1-3.Ab:男子高校生の日常
エミとの付き合いは凡そ五年になる。
異世界にいる間、いつだって日本に帰りたいと思っていた。
漸く帰る手立てが見つかり、築いた関係全てを捨て一人消えようとしていた俺に、何処からか嗅ぎ付けてきた彼女はついでに連れてってと言ってきて……結果、彼女は日本に
「ここがアパート!?」
「うん、ここの一室が俺の家」
「一人暮らしなの? 親は?」
「……まあ一旦置いとこう」
「了解?」
異世界から女の子持ち帰って来ました! とかどの面で紹介すればいいんだよ。これから忙しくなるってのに面倒事は後回しじゃ後回し。
ポストから唯一の合鍵を取り出してエミに渡し、ズボンのポッケから見つけていた本鍵で扉を開ける。
……しまった、男一人暮らしだからスリッパ買ってねぇじゃん。メモしとこ。
「ただいまー。うわ懐かし」
「お邪魔しまーす…………凄い! よく分からないものがいっぱいある!」
「あ、靴脱いでね。後で室内履き買ってくるからそれまで素足で我慢して」
「はーい」
ゴソゴソとブーツのベルトを外しているエミを置いて一人先にリビングへ歩く。
(生活感
小さなゴミ箱に捨てられた飴の袋とカップ麺の残骸、流しにはそもそも何も無く、確認した冷蔵庫には2Lの麦茶が燦然と並ぶだけ。野菜室に野菜が無いのは置いとくとして、冷凍庫に肉すら無いのは終わってないか過去の俺?
……ああ大体察した、これ着替えるのが面倒で制服のまま寝て、食べる物が無かったから制服のまま鞄と財布だけ持って買い出しに出掛けてたやつだ。えっどうしよう普通に憂鬱。
「生活感
「人より虫の方が住んでそう「やめて」……じゃ、一旦荷解きしますかぁ」
「ん。言うてもそんなに無いけどねー」
「いやエミのじゃなくて」
「……?」
言いながら開け放ったある部屋の扉。
そこは俺がここに越してきてから全く手を付けていない……面倒臭がって開けてないダンボールがめちゃくちゃに積まれた物置部屋だった!
窓を遮る高さまで積まれた荷物を見て後ろからは呆れのオーラが漂ってくる。突き刺さる引きを多分に含んだジト目、それを無視して俺は努めて無表情に事実を述べた。
「はい、じゃあ、こちらがエミの部屋予定地になります」
「片付けなさいよ!?」
「という訳で荷解きすんぞ、片付かないと部屋ねぇから。さぁ! この家に家具で生活感を取り戻そう!」
「舐めんな。……ねぇこれ梱包材? 普通に開けていいやつ? うわベタベタする」
「ガムテープを横から普通に千切るな怖い、切れ端から剥がしてくれ」
「ん。てか見るからに紙なのに思ったより分厚いわね……あれどこいくの?」
「トイレ。要らなそうなやつは適当にまとめてそこら辺置いといて、後で捨てとくから」
「あんたじゃないと何が必要か分かんないんだけど!?」
喉乾いても無いのにシンプルに水分取り過ぎたなコレ。と、立ち上がる最中の俺の袖が摘まれる。
「てか私もトイレ行きたいんだけど」
「でしょうね」
流石に順番は譲った。
「ねぇ、部屋が片付いたとして布団無くない?」
「アイテムバックに?」
「無いわよ」
まじかよ、じゃあ今日俺ソファ確定か。
「絨毯もふもふだから別に毛布あれば全然寝れるけど……」
「ハウスダストとダンボールのカスまみれの中では流石に嫌でしょ。今日は一旦俺の部屋で寝てくれ」
「ん」
──ある程度荷解きが終わる頃には気付けば既に夕方で、住めるスペースが生まれた元物置部屋から出てきたのは組み立て式のテーブルや棚、洋服、漫画等。
つまるところエミが使う・使える物は数少なく、そして既に寝具がある中荷物に布団が混ざってなど居ない訳で。
脳内買う物リストに敷布団を書き加えたところで、七年ぶりに帰還した自室の風景は……うん、実にオタクの一室だ。
壁に備え付けられた本棚には上から下までラノベまるけ。元の用途が勉強机だった筈のテーブルは専らパソコンを弄るためだけの作業スペースになっていて、他はやる気の無い衣類タンスとベッドがあるだけ。
「何してんの?」
「いや、思えば当然なんだけど、匂いが落ち着かないなぁって」
「……なんか恥ずかしいから嗅ぐのやめてね?」
ルームシェアしてた関係上エミが部屋に来るのはよくあったが、それは
俺の体臭も違えば、エミの匂いもまるで混ざってなくて、一度意識してしまうと俺まで落ち着かなくなってきた。なんだこれ感覚がバグる。
「知らない男の子の部屋に初めて来たみたいで、なんかちょっとドキッとする」
「わざと意識させるようなこと言うのやめてね???」
「さぁてエロ本はどこかなーっと」
「或る意味俺らがいた世界の連載媒体が
「え゙っ゙?」
……あと因みにそういうのは電子派だから探すだけ無駄だぞムッツリめ!
******
用語解説:ヤングなんちゃら・ドラゴンなエイジ
ネット小説がコミカライズされる場合の主な連載先、他の月刊誌やWeb連載等でもされる。尚、極々稀に週刊少年本誌でもされるらしいが、例外中の例外である。
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