第6話・ドリームオブユー

 今日はネトゲの集まりが珍しく無い。

 そのため、刹那との集まりも21時頃ではなく、17時と珍しく早かった。


「ブラックの励ましのおかげで、不登校になってから初めて保健室まで行けたよ」

「おっ、すげーじゃん。やる!」

「全部ブラックのおかげだよ」


 刹那との深夜トークから早2日。

 画面の向こうにいる友は、前へと踏み出したらしい。


「その台詞で俺も救われるよ。何せ親にはすげー説教喰らったからな」

「そうだったんだ。ごめんねボクの為に」

「気にすんな。それに大したことしてねーし」

「そんなことない。登校途中に辛くなった時、ブラックの言葉を思い出して元気をもらってたもん」

「何だろう。照れるな」

「照れろ照れろー」


 イケボの声がほおゆるませてくる。

 俺は至って普通の性癖をしているのだが、こうも鼓膜こまくつやっぽい声がぶっ刺さるは来るものがある。


 くそっ、スケベな言い回ししやがって。

 けしからん!


「そんだけエロいな声が出せるなら、夜のお仕事でも食っていけそうだな」

「え、エッチじゃないよぉ!」

「充分エロいだろ。18禁クラスだよ」

「ブラックは変なこと考えすぎ! セクハラだよ!」

「男同士にセクハラも何もないだろ」


 あ、いや?

 刹那が男かどうかはまだ分からないんだっけ?

 聞いてみるか。


「刹那はさ――」

「友達同士でもデリカシーは必要だと思うよ!」


 しゃべろうとしたところにカットインされた。

 通話時にはよくあることであることだが、タイミングが悪い。


 こちらの言葉に突っ込まないってことは、男で合ってるのかな。

 ま、どうでもいいか。こんなイケボな奴が女の子の訳ないし。


「ごめんなさい。俺が悪かったよ」

「分かれば宜しい」


 かすかに満足そうな鼻息はないきの音が聞こえてきた。


「ていうか、ボクのお仕事ばっか言及するけど、ブラックは将来何かやりたいことあるの?」

「総理大臣」

「……ごめん、良く聞こえなかった」

「だから総理大臣」


 きっぱりと言い放った直後、わずかに間が空いた。


「寝てる?」

「寝言じゃねーよ」

「本物のブラックを何処にやった!」

「偽モンでもねーから! 良いだろ別に。夢はでっかくって奴だ」

「スケールが大き過ぎて、ボクなんかに理解出来ないインパクトだったよ」

「そういう刹那の夢は何なんだよ?」

「ボクっ!?」


 聴かれることを想定していなかったのか、跳ねた声が飛んできた。


「ボクは、その。ゲームに関する仕事をしたいなって。子供っぽい夢だよね」

「そんなことねーよ。現実的だし、はながあって良い夢じゃん」

「そ、そうかな。それにしても口に出して自分の夢を言うって、思ったよりも恥ずかしいね」


 分からなくはない。ただ、


「変に隠すよりも全然良いと俺は思うぞ。目標に向かって頑張る気持ちも湧いてくるし」

「ボクはゲームクリエーターになる。なるほど。確かにそんな気がする」

「『総理になる』、『総理になる』、みたいに口癖くちぐせにしておけば、嫌でも努力しようとするしな」

「そっか。ところで、ブラックは総理になって何をしたいの?」

「考えてない」

「ポンコツー!」


 ひどい言われようである。


「そんなもんはなった後に考えればいいんだよ」

「総理大臣はなる前から大事じゃないかなー。何のビジョンも無い国のトップなんて嫌じゃない?」

「じゃあ、権力を振りかざして好き勝手したい」

「具体的には?」

酒池肉林しゅちにくりんとか?」

「権力を行使する前につぶされそうだし、何ならボクが潰す」

一夫多妻制法案いっぷたさいせいほうあんを通すのもアリだな」

「こんな政治家は嫌だ、の大喜利おおぎり選手権でもやってるの?」

「ちょっと厳しくない?」

「残念な首相候補のり取ってるだけだよ」


 夢を壊しにかかるとは、これが友達のやることだろうか。


「ただ正直なところ、本当はなれるなんて1ミリも思ってないんだわ。あまりに突飛とっぴな夢だし」

「じゃあ、何で口に出してるの?」

「その方が面白いだろ? あこがれや夢を見るのは自由じゃん」

「ん……」


 夢や目標があるから人は頑張れるのだ。きっと。


「それ最近始まったアニメの受け売りじゃない?」

「細かいことは気にするな」

「ブラックの将来が不安になってきたよ」


 何故か心配されてしまった。

 引用元いんようもとが何だろうが、間違ってはないと思うのだが。


「夢か。勉強頑張らないとなぁ」


 ぼそりと、刹那のつぶやきが聞こえた。


「勉強ならまた俺が見てやろうか」

「え? 良いの?」

「もちろんだ。友達が落第するのは見るにえないからな」

「まるでボクが頭悪いみたいな言い方するー」

「学力底辺ポンコツざむらいに言い直そうか?」

「むー。ブラックのいじわるー!!」


 分かりやすく怒る刹那の声に、思わず笑いが込み上げてくる。

 そして、相手もまた俺にられたのか、クスクスと笑いだした。


 刹那と話す時間は本当に楽しい。

 願わくば、この時がずっと続いてくれれば良いな。

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