訓練

 城下町に散歩しに行ったり訓練を見て日々を過ごす


「頑張ってるねぇー」


 他の勇者の訓練を手すりに顎を乗せて上から見る

 上位の勇者のどんどん動きが良くなっているのが分かる

 元々身体能力が高く戦闘の才も有ったのがこの場で開花しているのかも知れない


「訓練位は参加しても良いのでは?」

「鍛える側で動くならともかく鍛えられる側に行く気は無いかなぁ」

「なるほど、今の時点でも充分強いですもんね」

「あっ、勇者様!」

「うん?」


 1人の兵士が話しかけてくる

 声に聞き覚えがある

 振り返り顔を見る、顔もどこかで見覚えがある


「あっ、俺はロアベアと戦闘した時に援護した兵士の1人です」


 兵士の1人が確かにこんな声だったなと言われて思い出す


「あぁ、成程、今日は訓練?」

「はい、門番は交代制で行っていて非番の日はこうやって訓練に来るんです」

「仕事熱心だねぇ〜」

「あの日、もっと鍛えないとダメって分かりましたから」

「その意気や良し」

「それで勇者様、手合わせして貰えませんか?」

「うーん……良いよ暇だから」


 手摺りから離れる

 手合わせは軽く運動にもなる、断る理由は無い


「有難うございます!」


 兵士はパーと表情が明るくなる

 降りて訓練場の隅にある試合場で行く

 兵士達の視線が集まる


 目立つのは分かっていたがため息をつく

 この視線は良い視線では無い


「誰?」

「兵士長の娘?」

「いや兵士長の娘じゃないな。誰かの子供? 木刀持ってるけど」

「いや、あれ勇者様だ」

「え? 勇者って最下位の?」

「そうそう」

「最下位って言うの辞めろよ。勇者様だぞ」

「勇者様って言っても魔王討伐に不参加だろ? それに見た目弱そうだし」

「今更何しに? 今更参加ってか?」

「でもあの勇者様ロアベア倒してた気が……」


 兵士達がこそこそ話している

 良い話では無い

 この会話は長くは続かなかった


 互いに木刀を構える

 私の手からすると大きいがしっかりと持ち手を握る


「お願いします!」

「ちょっと本気出すよー」


 周りの雑音は気にしない今は戦いに集中するだけ

 呼吸を整え相手を見る、兵士の木刀を持つ手が震えている


 兵士が接近して木刀を大きく振るう

 相手の木刀に当てるように振るう

 木刀がぶつかり合い押し合う

 そして力を込めて弾く

 兵士の持っていた木刀が大きな音を立てて大きく弾かれ試合場の外に転がる


「ぐっ」


 兵士は手を抑える

 弾かれた時の衝撃が手に響いたのだろう

 直ぐに駆け寄る


「あっ、大丈夫?」

「だ、大丈夫です。少し痺れただけです。やっぱり強いですね。少しくらいなら打ち合えると思っていたんですが」

「ふふん、こう見えて私力強いからね」

「よく知ってます」


 見ていた兵士達が今の戦いを見てザワつき始める

 弱いと思っていた相手が手合わせで一手で勝利した、流石に驚きを隠せない


「今……」

「油断してたのか?」

「いや、そんな様子は無かった。本気だったように見えたが」

「真正面から木刀を弾くのかよ」

「弱いんじゃねぇの!? あの勇者」

「つ、次俺とやりませんか!」

「来い」


 やる気のある兵士を見て笑みを浮かべる


 ……やる気あるの良いねぇ〜


 声を上げた兵士に来るように指を動かす


「文句ある奴も全員相手してあげるよ」


 木刀を握り連続で手合わせを行う

 試合場で待機する、兵士の1人が上がり木刀を構える

 地を蹴り素早く懐に入り胴体を叩く


「グッ……」

「はい次」


 開始位置に戻って次の相手と戦う

 木刀による突きを首を動かして避けて額に軽く突きを当てる


「痛っ、くっそ早い」

「俺もやる!」

「なんだなんだ?」

「勇者様のレッスンがやってるらしいぞ」

「どの勇者様?」

「それが唯一不参加表明した勇者様、突然訓練に来たと思ったら兵士を薙ぎ払ってるらしい」

「もっと来ていいぞ!」


 攻撃を躱して一撃を叩き込む

 片手で持った木刀で防いで両手で掴み大きく弾く

 カウンターを狙っている相手には踏み込んで鋭く突きを繰り出す

 回避されても間髪入れずに続けて二撃目を叩き込む

 暫く兵士を薙ぎ払っていると他の勇者が来ているのを確認する


 ……騒ぎ過ぎたなぁ


「疲れたし終わりで」

「有難う御座いました!」


 対戦した兵士達がお礼を言う


「フルボッコにされた」

「俺なんて自慢の突きを軽々避けられたぞ」

「カウンター狙ったらカウンターする前に殺られた」

「力か?」

「速度もだろ。普通に避けられてたからな」

「俺は技術だな。受け流せればワンチャンあった」

「ほんとか?」

「体勢崩せれば俺の突きでやれた間違いなく!」


 兵士達が改善点を話し合っている

 今の敗北を次に繋ごうとしている


 ……良いねぇ、うんうん、反省点改善点を見つけるのは大事


 偶然だが手合わせしたかいがあったと思う

 試合場から出ると勇者の1人に話しかけられる


「強いな」

「力には少し自信があるだけー」

「それだけの力があってなんで参加しないんだ?」

「力がある事と参加する事はイコールじゃない。若いなぁ」

「力が多少強ぇだけで固有能力を使えねぇ雑魚に変わりねぇ。それにここの兵士もレベルが高いとは思えないしな」

「雑魚?」

「雑魚だろ。雑魚が雑魚倒して調子に乗ってんのか」


 分かりやすい煽り

 本来なら乗らない方が良いだろう

 だけどイラつく

 力を得ただけの一般人が毎日しっかり鍛えている兵士を馬鹿にするのは気に入らない


「彼らは結構いい腕してると思うけどなぁ」


 フォローする

 これは実際に手合わせして思った事だ

 魔力銃なんて武器を使っていたから近接は疎かにしていると思っていた

 しかし、彼らはしっかりと個々の長所を伸ばしていた


「俺達に比べれば弱いのには変わりねぇ」

「まぁ固有能力の差とかあるからねぇ。それでも国を守る兵士だ。馬鹿にするなよ」

「はっ、雑魚は死ぬだけだろ。国を守る兵士だぁ? 精々捨て駒ぐらいにしかならないだろ?」

「少しは役に立つと思うが弱ければ戦場では無駄死にするだけだ」

「そこまでに」

「上がれ。やろうか」


 私は睨みつける

 そして止めようとした勇者の言葉を遮る

 力を持った馬鹿は早いうちに伸び切った鼻をへし折る必要がある


「良いぜ叩き潰してやる」

「勇者同士の戦闘は危険だ」


 試合場に上がり私は木刀を投げる


「あ?」

「木刀じゃない、真剣でやろう。あぁ固有能力も使っていい」

「はっ、良いぜ死んでも恨むなよ」

「ルールは場外と降参、戦闘続行不可のいずれかで敗北、固有能力あり魔法あり、武器は真剣」


 兵士から真剣を受け取り鞘から剣を抜く

 勇者ランキング第2位と対峙する

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