って氷の礫で攻撃を仕掛けてくる


 ……数が多い、避け切るのはきつい


 試しで剣で1発防ぐ

 氷の礫の威力の確認


 ……軽い、威力も無い。なら


 回避を辞めて剣で礫を切り裂く

 回避しながらでは接近が難しいが切れるのなら最短で進める

 数は多いが攻撃は単調、氷の礫は真っ直ぐ飛んでくる

 固有能力のそこまでの制御は出来ていないと見える

 切り裂いて弾いて進む


 踏み込んで突きを繰り出す

 胴体目掛けて繰り出された突きはガキッと音を立てて何かに防がれる

 ピシッと音を立ててヒビが入る

 身体の前に氷を圧縮した物を置く事で事で身を守っているようだ

 氷を操る固有能力らしい使い方


「氷の盾って所かな」

「正解」


 切歌は不敵に笑い反撃で剣を振るう

 腕を引き剣を避けて切りかかる

 再び氷の盾で防がれる、ピシッと音を立てて氷の盾は砕ける


「一撃で砕くか」


 表情は余り変わっていないが驚いているようだ


 ……上!?


 頭上に違和感を感じ後ろに飛び退いて距離を取る

 その直後、先程居た位置に氷の礫が降り注ぐ

 着地の時に若干滑る


「おっと……」


 チラッと地面を確認する

 地面に氷が張られていた、接近していた間に張ったのだろう


 ……成程、氷を張ったか


 薄い氷を膜のように地面に張る事で滑りやすくして動きづらくしているようだ

 単調な氷の礫は固有能力の制御が下手だと思わせる為か派手に使う事で下に意識を割かせない為か

 罠を張るなんて感心、戦闘中で無ければ拍手していた

 氷の礫による攻撃を切り伏せる

 私が動きづらくなった今の状況でも切歌は迂闊に近寄っては来ないで距離を確保している

 私の間合いと自分の得意な間合いをよく理解している


「これは厄介……とでも?」


 だがこの程度はただの小細工に過ぎない

 その場から動かず剣を地面に叩き付けて薄い氷の膜を破壊する

 礫よりも薄い氷は簡単に砕ける


「なっ!?」


 そして剣の腹で砕いた氷の破片を打つ

 想定していない行動に防御が間に合わず切歌は破片を食らう


「くっ……君は野球選手か?」

「野球? 何言ってるか分からないな」


 氷が無くなった事で動きづらさはなくなった

 氷を再設置される前に接近して突きを繰り出す


「小細工はさせない」


 氷の盾で防がれるが素早くもう一度繰り出して貫通させ胴体を軽く刺す

 そして透かさず無防備な身体に拳を叩き込む


「グッ……」


 痛みに堪えた切歌が剣を地面に突き刺す

 それと同時に地面から氷の棘が生えるように複数現れる

 後ろに大きく飛んで避ける


「本気で仕留める」


 私を睨みつけ切歌は固有能力を発動させる

 氷の棘は増えて大きくなり迫ってくる

 今回、場外に出ても負けと言うルールがある

 このままでは氷の棘に貫かれるか押し出されて負ける

 呼吸を整える


「小細工の次は物量か。単調」


 両手で剣を強く握りしっかり踏み込む

 そして全力で剣を振るい氷の棘を切り裂く

 どんどん大きくなる氷の棘を素早く次々と切り刻んでいく

 大きくなるならそれよりも早い速度で切り刻めばいい


「馬鹿な!」


 自身のとっておきを捌かれて流石に表情が変わるくらい驚いているようだ

 更に踏み込んで突きを叩き込む

 氷を貫いて押し込んで亀裂を広げて砕く

 氷の破片が空を舞う、光が反射して輝いている


 切歌は固有能力を使おうとするが力を大きく使ってしまった為、発動しない


 ……限界あり、成程


 接近して剣を振るう

 剣で防いでくるが押し込む

 固有能力を使った剛貴程の力は無い、余裕で押し切れる

 剣を逸らして受け流そうとしているが動きに合わせて力の方向を変えて受け流させない


「そんなに剣に意識向けて無防備だな!」


 勢い良く腹に蹴りを叩き込む

 切歌はよろめき顔を顰める

 即座に拳の追撃を叩き込む


 切歌は剛貴よりは厄介な相手

 しかし、あくまで固有能力の種類の差で少しやりづらい程度

 どちらも剣の腕なんて無い、技術もろくにないただの素人

 その上で戦闘の殆どを固有能力頼りにしている

 切歌に関しては技の後を考えていない

 氷の棘による物量攻撃は単調だが強力、しかし破れたら暫く使用不可になると考えれば扱いづらい、そしてその後を補う技術がない今は本番なら無抵抗にやられるだけ


「降参は?」

「まだだ」

「そう、なら」


 素早く突きを繰り出す

 切歌は剣で防ごうと突きに合わせて剣を動かすが間に合わない

 少し深く突き刺さる

 何度も刺す

 腕、足、胴体を刺して行く

 傷口から血が溢れる


「プライドが高いが技術も経験も低い。高いだけのプライドに価値は無い」


 剣目掛けて蹴りを叩き込む

 剣から伝わる衝撃が持つ手を襲う

 手が痺れたのか切歌は剣を手放す


 切歌に勝ち目なんてもう無い

 例え固有能力が再び使えるようになったとしても私はもう対応が出来る


 ため息をつく

 別に私に痛ぶる趣味は無い


 ……何か作戦あるっぽいしそれを潰して終わりにしよう


 再び空気が冷え込む

 固有能力が使えるようになったのだろう

 切歌は氷で大きな槍を作る

 時間がかかっている

 この間に攻撃を仕掛けられるが敢えて待つ


「大きいが範囲が狭い。これなら避けられる。それだけじゃない作るのが遅い。何度殺せるか」


 呆れを通り越して感心している

 完成まで待機する

 氷の槍が完成し刃先が私に向けられる


「これが私の全力」


 剣を構える

 避けても良いがそれじゃつまらない


 氷の槍が飛んでくる

 呼吸を整えて剣を振り上げる

 氷の槍の速度は中々

 踏み込んで剣を振るう、氷の槍の刃先と衝突する

 力を込めて押し込んで振り切る

 氷の槍を真っ二つに切り伏せる

 全力を真正面から切り伏せる、これなら一切の言い訳を許さないでプライドを砕ける

 正攻法が一番効果がある


「あれを……斬った」

「もう降参して欲しいんだけどしないならもう少し痛い目にあって貰う」


 剣を構える


「降参する……完敗だ」


 切歌が降参して試合が終わる

 剣を仕舞って兵士に返す


「2人に勝ったぞ」

「ヤバっ……」

「固有能力無しなんだろ? 魔法も魔力も使ってる様子は一切無い」

「強ぇ」

「ランキング当てにならないな」

「多分例外だと思うぞ……幾ら何でも強すぎる。勇者様方は戦闘とは無関係な人間って聞いてたんだが余りにも戦い慣れ過ぎてる」

「確かに訓練にほぼ参加してないのに剣の扱いも慣れてるよな」

「息切れ1つ起こしてないのがおかしい」

「連戦したのに体力残ってるのは凄いとは思ったが」

「その前に俺たちと手合わせした事忘れてるのか? その後にあれだけ動いて息を切らしてない」

「あっ、そうか」

「怖っ」


 試合場から降りるとクレマが待機していた


「お疲れ様です」

「おっ、有難うねぇ〜」


 タオルを手渡してくる

 受け取り汗を拭く


「いやぁ、流石に連戦は疲れたよ」

「疲れたようには見えませんが」

「いやぁ疲れたよ? まだまだ動けるだけで」

「その体力どうなってるんですか?」

「それは企業秘密」

「そうですか。それで戻りますか?」

「そうだねぇ〜、戻るかな」


 視線が集まっているが気にせずに訓練場を後にする


「なぁ、見た事あるかあのメイド」

「見た事あるってか勇者様の傍にいつも居るぞ?」

「いや、勇者様が来る前の話だ」

「メイドの姿なんて一々覚えて……確かに見覚えない気がするな」

「俺も知らないんだよね。新しい子?」

「勇者様の傍に置くメイドが新人な事ある?」

「実際やってるんだからあるんだろ」

「でも他の勇者様はベテランメイドだよな」

「ランキング最下位だからじゃない? 適当に新人を〜って」

「そういう事か。それは有りそうだな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る