初戦闘

 鞘から剣を引き抜く

 しっかりと手入れされている剣、大事にされていると分かる

 そして剣の質が良い

 恐らくは量産されている剣だがしっかりと作られている


「うん、良い剣だ。これなら殺れる」


 息を整えて剣を握り構える

 そしてロアベアを改めて見る


 目が合った瞬間、ロアベアにゾクリと悪寒が走る

 急停止して立ち上がり両手を上げて威嚇のポーズを取り唸る、目の前の敵に警戒をしている

 見た目は弱そうで高い魔力を持つ訳でも無い

 なのにこの場にいる誰よりも危険だと本能が訴えている


「グルル」

「攻撃止めて」

「分かりました。発砲辞め!」

「了解!」


 兵士達は発砲を辞める

 発砲を辞めても警戒を解かずに動けるように準備している


「私には当てないでよ?」

「我々を舐めないでください」

「それなら良い」


 私は突っ込んで懐に入る

 警戒しているロアベアは反応して片手を大きく振り下ろす

 後ろに飛び退いて振り下ろし攻撃を回避する

 そして踏み込んで剣を振るう、腕に命中するが硬く切れない


「硬い」


 ……毛や皮膚が硬い? いや何か感覚が違う


 後ろに飛び距離を取る

 切った時の感触に違和感を感じる

 初めて感じた未知の感覚に戸惑う


「勇者様! ロアベアは魔力を使った攻撃で無ければほぼ通じません!」


 兵士の1人が叫ぶ

 話を聞いていると攻撃が来る

 回避の為に横に飛ぶと兵士達が魔力銃でロアベアに攻撃を仕掛ける


「成程」


 訓練をする際に真っ先に説明を受ける話

 私は訓練を受けていない、当然その説明も受けていない

 切った時の違和感は恐らく魔力なのだろう

 前の世界では魔力なんて無かったから魔力を纏った物体に切りかかった時の感覚を知らなかった


 ……あぁ、だからあの武器、魔力を飛ばしてるのかぁ成程、よく出来てる


 攻撃を避けながら考える

 魔力の扱いは基本的にそう簡単には出来ないから思考から省く


「でもほぼだよね」


 兵士の言葉からすると例外が存在するのだろう

 攻撃を躱して踏み込んで剣を振るう

 しかし、切れない

 もう一度切りかかる


 ……硬さは分かった


 一旦攻撃を避けて兵士達が攻撃を入れられる位置に移動する

 兵士が一斉掃射を仕掛ける


 私は作戦を考える

 魔力については訓練を受けてない私は何も知らないに等しい

 説明も聞いていない

 だから今自分なりに理解するしかない


 ……魔力量は魔物、人によって変動する。つまり個体差がある、元々の魔力によって強さが決まるのなら魔力が少ない兵士をぶつけても無駄、そうでは無いのなら消費する見えないエネルギーかな。量なら恐らくは条件下で変動する物


 攻撃を仕掛ける

 切れないが確信を得る

 一旦距離を取って構え直す


 ……初撃の時より明らかに柔らかくなってる。魔力による攻撃を受けると減るのかそれとも攻撃を受けると減るのか。例外が存在するのなら後者、魔力の有無関係なく攻撃を受けると減る。そしてエネルギーなら攻撃に使う場合も減る。で今のこの熊はそのエネルギーを纏っている状態


 剣を強く握る

 手を振るって攻撃を仕掛けてるがそれを躱す

 考えながらでもしっかりと動きは確認している


「魔力の使用出来る量には個体差あれど限界値がある。そして魔力は攻撃にも使われる、なら魔力の鎧には本体の魔力限界値よりも少ない量である防御限界値が存在する。つまり全力でぶっ叩けば魔力を削り切れて届く」


 自己流で魔力がどのような物でどのように使われているか結論付けた

 ロアベアの頑丈な理由を理解した

 つまり勝ち筋はもう見えた

 ならやる事は1つ、全力で削り切る


 攻撃を躱して懐に入り勢いよくぶっ叩く

 切れないのなら叩く、後ろに飛んで攻撃を躱して蹴りを叩き込む

 剣で複数回切り掛かる

 攻撃をギリギリで躱して剣を叩き付け蹴りを繰り出す

 攻撃を与える度にどんどん柔らかくなっているように感じる


「確実に削れてる。あと一押し」


 ロアベアの身体を守っていた魔力が削れている事を確信して更に攻撃を叩き込む

 攻撃を全て避けて踏み込んで切りかかる、蹴りや拳を混じえて攻撃を仕掛ける

 戦い始めてから数分後、ついに剣が皮膚を切り裂く


「よし! 後は解体するだけ!」


 私は笑みを浮かべる

 切れるという事はもう剣による攻撃を防げる程の防御に使う魔力が残っていない

 後は剣で切り刻むだけで良い

 攻撃を避けて腕の間接部位を狙って全力で斬りかかる

 力を込めて腕を両断する

 ロアベアは血のような液体を傷口から流す


「ギャゥ……グルルル……」


 痛みを感じるのか苦しんでいる

 苦しむという事はその瞬間攻撃の手が止まるという事

 休む間もなく更に踏み込んで素早く2回胴体を切る

 肉まで届くが致命傷には至っていない

 間髪入れずに傷口に蹴りを叩き込む

 必死に振るわれた攻撃を避けて後ろに回り足筋を切る

 足筋を切られたロアベアは膝を付いて四つん這いのような体勢になる

 頭の位置が下に来た、直ぐに首の横に移動して剣を構える

 そして振り上げて全力で振り下ろす

 首を切り落とす事に成功する


「時間かかった。だけど対処は分かった。次戦う時はもっと早く殺れる」


 ロアベアは黒い霧状の何かになって跡形もなく消滅する


 ……消滅した。どういう原理かな。特に何も残っていない、死んだら消える……謎だなぁ


 剣を鞘に仕舞う

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る