053 ~気分がいい時~
以前勤めていた会社の研修資料を見つけた。
そこに次の一文があった。
「気分がいいことは?」
昔、担当していた生徒さんからも同じような質問をされたことがあって、
答えは今でも変わってはいない。
「一日の仕事が終わり、自宅に帰って玄関を閉めたあの静けさと暗闇を感じた瞬間」
こんなことを言うと、いつも変な顔をされる。
でもそうなんだから、仕方がない。
巣に戻って来た感覚とでもいうのか、
妙に落ち着いて、
あの静けさと暗闇の中では、
確かに自分という存在を自分だけで感じられる。
きょう一日、つくろった自分と一緒にいた自分はさぞくたびれているだろうと思う。
しかし無事に自分という存在を終えられた。
無事に戻って来た。
これほど平和なことはない。だから気分がいい。
誰にも邪魔されず、見えるものもなく、
暗闇の中で身体の、服の動く音がするから、
自分の実態を認知することができているあの瞬間。
自分が確かにここにいるとわかる。
言い換えると、外のいる時の自分は自分ではないことになる。
作られた自分だ。
だからもしかすると質問への答えはこう言い換えられるかもしれない。
「自分を自分と認知するとき」
あっ、また沈黙が聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます