1-4.Ac:化学と魔法ならトラ〇アルで交差してたよ

「枕ってさ、生活の中で人間の息と体臭が一番染み付く、その人の命と最も長く付き合うアイテムじゃん?」

「うん」

「頭乗せる他に抱き締めたりもするし、人に見せない凄くプライベートな思い出の詰まった物って考えるとさ……それの貸し借りってなんか凄くえっちじゃない!?」

「うんそうだね。じゃあ買い出し行くから着替えてくれる?」

「はーい」


 高校生・上城かみしろあらたはそれなりにお金を持っている。

 というのも別に切り詰めていた訳では無いのだが、食事を飴袋やカップ麺などのコスパが良い軽食カッスい餌で済ませていたため、支給される生活費から食費がかなり浮いているのだ。

 よくそれで生きてこれたなと今でこそ思う訳だが……お陰で安い雑貨や敷布団を買う程度の余裕は財布にある。


(持ち帰ってきたもん何とか換金すりゃ暫くは問題無いだろうし、割と雑に使ってよさそうか?)


 スマホのメモに必要な物を打ち込んでいく。ご飯と室内履きスリッパに布団とあとは……うわすげぇ! フリック操作の練度が赤ちゃんだ! いやどこでテンション上げてんの俺?


「髪ってこのままでいいと思う?」

「ワンサイドアップ? 可愛いけど?」

「いや色の話。なんなら黒に染めよっか?」

「そのままでいいでしょ綺麗だし」

「目立つんじゃ?」

「今更では?」


 元々目立つ顔立ちしてんだから下手に黒髪にする方がよっぽど違和感出るでしょ。

 早速自室旧物置部屋から着替えて出てきたエミさんは、向こう異世界でよく見たシンプルなワンピースにキャスケットの私服姿。制服とは打って変わった清楚極まる出で立ちはギャップが凄く、見てくれだけならまるでいいとこのお嬢のよう。


 家名も無ければ元気溌剌なただの戦闘狂なんだけど。




******アイキャッチ




「何この子? カーバンクル?」

「猫だよ」


 街角に精霊を見い出すエミを連れて、日が落ちゆく街を歩く。

 無防備にしゃがんで野良猫にちょっかいをかけているエミさんは、案の定飛んできた威嚇からの猫パンチを……片手で白刃取りした!? 

 その後肉球の感触を確かめてから解放するなどしている。ナチュラル化け物やめてね?


「(エミ、一応聞くけど魔法使った?)」

「(? 使ってないけど?)」


 "何を心外な"と言った顔で見返してくるフィジカルモンスターには、日本に来る前に口を酸っぱくして魔法を使わないよう言い聞かせてはいる。なるほど? 身体強化無しその上でこれなら競走競技はやらせない方が良さそうか。


「ぷにぷにしてた。あの子飼おう」

「鳴き声が近所迷惑なので駄目」

「つまり消音結界張ればいいのね!?」

「魔法禁止って言ったでしょさっきの心外顔どこいった」

「お♡ね♡が♡い♡」

「スーパー着いたよ」

「わぁい」


 軽口叩きながら来たのは家から徒歩五分の行き着けのトラアル。

 ショッピングカートに買い物カゴを乗せる俺をまるで儀式でも見るように観察しているエミは、視線が俺から店内へと移ると目を見開いて固まった。


「……デッッッッッッカ」

「期待してた感想ありがとう」

「ねぇ待ってこれ全部売り物? マジで言ってる!?」

「食品から家具や衣類まで大体あるよ」

「それってもう"答え"じゃん」


 実際近くにスーパーもコンビニも無ければ、あるのは川と学校とガソスタ程度だったりする。

 言いながら入店からすぐの野菜コーナーで既にカット済みの野菜パックと、次いで精肉コーナーから量と安さを基準に選んだ豚バラを籠に放り込む。調味料は封を切ってないやつが転がってた筈だからスルー、菓子はエミの反応から栄養を貰うためにメジャーなのを幾つかぶち込んで……まあインスタント麺も買っとくか?


「へぇー……薄い膜張ってお肉包んでるんだ? てかこの袋ってどうやって中にお野菜入れてるの?」

「地味に考えたことなかったな、それ」


 サランラップとビニール袋に興味津々な異世界人の独特な視点から来る問い。魔法の一言で片付かない世界だからこそ、彼女にとっては不思議で目につくのだろうか?

 手に取ったスーパーップを籠に入れてふと気付く。あれそういやこの子、字読めてね?


「エミこれ読める?」

「んー? うん。だって言語同じじゃない?」

「あー……やっぱそっちから見てもそうなのね」

「……てかこれ何? 部屋に残骸はあったけど熱湯3分とこの絵になんの関係が?」

「ああ。これはカップ麺と言ってだね、お湯入れて三分待つと蓋に載ってるラーメンになる化学の結晶だ」

「いやお湯だけで出来るわけないでしょ!? 魔法か!」


 面白いツッコミだ。冗談じゃなく俺がマジでボケてると思って言ってるのがより味わい深い。

 そのまま食べ物から雑貨エリアにカートを進めていくと、おすすめゾーンのような場所に並べられた水筒が目に付いた。


「あ、魔法瓶だ」

「それのどこに魔法要素が!?」

「この中に入れた物は時間経過が1/10になって温かさが長時間維持されるんだよ(大嘘)」

「水筒に高度な技術詰め込み過ぎでしょ!……うわしかも安っ!?」


 態々買うこと無いからどれであったとしても高ぇよ。

 寝巻き……は流石にあるだろうし、私服は……俺の方がセンスがねぇし、最悪俺のシャツをオーバサイズ気味に貸せばいいわけだから、後は本当に布団くらいか?


「……ああ、これも買っとくか殺風景だし」

「お? クッション?」

向こう・・・より遥かにふわふわだぞー」

「まじ!?」


 水色と黒色エミの好きな色のクッションを少々、家出る前に何か言ってたので枕を一つと、折り畳まれているとはいえ凄まじく嵩張る敷布団を籠のふちに乗せる。見切り発車で来たけどこれ持って帰るのだっっっる……異次元ポーチで感覚麻痺してたけどこそうじゃんこれ"持って"帰らないと駄目じゃんか!?


「まあいいやエミなら持てるでしょ」

「任せて✩」


 サムズアップしてくれる相棒。パワータイプ助かる。

 手持ちで払える合計なのを確認してから無人レジで会計を済ませ、宇宙猫状態で見守っていたエミに布団を渡して袋詰め。布団抜きにしてもクッション嵩張るなぁ……今更ながら自転車で来ればよかったか? あぁでも俺のやつって確か籠無いやつだしどっちにしろ変わらんか。


「まぁでも重量自体はそこまでも"ッ……!?」


 レジ袋を腕に掛けテーブルから離した途端、左肩ががくんと外れて荷物が床とこんにちは。わぁ小さな音さんですね、この程度でバランス崩すとか身体能力がナナフシかよ。


っっっっっっも」

「え、あんた非力過ぎない?」


 今日一引いた顔のエミにレジ袋も持ってもらい、そうしてクッションだけ抱えて帰宅する情けない俺は、生まれて初めて筋トレをすると決意した。



******

備考:身体能力及び筋力

新:カス&カス

エミ:化け物&腹筋が軽くだが割れている

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