冥福を
仕事が片付いて、やあっと暇な日ができました。
暇っす。ものすごく。…暇っすねぇ
ずっと仕事をしてたからか、休みの日、何をしていたか覚えてないっす。何連勤したんでしょう、ワタシ。
仕事部屋…探偵事務所なるものの部屋のデスク。
少し前まで、山積みだった資料のファイルと書類。
今はもうほぼなくなって、この永い、終わりが見えなかった仕事は、そろそろ終わりそうでした。
残っているのは、事件の参考書類、詳細の書類、端のほうに、「
新聞の一面を飾るのは、少年二人の心中事件でした。
この、演劇のような心中は、後に、被害を出しました。
「…ひどいっすね、これ、本当」
この事件でそう呟くのも数十回は繰り返したっす。
仕事が終わってまもなかったからか、ワタシの声はダルそうで疲れきった声でした。
なぜワタシが、この事件のことをこんなに考えているのか。それはワタシは殺人事件専門の探偵だからっす。殺人というより、「人が死んだ事件」の方が扱ってますし、探偵とは名乗ってますけど、どちらかというと警察に近いっす。それに近い仕事と兼業もしていますから。
そのお陰で、この事件と巡り会ったっす。
『なぁに?今日は暇な日でしょー』
かわいい相棒がふよふよ浮きながら、そうやってちょっかいをかけてきました。
ワタシは、或る異能力を持っていてるっす。
ワタシの仕事にとてつもなく有利な能力
「幽霊と対話することができる」という、能力っす。
そのお陰で、事件現場である廃ビルにいる或る幽霊にこの事件の内容聞きいたっす。そして、事件をすぐに、知ることが出来たんす。
…現場は、自殺の名所、そこで死んだと思われる、或る地縛霊さんが話した内容は、以下の通りっす。
「二人の少年、廃ビルの屋上、話していた。可愛らしい少年と、格好いい少年が話していた。可愛い少年は、中性的な格好をしていた。
そして、格好いい少年に、男だと打ち明けたらしく、格好いい少年は、困惑した表情をしていた。
可愛い少年はそれを拒絶と受け取ったように見えて。
廃ビルの屋上から飛び降りようと、足を進めていた。きっと、覚悟は決まっていたんだと思う。
それで、飛び降りた。はずだった。
格好いい少年は、可愛い少年の手を掴んで、引き上げようとした。
……だめだったんだけど。」
呆れたように、でもなんだか、期待の色が目に浮かんでいました。死んでる方っすけど。
可愛い少年の方が、手を掴んだ格好いい少年を引っ張って落としたらしいっす。
で、二人で落ちて片方は死亡、片方は重体。
死んだ方の可愛い少年の名前は
もう一人は、すぐに自殺しました。
案の定…というか、ワタシが予想していた通りに、…後追い自殺。あんまりいい気しないっす。
『んー、サトリー!!今日おやすみじゃないのー!』
「そうっすよ」
相棒はこっちを見ました。
そうして手を振り回して、ワタシを殴るような動作を繰り返しました。もう死んでるので、上手く干渉ができてないっす。「何かにぶつかった」というよりも「空気の流れを本当にほんの少し感じる」ような感覚っす。
普通の子供がそうしていたら、目茶苦茶いたいと思うっす。幽霊でよかった…
でも、ワタシの、ワタシにしか見えない相棒は、悪霊っすから。
『なんでまだ、仕事の見てるの?』
どうしても…頭から彼ら二人と、ある曲が、頭から離れないんす。
そう、口から発しようとしても、なんだか詰まって口から吐き出せなかったので、息を止めて、弱く吐き出しました。
そしまた、思い出すっす。
…格好いい少年。…
後追い自殺する二日前、一度あの子に話聞きに行ったっす。捜査の名目で。少しは、心配。それと、ワタシの可愛い相棒、トゥールの好奇心で。…なんだか。彼は彼で、ずーっと、なにかをぼやいてましたし、なんだか、柊さんに、呪われているみたいでした。
本人はいなかったっす。死んでますから。霊として居ると思ったんすけど、居ませんでしたし、それに、晩夏くんは、柊さんが残した
もし、退院したとしても、生き長らえたとしても、普通に生きるのは無理だったっすね。それほど、柊さんは呪うのが上手かった。…頭に、心に、傷をつけるのが、得意だったんすね。きっと。彼は自分が見殺しにしたという夢にとらわれるか、心中した想い人がまだ生きているという妄想に刈られてしまったのでしょう。
『休みなよお、ほら、ほら、曲でも聞いてぇーさ!』
ワタシの相棒は、そう言いました。
ワタシのスマホで、動画配信サイトを開きながら。
なんでいじってるんすか勝手に。
幽霊とかって実態無いはずでは?
『…あの曲、みっけぇ、ほら、これ聞いてぇ』
「あの…曲」
あの曲、そう、気になるんです。ワタシは相棒が持っているワタシのスマホに近づきました、すると写ったのは…心中事件の……あの二人。
…これが、本当、気になるんすよ。
前も、見た、これ。
誰かがこうなることを予測していた?
…そんなことあり得ないはずっす。未来予知の異能力を持つ人なんて、いるんでしょうか?
それも、他人の。柊さんと晩夏くんは異能力は持っていませんでしたから。
これは、死んだどちらかがこれを望んでいた、それを描いたもの…?
柊さんか晩夏くんが、これを作った可能性。
…なんのために?何かを残そうとするため?
なにか、意図があるんでしょうか。
現実とは結末は違く、一緒に落ちてはいなくて、掴んだ手を、落ちた側が振りほどいるんすよ。つまり、柊さんが、一人勝手に落ちて、死んでいる。
そして、曲を聞くと電子音に混ざって…
『この人殺し』
という、…柊さんであろう人の声がするんす。
ワタシは、柊さんの声を知りません。
でも、あの人…柊さんなら、きっとこんな声だった、と、いう、イメージならあります。
それに、ぴったりはまる、声。
人殺し。…これは、誰に放った言葉なんでしょう。
手を離した人に言い放った言葉?
それとも、他の誰か…第三者に放った言葉…?
『サトリ、今また、なにか言ったー?』
「…いや、なんも言ってないっす」
前も、こんなやり取りをして、その時は…ワタシは何かトゥールに言い返しました。
『じゃー、誰の声?サトリは、わかんない?』
「…予測っすけど、柊さんの声…じゃないっすかね」
『誰に向けた声だと思う?その、ヒイラギ?の「人殺し」ーってやつは』
「…手を離した人へ、じゃないんすかね」
そう言うと、トゥールはいたずらが成功した子供のように、…実際子供の霊ですが、そんな色を顔に浮かべました。そして、こう、いい放ったす。
『多分、手を離した人にいたんじゃなくてー、…というかさあ、このどーがに、離した人の顔はうつってないよお、…だれかわかんないよー?』
トゥール、何を知ってるんでしょう?
…誰かわからない。すなわち、不確定要素に放った言葉ということっすかね?その不確定要素に、何を伝えたかったのか。
何を……何…を…、あ
嗚呼、…もしも、今、私が考えた、…この、ふざけた仮定が本当だったら…
ワタシも、立派な人殺し…なんでしょう。
これは、あくまでも、…あくまでもワタシの、想像の話です。
この動画は、柊さんが作ったもの。
柊さんは、この動画で落ちて、死ぬ。
曲を再生すればするほど、柊さんは死ぬ。
殺したのは、曲を再生した第三者。
それが、殺したことになる。
なぜ、そんなことをしなくてはならないのか。
…それは、晩夏くんの罪を、軽くするため。
自分を拒絶して、最後は無駄に延命を残した彼。
そんな彼の罪を、軽くして、他の人か勝手に罪を被ってもらうため。
そうなると、ワタシはこの手で数回…柊さんを殺していることになります。
そして、この曲を聞くとかならず起こることがあります。無性に…無性に死にたくなるんす。
どうやったら、…死ねるか、考えてしまうんす。
柊さんは…ここまで…
しかしワタシには、まだやらなくてはいけないことが、…山ほど。
だから、死ぬわけには…いかないんすよ!
死にたいという気持ちを振り払って、ワタシはトゥールを見つめました。
「…なんとなく、わかったきがするっす」
本当のことを、ワタシが思う真実を込めて、ワタシはそう言いました。
『なんかわかったのー?よかったね、サトリー』
そんなことを言ったのにトゥールは他の下らない話をし始めました。
コロコロ表情が変わって、見てて飽きないんすよ本当。
このままだと話が変な方にそれてしまいそうなので、ワタシが伝えたいことを、あとひとつ。
永く眠るであろう彼らに、どうか
…冥福を。
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