第36話 文通
ヴィクター様へ。
お手紙ありがとうございます。
ヴィクター様からのお手紙、大変嬉しく読ませていただきました。
また、そちらの状況も思わしいとのこと、お聞きできてホッとしました。
おかげさまで、わたくしは日々つつがなく過ごさせていただいています。
お借りした部屋にもだいぶ慣れ、ミーナがあれこれと気を利かせてくれるおかげでとても快適で、申し訳ないくらいです。
先日ミーナと、ヴィクター様からいただいた手紙の話をしながら、芋のクロケットがどんなものか、ヴィクター様に振る舞っていただくのが楽しみだと話をしました。
でもまずは、ヴィクター様の方が疲れて帰っていらっしゃるのだから、わたくしたちでヴィクター様を
もし、何かリクエストがあれば、ぜひ教えてくださいね。
また、ミーナについてのことなのですが。
ミーナが字の読み書きができないとのことでしたので、わたくしのほうで時間のある時にミーナに字を教えてあげることにしました。
差し出がましいことでしたら申し訳ありません。
今後のことを考えると、できないよりはできた方が良いかと思い、本人にも尋ねたところ勉強する意志があるようでしたので勝手ながらそのようにさせていただきました。
早速、ミーナが自分で書いた手紙も同封いたしますね。
彼女も、ヴィクター様に喜んでいただけるようにと一生懸命覚えて書いたものですので、喜んでいただけたら私も嬉しいです。
それともう一点。
ミーナの神聖力の有無は、測定されたことがおありでしょうか?
なんとなくのわたくしの勘で、この子は神聖力があるのではと思うのですが、本人に聞いてもわからず、測定もおそらくしたことがないと思うと言っておりましたので。
ヴィクター様にお考えがあって測定させていないものを、わたくしの一存で進めるのも良くないかと思ってご相談させていただいた次第です。
急ぎしなければならないことではありませんので、お返事はお時間のある時で結構です。
むしろ、ヴィクター様がお帰りになってからの方がよいかとも思ったのですが、取り急ぎお手紙を書くにあたってお尋ねしてみようかと思いました。
こちらはそろそろ、秋めいて参りました。
夜空の月を見るとつい、ヴィクター様を思い出してしまいます。
そちらでも月は、同じように見えているのでしょうか?
長文となってしまい申し訳ありません。
また、折を見てお手紙をしたためさせていただきますね。
ヴィクター様のご無事とご健勝をお祈りしております。
――セシリア・マーヴェル。
◇
セシリア様、お手紙ありがとうございます。
封を開けた瞬間、良い香りが微かに漂ってきて、セシリア様のお心遣いを感じました。
ここは乾いた砂埃と草の匂いばかりで、それはそれで日々新鮮な感覚ではあるのですが、こういったサプライズをいただけると途端に聖都が恋しくなります。
ご存じのこととは思いますが、帝国の西に面するナビレラは乾燥地帯で、現在私がいる帝国の地域にもその片鱗が見えます。農作物や物資に困窮して民たちが挙兵したのだと思うと胸は痛みますが、どうやら状況を顧みた帝国の方もナビレラに対して講和を持ちかけようという話もあるようです。
この講和がうまくいけば、思いの外、早く聖都へ帰ることも叶いそうではありますし、このままナビレラの人々が冬を越すのも辛いことでしょうから、早い解決を祈るばかりです。
ところで、セシリア様が前回お手紙に書いてくださったミーナのことですが。
お恥ずかしい話ですが、あの子が字が読めないことには全く気付いておりませんでした。
私は自分が、あのくらいの年齢ではもう読み書きは当たり前のようにできていたので、その感覚で物事を見てしまっていたのですね。考えが至らずお恥ずかしい限りです。
もしかしたら、あの子が私の前で読み書きをできないことを恥ずかしいことと思い隠していたのかもと思ったら、気づかずにいたことでかわいそうなことをさせてしまったと心が痛みます。
以前、街の学び舎に通わせることも考えミーナと話したこともあるのですが、あの子が自分が獣人であることに引け目を感じて尻込みをする様子を見せていたので、結局実行できないまま現在に至っていました。
神聖力に関しても同様で、一度測定をさせることも考えたのですが、あの子が大勢の人のいるところに出るのをあまり好まないと思っていたので、結局そのままにしてしまっていました。
もし、セシリア様とミーナでお話しいただいてあの子が望むのでしたら、お手数をおかけして申し訳ないのですが神聖力の件も含めてあの子のことをお任せしても良いでしょうか?
あの子の将来のことを考えると、いつまでも家に閉じ込めておくわけにも行かないとは思っていたのです。
本当に、ミーナのことを大切にしてくださり、ありがとうございます。
このお礼は必ず、聖都へ戻った時に埋め合わせをさせてくださいね。
ヴィクター・ドヴォルザーク
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