過去

 親父は長男と姉がいる3人兄弟の末っ子だった。祖父は脳卒中で倒れ左半身不随となり、実家で介護するような状況であった。それまで祖父が切り盛りしていた会社は一旦当時の部長が引き継ぐことになったが、その部長は会社の金をポケットに入れ、夜の街で豪遊するような人であった。

 親父は祖父の会社が懇意にしていた銀行と共にその部長を辞めさせ、会社を長男に継がせるようにした。だが継いだ後すぐに、長男は骨髄に癌を患った。癌の転移を防ぐことができず、若くして亡くなった。親父は長男から祖母を頼むと言われたそうだ。

 親父は長男が倒れた後、右も左も分からぬまま会社を継ぐことになった。会社を継いだ親父には自由がなかった。この会社何潰れたら一家が食えなくなるという強迫観念にかられ、日夜寝れない日が続いた。また、その時に自由にやりたい事がやれないでいた。右も左も分かるようになった頃には、やりたかった事が出来ない年齢になっていた。


 姉は東京に婚約者がいるが、高齢になった祖母を手伝うためたまに実家に帰っていた。祖母がだんだん不自由になってくると、姉は実家を手放して東京に一緒に移り住もうと提案した。祖母は了承し、実家を手放す準備を始めた。

 祖父の仏壇等必要なものは残した。実家にあるものほとんどは祖父や親父が集めたアンティーク品であり、使えるものがほとんどであったが、親父の確認のための連絡は一本も無く二束三文で勝手に売り捌いた。あとは家を売るのみという所まできたが、これもまた二束三文で売った。ここで恐ろしいのが、その家の売却金を現金で受け取った点である。わざわざ祖母と姉と不動産屋の3人で現金を目の前で数えて、不動産屋から手渡されたのである。そこに親父が割って入る隙間は無かった。


 程なくして、祖母は東京へ移り住んだ。だがこれまでの姉と婚約者のマンションの居住スペースに祖母が入るには少し狭いとの事で、一階下の部屋を購入する事になった。姉は祖母を見るのは私であるから、部屋を購入する金を払ってくれないかと頼みにきた。親父は了承し、4000万のローンを組み祖母のための部屋を買った。

 数年後、祖母がうちに来ることになった。理由は足の骨を折ったからだと聞かされた。少し前まで祖母は元気であったが、ある時急にうずくまって動かなくなり、ただ事ではないと察した婚約者が病院に連れて行き、腸に穴が空いている事が発覚した。

 即入院となったが、コロナの時期である。見舞いに行けず、看護師が祖母に何か特別なことをしてくれる訳もなく、1ヶ月が過ぎた。

 退院後、祖母は認知症と不安症になって帰ってきた。その後祖母が転倒し、足の骨を折ったが、姉と婚約者はその骨折を親父に隠した。

 バレたのはうちに来ることになる1,2週間前のことだった。姉がもう祖母を見れないと言い始めた。様子を見に、そして話をしに親父が行くと、半分寝たきり状態の祖母がいた。

 祖母が姉と婚約者の居住スペースに居たので、親父は姉に一階下の部屋はどうなっているか尋ねた。姉は実家から持って来た必要なものを1階下の部屋に置いていると言われた。物置のために4000万もの金を注ぎ込んだのである。実際に見に行ってみると、ほとんどの物が段ボールから出されておらず、埃まみれであった。

 こんなことになっているとは思わなかったであろう。祖母を姉に任せてはいけないと感じた親父は、うちに連れて帰ってきた。

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