来客

「流石勇者様、ロアベアを単独で倒せるとは」

「真正面から削り切るなんてこれが勇者……」


 兵士達が集まってくる

 ロアベアを倒した事に驚いている様子、単独で倒せる事が珍しいのだろう


「君達が削ってくれたからだよ。あっ、剣返す」


 私の言葉は嘘では無い、魔力銃による削りが無ければもっと時間が掛かっていた

 奪った剣を兵士に返す

 兵士はハッとして剣を両手で受け取る


「役に立てて光栄です」

「質問なんですが固有能力は身体強化ですか?」


 兵士の1人が聞いてくる


 ……へぇ、詳しい事は知らないんだ


 勇者の情報は既に広まっている物と思っていたがそういう訳では無いようだ


「うん? いや、違うし使ってないよ。私の能力戦闘でろくに使えないからねぇ〜」

「違うんですね……使ってない?」

「一切使ってない」

「固有能力も魔力も魔法も無しでですか?」

「そうだよぉ」

「とんでもないですね……勇者と言うのは皆そうなんですか?」


 兵士達はとんでもない物を見ているような表情をしている、それは兵士達の常識からすればかなりとんでもない事をしている事を意味していた


「さぁ? 他の勇者の事は知らない」


 首を傾げて答える

 私は他の勇者の力がどうなのかは一緒に訓練をしていないので知らない


「ユメ様!」


 城門が開かれると同時にクレマがかなりの速度で駆け寄ってくる


「ご無事ですか!?」


 到着して直ぐに私の両肩を掴む

 担当している勇者の身に何かあれば問題になるからか物凄く心配そうに聞いてくる


 クレマは息を切らしている、城門からここまで距離は無い、全速力だとしてもここまで疲れはしないだろう

 それでも息を切らしているという事は城門が閉まった後も何かをしていたのだと考えられる


「ピンピンしてるよ。怪我も無い。流石に少しは疲れたけど」

「疲れた? もしかしてロアベアを倒したんですか?」

「そうだよ?」

「え? 訓練も受けてない貴女が!? あっ、大声をすみません」


 クレマは驚きの余り大声を上げる

 それ程までに私の発言に驚いているのだ

 クレマは兵士の方を向いて確認をする

 兵士の1人が無言で頷く


「訓練を受けずに!?」

「訓練を受けてない? そう言えばたった1人不参加を表明した勇者が居るって」

「それって最下位の勇者ですよね? 勇者ランキングの」

「この方が最下位?」

「って事だよな?」


 勇者のランク付け、それは兵士や民にも伝わっている

 勇者の中にも格差があるとして上位の勇者を取り込もうとする貴族派閥や仲良くしようとする者が多く居る

 召喚した国もこの勇者は我が国が召喚したと宣伝をする


「これ程の力を持っていて最下位なのですか?」

「あのランキングは召喚時の主に固有能力で判断されています。ユメ様の場合は固有能力の項目で最下位と判断されていますので」

「他の人は身体能力も測ったみたいだけど私は測るまでもないってやってないしね〜」

「成程、あのランキングは明確な実力を測って判断された物では無いという事ですね」

「固有能力無しでもこれだけ実力があれば」

「私に期待する人居ないし、まぁされなくていいけど」


 私は固有能力が外れで尚且つ弱そうな見た目をしている為、私を召喚した国にすらほぼあてにされていない

 この国に来てなければ最悪始末されていた恐れもある程に期待はされていない


「ランキングはあてにならないって事か」

「他の勇者もこのくらい強い可能性はあるが」

「訓練を見た事あるがここまで強そうではなかったぞ?」

「私は魔王討伐には不参加だから私の実力なんてどうでもいい話だけどね」

「そうですか……」


 兵士達は残念がる

 実力のある人間が参加すれば討伐出来るかは置いておいても戦力となるのは間違いない


「今回はあくまで魔物がどんな物かと私がどの程度動けるかの確認だから……丁度偶然城下町に遊びに来てただけだし……それじゃぁねぇー」

「それでは私も失礼します」


 私はそう言ってクレマと一緒に城壁の中に戻っていく

 城に向かって歩いていく


「力について上に報告されると思います」


 歩いているとクレマが言ってくる


 ……だろうねぇ


「上?」

「兵士長や王様、貴族などです」

「あぁ、まぁだろうねぇ〜、口止めはしてないししたとしても直ぐにバレる」


 私は欠伸をしながら答える

 兵士達から上に報告がされる

 その報告を見過ごすとは思えない


「そうなれば協力の要請はされると思いますよ。貴女が今まで戦わない選択をした後、一切要請がされなかったのは貴女が最下位であったからですから」


 唯一戦闘に使えない固有能力持ちだったからこそ魔王と討伐に不参加と言う事を簡単に受け入れられた

 それは私も理解している

 もし私が強力な固有能力を持っていれば恐らくどうにかしてでも魔王討伐に行かせようとしただろう

 私でも相手の立場ならそうする


「全部断る。私には戦う理由が無い。命をかけて魔王と戦うだけの理由が無い」

「あくまで要請で拒否権はあるでしょう。ただどんな手段を取ってくるかは私には予想出来かねます」

「クレマはあっち側の人間なんだから私の肩を持つ必要は無いよ〜、気楽に君に与えられた目的を果たせばいいからねぇ〜」

「……そうですね」


 寄り道はせず城の部屋に戻り寝転がる


「……面倒な事になりそう。まぁその時考えればいいやぁ」


 私は眠りにつく

 久々に長時間歩いた上、戦闘後だからかすぐに眠りに付けた


「ユメ様食事の時間です」


 クレマに起こされる


「ふぁい」


 目を擦りながら身体を起こす

 大きな欠伸をする


「眠ぃぃ〜」


 ……結構寝てたかな。おっ、良い匂い


 窓の外を見ると空は暗くなっている

 私は他の勇者と関わらないように食事は部屋で食べている

 ベットから机に移動して食事を取る


「相変わらず美味い。流石城の料理人」


 美味しい料理を堪能しているとクレマが話しかけて来る


「客人が来ています」

「客人? 嫌な予感がする」

「恐らくその嫌な予感は合っていますよ。王様です」

「拒否」


 私は即答して両手でバツ印を作る

 今王様が来るという事は兵士達の報告を聞いたと考えるべきだろう

 となれば今までは近付きすらしなかった王様が動いたのは絶対に何かしらの提案をしに来ているのだろう


「申し訳御座いませんが私では止められません」

「だろうねぇ〜。入れていいよ」

「はい」


 クレマは扉を開ける

 すると王様が入ってくる

 高齢の男性、王冠を被り人前だからか身なりが整っている


「失礼するぞ」

「それで何用?」

「いや何少し雑談をしに」

「本題に入らないなら帰って、食べ終わったら直ぐに支度して寝る気なんだから」

「……分かった」

「王様どうぞ」

「あぁ、助かるよ」


 王様はクレマが用意した椅子に座る


「1つ提案がある」

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