第3話・青春コンプレックス
「ブラックに聞きたいことがあるんだけど……」
「何だ改まって」
金曜日の夜。
普段よりも1時間程度遅くネット通話を開始したところ、刹那が神妙な声色で
「本当のことを。話してくれると嬉しいんだけど」
「う、うん」
何だろう。
珍しく真剣な雰囲気だな。
「ボクの声……本当はどう思ってる?」
「どう思ってるって、そんなの――」
本当のことを言っていいのかと一瞬ためらってしまう。
そして不幸なことに、その
「やっぱり、ボクの声って変なんだ」
「いやいやいや、どうしてそうなる?」
「だって、言い辛いってことはマイナスに思ってるってことじゃないの?」
違う。
そんなことはこれっぽっちも思ってない。
「んなわけないだろ!」
「じゃあ、どう思ってるの?」
「それはだな」
仕方ない。
恥ずかしいが、ここは真面目に答えるべきか。
「
「えっ?」
「だから、羨ましいんだよ! お前の声がっ! 言わせんなよ、恥ずかしい!」
ネットを
心が落ち着かないどころか、変な手汗まで出てきた。
「そんな反応が返ってくるとは、思ってもみなかったよ」
「お前なぁ。もうちょっと自分を見つめなおした方が良いぞ。そんだけのイケメンボイスなら、女子を
「そんなことしないよ。ボクはこの声があんまり好きじゃないし」
「まったく、
「嘘。ボクはみんなと同じものが欲しいもの」
「とことん
これは本音だ。
自分を
そんな時間を過ごすぐらいなら、もっと馬鹿な話をしたい。
「中性的な上に透き通った声なんだし、俳優や声優、歌手や舞台役者なんて道も見えるだろ?」
「映画やアニメは好きだけど、見る専だよ?」
「俺が言いたいのは、今のお前にはそういう
口のエンジンがぶん回る。
頭で思いついたことがどんどん言葉として放たれていた。
「そう、かな?」
「そうだ。何を
「女なら?」
「抱かれても良いとさえ思うぞ」
「っっぅぅ――!?」
小さな悲鳴と共に急にヘッドホンから声が消える。
あれ? もしかして調子に乗ったか俺?
てか、刹那ってそもそも男で……合ってるよな?
そういやちゃんと確かめたことないな。
「……急にそんなこと言うのズルいよ。心臓が止まるかと思った」
「自分でも変なこと言ったと思うわ。悪い」
「うんん、おかげで元気出たよ。ありがとう」
どうやら元気づけることは成功したようだ。
性別については今度聞こう。そうしよう。
「ところで、ブラックには自分のコンプレックスは無いの?」
「そりゃあ沢山あるぞ」
「聞いても良い奴?」
「
「へぇ、どんなものなの?」
何やら興味津々な様子である。
声の調子が明らかに上がっていた。
「頭が良すぎるところだな!」
「……ギャグのセンスは無いみたいだね」
「悪い悪い! 真面目に答えるからフレンド登録外そうとするなって!」
画面上に意味深なメッセージが出力されたことで
謝罪が通じてくれたのか、刹那は大きく息を吐いて言った。
「真面目な話の最中にボケるのは、
「だから悪かったって。そうだな、
軽いものなら数えきれないほどある。
しかし、大きいものといったらこれが一番だろう。
「熱中するものが無いってことかな」
「え?」
「意外って思うか?」
「う、うん。だって、ネトゲやってる時
「勿論あれはあれで楽しんでるけど、やり込んでる奴ほどの熱意は無いんだよなぁ」
「部活だって帰宅部だし、同年代の連中がスポーツとか芸術にのめり込んでるのを見ると、何か劣等感が湧いてくる、みたいな」
「驚いた。ブラックも意外とセンシティブな人間だったんだね?」
「おっ、フレンド解除の時間か?」
急ぎチャットルームに冷たい言葉を書き込む。
「ごめんなさいごめんなさい。今のはボクが悪かったよー」
「真面目な話をしてるんだから、茶化すんじゃありません!」
「だからごめんて。でも、良いんじゃない別に」
「フレンド登録が?」
「違うって。今熱中出来ることがなくとも、そのうちブラックにはきっと出てくると思うよ」
「気軽に言ってくれるなぁ」
「だってボク達はまだ中学生だよ。人生なんてまだまだ始まったばかりじゃないか。大人になるにつれて見える世界が変われば、好きなものだってきっと見えてくるよ」
「そんなもんかね」
刹那が言っているのは
しかし間違ってるとは思わない。
「そうだよ。それにブラックの頭なら見つける時はあっという間だよ」
「さらっと馬鹿にされた気がする。でもま、そうだな。気長に見つけるするよ。ありがとよ」
「ふふふ、どういたしまして」
比較的重い話題がキリが付いたところで、話は昨日放送されたアニメへと移っていった。
刹那が何故コンプレックスについて持ち出したのかは少し謎だ。
だが、周囲の人間には言い辛い悩みだってある。
その点、ネットの付き合いでしかない俺は少しは話しやすいのだろう。
俺は勝手な
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