第4話・ご飯大戦争

 日曜日のお昼前。

 ネトゲの集まりから解散すると、俺は何時ものように刹那との個人ルームへと入った。


「おっつー。さっきの協力レイドバトルは大変だったねー」

「最後の攻撃ヤバかったよなー。頭使ったせいで滅茶苦茶お腹減ったわ」

「ボクも。今日はやたらと暑いし、つるつるっと食べられるものが良いかなー」

「分かるー。素麺とか冷たいうどんが食いたくなってきたわ」


 ただ、こういう時に限って熱いものだったりするんだよな。うちの場合。


「ブラックは麺系めんけいだと何が好きなの?」

「そうだな。割と何でも好きだけど、一番ってなるとラーメンになるかなぁ?」

偏見へんけんだけど、豚骨ラーメン好きそう」

「……何で分かった?」

「卓上調味料で味変するのにロマンを感じてそうだから」

「お前は俺の親か? 俺に対する解像度高過ぎるだろ」

「替え玉コールするのも好きだったり?」

「本当に怖くなってきた。ラーメン屋で会ってたりするか?」

「偶然だよ偶然。全部憶測おくそくだし」


 それにしても見事に合っている。

 まるで俺の口からきいたか、光景を見たような感じだ。


「そういうお前は何が好きなんだよ」

「ボクは断然お蕎麦そばかな。温かい出汁に絡んだ麺がたまらないよね」

「ふっ、甘いぞ刹那!」

「ふぇ!?」


 間抜けな声を上げる刹那に対してたたみかける。


「かけ蕎麦なんてものはしょくすに値せず。もり蕎麦こそ麺の良さが味わえるというものだ」

「今度は何のグルメ漫画の影響受けたの?」

「だから何でバレる!?」

「分かりやす過ぎ。本当にお蕎麦が好きなら、大抵の人は好きな方で良いって言うもの」

「むむむ」


 どうもやり辛い。

 相手のドヤ顔が目に浮かぶようだ。


 こうなってくると、こちらのペースで進めるのは難しそうだ。

 どうにか方向性を変えなければ。


「そういえばさ。大人はよく学校時代の給食を食べたいって言うけど、本当なんかね?」

「急に話が変わったね。でも、学校給食を出す店があるぐらいだし、需要じゅようはあるんじゃないかな?」

「そんな食いたいもんかねぇ。酸っぱいサラダとか、やたら具沢山のスープとかそんなかれるもんじゃないと思うんだが」

「またそんなこと言って。作ってくれる人に失礼だよ。それに、大人が子供時代の思い出にひたれるなんて素敵なことじゃない?」

「はんっ。そんなのただの現実逃避だってーの」

「ネトゲに夢中になってる子供に言われても」

「……今日は何だか辛辣しんらつじゃない?」

「気のせいだと思う」


 語気から冷たさを感じる。

 あまり文句を言うのは止めた方が良さそうだ。


「しかし、俺達もご飯でノスタルジーに浸る時代がいつか来るのかねぇ」

「カレーライスとか揚げパンとか?」

「俺は地味にわかめご飯が好きだな。外では絶対食べそうにない素朴感そぼくかんが良い」

「それちょっと分かるかも。冷凍みかんも、ただみかんを凍らせただけなのにたまらないよねー」

「それな!」


 こういう感性は合うあたり、話してて楽しい奴である。


「シュークリームといいゼリーといい、給食のデザートって凍らせるもの多いの何なんだろうな」

「冷たいもの食べると頭がキーンってするじゃん? 食べてる最中に異常にしゃべるる人達を黙らせるためだよ」

「しつけ用だったかー。その発想は無かったな」

「最悪投げても良いし」

「武器はやり過ぎだろ! 発想がこえーよ!」


 前言撤回ぜんげんてっかい

 何を考えているか分からん奴に格下げだ。


「ところでソフト麺ってあるじゃん?」

「あるね」

「あれはなんだ?」

「やわらかい麺だよ」

「そういうことじゃねーよ。いや、そう言うことなんだが、そういうことじゃない」

「暑くて思考回路がショートしちゃったかな?」

「本当辛辣だな今日のお前。どうした? 体調悪いのか?」

「暑いの苦手だから、もしかしたらそうかも」


 故障してるのは向こうだったか。


「話を戻すけど、うどんと言われるとそこまで太くも無いし、中華麺かと言われると色合いがおかしいじゃんあれ?」

「ミートソースと一緒に出されることが多いから、スパゲッティの一種じゃない?」

「スパゲッティぃ?」


「んな訳あるか」と、インターネットブラウザを開き検索する。

『ソフト麺とは』と打ち込んだところ、刹那の言う通りの文言が一番上に表示された。


「マジだった……」

「ボクの勝ちだね。明日までに何で負けたか考えてきてね」

「最初から勝負なんてしてないんだがっ!」

「細かいことは気にするものじゃないよ。今度ソフト麺おごりね」

「学校以外で何処どこで食えるんだよ!!」


 思い切り叫んだら、隣の妹の部屋から壁を叩かれてしまった。

 自分が思ったよりも騒がしかったようだ。


「腹減ったしそろそろ落ちるか」

「そうだね。じゃあ、またね」

「ああ、またな」


 アプリケーションを閉じ、椅子から立ち上がる。

 途端とたん、不意にお腹の虫がった。


「くそっ、ソフト麺食いたくなっちまったじゃねーかよ」


 ちなみに、今日の昼ごはんは焼うどんだった。

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