1-2.Aa:異世界から帰ってきて最初にすること
普通に受験して、普通に高校に受かって、浮き沈みのない学園生活を送っていたら、気付いたら異世界に転生して、そして今しがた日本に帰ってきた。
「……え、自己紹介終わり?」
「それ以上
ラブコメを読みに来る読者が見たいのは
生温い空気に野ざらしにされている。
本日の天気は快晴、周りには影差す大樹。
社を背に慣らされた砂利を踏む。人気の無い寂れた神社の境内には、スマホを持って立っている俺と──
「じゃあ改めてなんだけどさぁ」
「うん?」
「誰???」
「……日本における
「どうしよう、雰囲気は同じなのに
「どう? イケメンじゃない?」
「いえ全く?」
──傍から見たら何かのコスプレにしか見えない、ちょっと露出の激しい銀髪の女の子が居た。
「……建築様式的にもしかして目立つかしら?」
「うーん、日本にはコスプレっていう文化があるから多少の露出や髪色は見て見ぬふりされると思うよ」
「ねぇ、人に露出癖があるかのような言い方やめれる? これ普通に普段の制服なんですけど?」
「向こうじゃ誰一人疑問を呈さなかったから言わなかったけど、普通に臍出てる制服ってこの世界基準じゃ痴女だよエミ」
「なんで異世界に来て最初に教えられる知識がコレなの? もっとこう他にワクワクさせるやつ期待してたんですけど私???」
キョロキョロと物珍しげに辺りを見回す少女──エミは、遊園地に初めて来た子供みたいなテンションだ。
元々好奇心旺盛なのもあって興味の種は尽きないらしい。あの世界には無い植物を見て、知らない建築様式の社を見て。「へー!」とか「ほー?」とか呟きながら視線があちこちに散らばったら、今度は俺の身に付けてる物に戻ってきた。
馴染みの無い
何に驚いたのかカッと目を見開いて、次いでにまぁ……と悪魔のような笑みが浮かぶ。
えっ情緒不安定? とつっこむ間もなく耳元に急に顔を寄せて来て一言。
「──身長、今は私の方が高いわね?」
ふんわり香るシトラスと、透き通る
5cmも無い距離で感じる体温、熱。
よく慣れ親しんだそれに今は若干の苛立ちを覚えながら、異世界から漸く帰ってきた俺は、取り敢えず最初に身長を伸ばすことを決意した。
「──そう言えばさっきから触ってるそれ何?」
「スマートフォン、略してスマホ。機能としては地図。兼、時計。兼、念話。兼、0秒で届く手紙。兼、映像水晶。兼、辞書。兼、財布。兼、本棚。要約すると身分証明書」
「はぁ〜〜〜〜……ねぇアラン、幾ら私が異世界人だからって流石に馬鹿にし過ぎじゃない? 何がどうやったらそんな小さな機械にそんなに機能詰め込めるのよ。というか仮に詰め込めたとしてそれ無かったら生きて行けなく無い?」
完全にうろ覚えの街並みに反し、手馴れた操作で開いたマップに従い
チラりと視界に入った日時は4月27日の土曜日。休日なのは良いのだが、既に照り付ける日差しが暑いのはどういうことか。春の終わり際に吹く風は異世界に比べて余りにも生温く、じんじんしてきた足から気を逸らそうと見回した視界の中に、ふと自販機を見つけた。
……あっ交通IC対応してる。って……っ!?
「うわアクエリアス
「えっ急に何? 今日一声出るようなことなのこれ?」
「七年間水と牛乳と果汁ジュースしか飲めなかった現代人の清涼飲料水への飢えを舐めるなよ!? えっ何にしよう全部飲みたいエミいるし全部買うか」
「飲む? この箱飲み物入ってんの?」
「自動販売機、お金払ってサンプルにある物が買える機械だよ……そして物によっては会計がコレで出来る!」
言いながらスマホを翳してタッチ決済、ガコン! と久々に聞く音と共に取り出し口へ落ちた500mlのペットボトルの中の色は……天然水とも違う、少しだけグレーがかった透明色……!
「本当に払えた!?」
「本当に出てきた!」
キャップを刹那に吹き飛ばし呷った液体は……ああ……! なんとも言え無いこの甘さと清涼感は、間違い無くあの懐かしき飲むクエン酸の味だ……!
あぁ……実感がまだイマイチ湧かなかったけど、そうだ俺は、本当に俺は日本に帰ってきたんだ!!!
「色微妙だけど美味しいのそれ……?」
「俺は好き。でも多分エミはこっちの方が好きそう」
「えぇ? 見た目薄めた牛乳じゃんコレ……あっこう空けるのか…………
そうして俺の連れて来た異世界人が最初に美味いと言った地球の食べ物はカルピスになった。
……こういうのってもっと他に相応しい食べ物があっただろと思わなくは無いけど、どうせ誰が食べても美味いって言われるハンバーグなりカツ丼なりよか、カルピス飲んで目をキラキラさせてる異世界人の方が見れて達成感がある気がする。
「……あー。私、異世界に来たんだなぁ……」
「今?」
「異世界の飲食物実際に体に取り込んで、なんか急速に実感湧いてきた」
「実感するタイミング俺と全く同じじゃん」
「湧くタイミングこれで本当に合ってる?」
「多分違うんじゃないスかね」
「……考えられてるわね、真横にあるわ」
言いながら秒で飲み終えたボトルを自販機横のゴミ箱に放り、それに倣って所在無さげにボトルを握っていたエミも捨てる。お前も飲み切ったんかい。
「ね! それどんな味?」
「ん」
真上から見下ろす太陽から隠れるように、影伸ばす塀に二人で凭れている。
そよ風が運ぶのは俺の記憶の彼方に行ってしまったアスファルトとうだつ夏の生温い
蓋の空いた肌色の乳酸菌飲料を秒で飲み干す親友の表情は喜色満面極まりなく、味についてなぞ聞くまでもない。
「幸せ?」
「幸せ!」
そらよござんした。……今度から
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