提案

「その案とは?」


 しっかりと向き合う

 真剣な面持ちで聞く

 王様も真剣な面持ちでこちらを見て話す


「君の望みを1つ叶える。だから魔王討伐に参加して欲しい」

「望みを1つねぇ」

「前の世界には戻れないがそれ以外であれば」

「不参加が望み」

「不参加以外では何か無いのか」


 私は頷く

 現状に満足している私からすると不参加以外に求める物はほぼ無い


「特にはないかな。脅す?」

「そんな真似はしない。我々は出来る限り君達を守る。身勝手な話だが」

「身勝手が過ぎる。守るって私達を死地に送る癖に?」

「出来る限りの支援はすると約束する」

「…………」

「どうか我々の世界を救って欲しい。我々にはもう後がないのだ」


 椅子から立ち上がり王様が頭を下げる

 一国の王が1人の少女に頭を下げる事は相当の事が無ければしないだろう

 うるさい貴族が居ないとは言えそうそう下げれる物では無い


 ……王様が頭を下げるかぁ。まぁそれだけで参加はしない。条件付けるかな


「無論、頭を下げた程度でどうにかなるとは思っていない。求める支援は必ず行おう」

「質問に答える事ともう1つある物を用意して欲しい」

「必ず用意しよう」

「それじゃ質問、各国が召喚をした事をなぜ許容した?」


 私は疑問があった

 各国が勇者を召喚した、何故各国で召喚の儀式が行われたか

 仲良く魔王を倒しましょうでやったとは考えづらい

 人は争うものだ。国同士となれば7国全ての国が仲良くしてるとは考えづらい


「7人の勇者、操ると考えるなら多すぎる。そして魔王を本気で倒すと考えるなら少な過ぎる」


 強い固有能力を持つ勇者は成長すれば1人で国家が持つ軍隊レベルに成長する可能性がある

 1人や2人ならどうにか制御出来るだろうが7人は制御する数としては多い

 そして本気で魔王討伐を考えるなら少ないとも言える

 なりふり構わないのなら一気に大量に召喚してけしかけるべきだろう

 そう考えると7人は微妙な数


 王様は頭を上げて椅子に座り答える


「まず、この大陸の国々の状況から話すとしよう。歴史を話すと長いから現状を簡潔に話す」

「それで良い」


 長ったらしい歴史を聞く気は無い


「7国あるうちで大陸内で1番大きいのはこの国、そして大まかにこの国と同盟を組んでいるのは2国、敵対が3国、中立1国となっている」

「その7つの国が召喚した?」

「そうだ、勇者は1人で軍隊に匹敵する。その勇者を我々だけが行う事を敵国は許さない。その結果7つの国で1人ずつ呼ぶ事になった。勇者を召喚した事でパワーバランスは拮抗したのだ」


 今の勇者なら兎も角、成長すれば国々のパワーバランスを崩しかねない


「だから7人か……私を呼んだ国は?」

「我々からすれば敵国」

「なるほどねぇ〜、国同士の戦争は?」

「魔王を倒すまでは休戦となっている」

「それじゃもう1つ、動くの早くない?」


 兵士から報告を受けてから訪ねたと言うのは予想がついている

 しかし、たった一つの報告で王様が動くのは少し違和感がある

 門番を務める兵士達を嘘をつくような相手ではないと信じていたとしてもその日のうちに動くのは幾らなんでも早い


「君はこの国に来た時、王座の間の扉を開けた」

「開けたね。それが?」

「あの扉は鍛え上げた兵士の中でも力自慢でなければ動かないほど重い」

「あぁ……」


 その言葉で私はやらかしたと理解する

 力自慢達と同じような芸当をしたとなれば怪しむのは自然

 これが筋肉ムキムキなマッチョなら自然だが私の見た目は細く風で吹き飛びような弱々しい


「やからしたぁ〜!」


 私は叫び頭を抱える

 あの時は眠くてそんな事は考えてなかった


「あの扉を開けたのですか」


 クレマも扉の事を知っているようで驚いている


「開けたねぇ〜」

「それについて聞きたいのだが特異体質持ちという事で良いか?」

「そうだよぉー特異体質」

「成程、それで用意して欲しい物とは?」


 私は笑みを浮かべる

 だいぶ厳しい条件を考えたからだ


「この国いやこの世界で最高の技術と素材で作り出された砕けない大剣、持ち運びの時に苦労しないように折り畳めたりするのが希望」


 戦闘をするのなら現在最高の技術で作られた武器を求める

 そのくらい無いと割に合わない

 命を賭す戦いなのだから支援も全力で無ければならないと言うのが私の持論

 逆にそれだけの支援があるのなら応じるべきとも考えている

 もしこれを本当に用意出来るのなら魔王討伐を視野に入れる


 これは相手からすると中々に厄介な条件だと考えている

 もし受け入れたとしても最高の技術となれば世界各国から技術を集める必要があり最高の素材となれば入手に時間も金もかかるだろう

 そして作るのにも時間や人員を使う

 そして他の勇者からもその武器を求められる可能性は高い

 1人だけ優遇されているのは気分の良い物では無い


「それは時間がかかる」

「作り終えるまでは参加しない」

「……分かった、望みの物を用意しよう。夜中に失礼した」


 王様は頭を下げて部屋を出る


「まだ冷めてない。早く食べよ」


 まだ冷めきってない料理を食べる

 温いが美味しい


「王様相手にあの態度とは」

「王様は偉いけど私は勇者様、どちらの方が位が高いかで言えば私達の方でしょ?」


 どうにもならないから他の世界から勇者が呼ばれた

 ならわがままを言う権利くらいは欲しい


「それは……よく分かりません。それにユメ様は拒否するかと思ってましたがよく受け入れましたね」

「拒否する気だったけど王様がちゃんと頭を下げたからねぇ〜」


 不参加な理由の中には相手の態度もあった

 王座にふんずり返って偉そうにしていたのがイラつく

 貴族達の態度も気に入らない

 身勝手に召喚して頼む側でありながら舐めた態度をされていたのが不愉快であった

 だが今回王様は頭を下げた。その上こちらの提示した条件を受け入れた

 こちらの無礼な態度も咎めなかった

 一国の王がそうしたのだ、それだけ必死なのだ


「それに魔王討伐に関しては状況次第だから」

「それはどう言う?」

「魔物討伐はするけど魔王に関する情報が少なすぎる今無闇に突っ込む気は無い。魔王の情報と他の勇者の行動を確認しながら最悪なら挑む程度の話」

「成程、そういう事ですか」


 魔王討伐に参加すると言っても他の勇者と協力する気は無い上、魔王に挑むにはまだまだ準備が足りない


「私は兵士だけど守る国と戦う相手は選ぶ。この世界が私が守るべき世界であるかまだ決めかねている」


 この世界に来てから2週間も経っていない


「まぁ武器を作れるのまだまだ先だろうからその間ゆっくりするかなぁ」


 まだ見極める時間、食事を終えて支度をして眠りにつく

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